第12話 逆行

「これでラストだな」


 渋谷にて虐殺を繰り広げていた祓魔師は約四十名。

 全員が『クラスⅣ』ほどの雑魚とはいえ、それらを僅か九分で片付けた如月の実力は言うまでもない。


 ――とはいえ、死傷者数は多い。


 祓魔高から派遣された祓魔師――常闇は渋谷駅へと赴いていたし、他の職員はそこまで強くない。


 下手をすれば雑魚に負ける可能性もある。

 実質的に一般人を助けられるのは如月のみ。しかし彼もまた、ユーリッヒに足止めをくらっていた。


 その間、渋谷は地獄と化していた。


「チッッ」


 最後の祓魔師を葬り、そのまま踵を返す。


 ――――。


「終わったぞ、


 ――――。


「おいクレープ屋さんの件は忘れろ。悪かったよ」


 ――――。


「……ああ、これから病院へ行く。結界で常時守られてるとはいえ、もしかしたら襲撃を受けてる可能性もあるからな」


 ――――。


「お前は祓魔高に戻ってろ」


 ――――。


「大丈夫だ」


 少女と言葉を交わし――否、交わしたと思い込み、歩みを進める。

 それはなんとも異質だった。


 最強の祓魔師が『幻覚』を見ているなど――。


◆◆◆


「ありがとうございます、立川くん」


「そんなことより、大丈夫ですか!?」


 渋谷駅。

 少女が逃げたのを確認し、立川は常闇へと駆け寄った。


 ――見れば酷い傷だ。


 腹部を刺され、口元は粘ついた血で汚れている。

 しかし常闇はその痛さや苦しみを全く顔に出さず、いつも通りの無表情で告げる。


「大丈夫です。立川くんも、怪我はありませんか」


「僕は大丈夫です」


「なら良かった。……私の命令に背いてここに来たことを叱りたいところですが、命を救ってもらった立場でそんなことはできませんね」


「でも僕は……」


「ですがこれからは、どうか私の言うことを聞いてほしい。万が一、立川くんが死ぬようなことがあれば――」


「……」


「私は、今度こそ――」


 そこから先を言うべきか悩むように黙り、やがてそのまま無かったことにするかのごとく前へ歩き始める。


「先生!」


「なんですか」


「僕は戦えます。せっかく祓魔高に入ったんだ。僕だってみんなを助けたい。役に立ちたいんですよ!」


「……私の教え子に、あなたと同じようなことを言った人がいます」


「――え」


「もうこの世にはいません――いや、いないはずですが」


「どういう……」


「先程の少女――『血川結衣』は、私の教え子です。私が至らないばかりに守りきれなかった、大切な――」


「なんでそんな人が! あの子は常闇先生を殺そうとしてたんですよ!?」


「それでも、彼女は――」


 大切な大切な、生徒。

 特に彼女は、常闇にとっても大きな存在だった。


◆◆◆


 あれは六年前。

 時は2014年に遡る。

 二人の教師が別々の道を歩むと決めた、あの事件だ。

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