第4話 転校生
「今日から新しい転校生が来るって話だろ?」
「そうやなぁ。なんでも如月先生曰く、祓魔高の最高戦力になる得るとかなんとか……」
「おい瑠動、その話マジか? バケモンみたいに強いってことじゃねぇか。琴音はどう思う?」
東京都立 対怪異祓魔高等学校。
――通称、祓魔高。
その校門を通って校内へと歩く三人は、とある『転校生』の話をしていた。
話を振られた琴音――長い前髪で顔を覆い隠した内気な少女は、大袈裟にあたふたしながら、慣れない口調で微かに呟く。
「優しいと、良いな……」
「強い祓魔師って大体、頭のネジが外れてるおかしいやつばっかりじゃねぇか。如月先生がいい例だよ。療養中の常闇先生は例外だけど」
「そりゃ分かるけど、言葉に気ぃつけや。わざわざ琴音を心配させることないやろ」
訛りのある男は、琴音の肩を優しく叩いた。
対して琴音は、存分に伸ばした前髪の内側で、微かに安堵するような笑みを浮かべる。
「おはようございまーす」
と、その時だった。
いきなり背後からかけられた声に、全員が驚愕と共に振り返る。それは数日前、夜の公園で如月が体験したものだと、三人は気づく訳もない。
「気配、が……」
大抵の祓魔師は、魔力や霊力から人の気配を感知することができる。一般人含め全ての人間は、少なからず体から魔力を放出しており、その微弱な力場を知覚しているのだ。
だから分かる。
この異様なまでの霊力は、化け物じみた力場の歪みは――。
「お、おはよう。君、転校生……やんな?」
今、この時。
祓魔高二年生の三人は理解した。
彼こそが如月先生の言っていた転入生であり、本当に、祓魔高の最高戦力になり得る人間なのだと。そして自分たちでは決して届かない高みに到達している。本人にその自覚があるかはさておき、遥か頂点に君臨するべき強さを持っている者だと。
――彼を中心に歪んでいる力場が、それを物語っていた。
◆◆◆
「な、なんで転校初日から任務やらされてるんですかね……」
立川涼真は困惑していた。
恐怖ではなく、困惑していたのだ。
眼前、胴体から
『お前ら二年生と立川には、早速だが任務についてもらう』
とは今朝、如月先生が言っていた言葉だ。
訳も分からず祓魔高に入学させられた挙句、怪異と戦わされている。
「本当に、誰か説明してくださいよ……」
この世に人ならざるものがいることは知っていた。だから戦う力のある立川は、一般人を守るために夜の街を徘徊していた。それが良いか悪いか、『怪異』を殲滅する組織とやらに目をつけられて無理やり入学させられてしまうとは。
「まあ、怪異を倒してみんなの安全を守るのは、本望ですが」
「ぶつぶつ言わんと、来るで!」
真夜中の森林とは、随分とホラー感の強い。
辺りを生い茂る木々が、素早く動き回るテケテケを捕捉するのに邪魔だ。
木から木へ、障害物を利用して少しずつ迫ってくるテケテケを見て、立川の横に並ぶ男――瑠動淳也は冷や汗を流していた。
「大丈夫です、僕がいます」
瑠動にそう言って、手を横に一閃。
霊力が解き放たれ、横向きの斬撃がテケテケを――森林ごと襲う。
「凄まじい霊力……。立川、キミほんまバケモンやで……でもまだ終わってない――」
胴体より太い木々が一瞬にして切断され、一気に崩れ落ちる。
あわよくば大質量の木に押し潰されていればいいが、しかしどうやらそうにもいかないらしい。
「多分俺の予想やと、あのテケテケは『クラスⅠ』の大物や。俺だってこんな強さの怪異とは戦ったことあらへん」
それは、木に押し潰されたぐらいでは死なないと、そう告げているようだった。
実際、倒れた木の奥でまだ立ち上がる影が見える。
「しぶといですね」
「当たり前や。あんな怪異、生徒がこなす任務の範疇やない!」
「なるほ――」
刹那。
人間では認識できないほどの一瞬。
「立川、危ない!」
気がつくと後ろの木に体が叩きつけられ、反応が遅れる。
『■■■■■■』
「ああ、大丈夫だ。ありがとう」
告げて、起き上がる。
■■■が守ってくれたおかげでダメージはない。しかし吹き飛ばされたのは事実、その体勢を立て直す前に次の攻撃が――。
そう思っていた。
怯んだ隙を狙ってくると、考えていた。
しかしそれは間違いだと知ることになる。
「瑠動さん、結界……!」
――結界術。
それは推定『クラスⅡ』以上が使える技。
設定した対象を通さない隔絶した壁を作り出す。
その隔たりは、並大抵の力でどうこう出来るものではない。
故に祓魔師は、常に結界術に気を配る。
形勢を逆転できるほどの力が、結界術にはあるのだ。
――その結界術が、二年生の関西弁が特徴的な男、“瑠動”の周囲で発動した。
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