第7話 襲撃者
「これが噂の如月――懸賞金一千万ドルの大物!」
「一時期前は五百万ドルだったんだがな」
「どっちでもいい。最強は僕が殺す」
「おいお前――――」
最強を前に、殺害宣言をする男。
いや、その名を――。
「僕はマルクス・ゲルシム。しっかり脳に刻め」
刹那。
歪んでいたマルクスの力場が急になくなる。
姿も見えなくなり、完全に視界から外れ――、
「瞬間移動――」
一瞬で看破した如月。
さらに言えば彼は、転移先が上空か背後しかないことにも気づいていた。瞬間的に視界内の力場の歪みがなくなったことで、選択肢が絞られたのだ。
そして。
「真上に転移しなかったのはビビってるからか? それとも出来なかったのか?」
背後から振り上げられたナイフ。
それが如月の背中に突き刺さる寸前で弾かれる。
「霊力を扱える人間に、純粋な物理攻撃は使わないことだ。ましてや俺なんて――」
――霊力装填。
――爆物装術。
「なっ――!?」
すぐさまに振り向き、唖然とする金髪の男に向けて乱雑に放った。霊力を圧縮した『塊』を射出し、マルクスが立っていた場所が思いきり抉れる。
本気になればこの森一帯を更地にできるが、流石にそれはしなかった。
「もらった!」
再び、消えた力場が背後で復活。
先程と同じような展開に、如月は呆れたように息を吐く。
「俺を殺すべくはるばるやって来た海外の祓魔師だろ? もっとこう、強くても良いんじゃないか」
呟いた瞬間。
如月の背後で轟音が響いた。
それはあらかじめ地面に散布しておいた霊力が、自動的に爆発した音だ。
「あ――――」
まるで対人地雷のように吹き飛び、足を破裂させられたマルクスは数メートル先でわたわたと蠢いている。
両足を欠損した今、彼が再び瞬間移動を使おうが脅威にはなり得ない。それでもしっかり目を離さぬよう努めながら、ゆっくりと歩み寄る。
「せっかくお前も霊力が使えるのに、霊術の瞬間移動は条件付き――どうにも勿体ないな」
「な、ななな、なんで……」
「敵の背後にしか飛べないテレポート。普通は相手へ瞬時に選択を迫ることが強みな瞬間移動の利点を潰してんじゃねぇか。後ろに来ると分かってれば対策できるだろ。アホか?」
――圧倒的な純度を誇る霊力。
――それを惜しみもなく使い果たせる戦闘センス。
――相手の技を瞬時に看破する頭脳。
全てをもって『クラスⅠ』。
これが、『最強』と謳われた祓魔師――如月魁斗。
その片鱗を嫌というほど触れたマルクスは、もはや泣き叫ぶしかなかった。
燃えるような痛みを伴って出血する両足、そして今から殺されるという恐怖。二つが同時に襲いかかり、全てが臨界点を迎える。
「選べよ。今ここで死ぬか――俺に協力するか」
命を刈り取るにしては静かすぎる音が、暗い森に響き渡った。
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