第2話 怪しげな少女と不良少女の思い

 俺は、あれから1ヶ月の働き続けた。

 意外と、続くもので大体の女の子とは普通に挨拶や、ちょっとした雑談くらいは出来るようになった。

 

「家守せんせぇ~、今回の授業難しすぎてわかんな~い。もうちょっと、簡単な問題だしてよ~」


「お前な~……こんな、事も分からないんじゃ、外へ出ても何も出来ないぞ」


「せんせぇ~」


「何だ? まだ、誰か分からない奴でもいるのか?」


「せんせぇ~って~、童貞?」


「何を言い出すんだよ! 今は、その話と授業と関係ないだろ!」


「え~だって、気になるんだも~ん。いいじゃ~ん、私まともな男と付き合ったことないんだし、家守先生みたいな女を知らない童貞だったら、楽に付き合えるし簡単かなって」


「何が、簡単に付き合えるだよ! そもそも、生徒と教師はお付き合いできないからな! 後、女の子が童貞童貞言うな!」


「は~い」


 全く、コイツらときたら俺に慣れきたからって、何時も俺が交際経験がないからってバカにしてきやがる。

 そう言う経験が、豊富だからって恋愛でマウント取ってくるし。

 本当に俺は、ここにきてから散々なめに遭ってる。

 俺が、溜め息をつき疲れた顔をしていると、先ほど失礼な事を言ってきた少女は、ニヤニヤと薄気味悪い笑顔をこっちに向けてくる、手で口を抑えていて今にも吹き出しそうになっていいる。


「実に……下らないですね! 早く、授業終わらせてくれませんか? 何もやることないんでしょ?」


 黒い髪の、如何にも優等生みたいな少女はそう言った、屈託のないニコニコした表情をしながら。

 優等生みたいな少女がそう言った瞬間、周りは凍りついたような顔になり、青ざめた表情をしていた。

 それも無理もない、この子こそ殺人罪で少女少年院に入った、人を殺して快楽を得るような異常な変態の噂の少女、金城豊美きんじょうとよみなのだからな。

 

「本当に……皆さんって、頭が悪くて下品で何も出来ない人達ですよね~それに、犯罪者なんてどうしようもないですからね~あなた達の、未来はどのみち地獄です!」


 金城からは、とてもその外見からは想像も付かないであろう、暴言の数々を受刑者仲間に吐く。

 しかも、にこやかに嬉しそうに声高らかに。

 それをみかねて、この少女少年院のリーダーの不良金髪少女の天井姫咲てんじょうきさきが立ち上がり、声を上げる。

 仲間をバカにされてキレいたのか、先ほどまで頬杖をつきながらぼーっとした顔からは、想像がつかないような顔をしていて、眉間にシワを寄せていて血管が浮き出て、滅茶苦茶不機嫌に怒っていてとてもじゃないが、自分ではこれを沈めること出来ない。


「あんた! いい加減にしなさい! ここは、私達の場所なのよ! そもそも、あんたみたいないいこちゃんぶった奴が来る場所じゃないんだよ!」


 金城と天井は、目を合わせにらみ合いお互い譲ることはない。

 部屋からは、何か黒い空気のような物が流れ、よどんでいて周りはそれを見て青ざめ立っているしかない。


「あんたを殺す!」


「いいですよ……やりましょう?」


 金城は、鋭い眼光に変わったと思ったら天井の背中に周りこみ、腰からスプーンの持ち手を変形させたと思われる、ナイフのような刃物の尖った先を首に突き付けて不気味な笑みを浮かべる。


「どうです? このまま、やりますか? 死にたいですか?」


「わがだぁ! もう……やめでぇぇ!!」


 天井は、金城のその狂った行為が怖くなったのか泣き叫び、刃物を首に向けるのを止めて貰うため、必死に顔をグショグショにしながら頼み込む。

 金城は、そんな天井の姿を見て満足したのか、普通の明るい笑顔になり実に楽しそうに自分の席に座る。


「ぢぐじょぉぉ!! おぼえでろぉぉぉ!! ひっく! ひっく!」


 天井は、大量の涙と鼻水を垂れ流しながら、悔しそうに顔を机につけて泣き叫んで収まりが効かなかった。



 それから、授業が終わり責任者の氷室が状況を見て、唖然しながらも表情を一切変えず、冷静に俺に何が起きたのか聞く。


「何が……あったんだ……家守刑務官」


 俺は、ことのてんまつを氷室にこと細かく、声を張り上げながら手招きを入れて説明したが、氷室は眉間に深いシワを寄せて腕を組み、しかめっ面をする。


「まずいな……」


「え? 何で、ですか?」


「これは、我々の責任なるかもしれないぞ……家守刑務官」


「はい!? 本当ですか!?」


「それは、そうだ……本来の教育の仕事が出来てないのだからな」


 氷室は、俺にこのままでは生徒達が更に心を閉ざして、悪いことをして更正出来る機会を失ってしまうと言う。

 俺は、ことの重大さに漸く気が付くが既に遅かったのか、天井はプライドが傷つけられた為か、何も言わなくなってしまった。

 何を聞いても、俺の言葉は無視されて氷室の言う質問にしか答えなくなっていた。




 俺は、また氷室に呼び出されて会議室と書かれている、部屋に入り椅子に座り天井がこのままいくと、逆にもっと酷い罪人になると聞かされる。


「最悪じゃないですか!!」


「し! 聞こえるだろ!」


 氷室に、俺は小さい声で叱られてどうにか正気を戻して、改めて解決方法話してもらった。


「だから、お前が天井の問題を解決しろ!」


「え? 何で、そんなことをしなければいけないんですか!? 仕事じゃないですよ! それは!」


「仕方ないだろ! それに、お前のクラスなんだから監督責任だ! どうにかしろ!」


「そんな~……俺、まだ1ヶ月くらいしか経ってなくて、全然アイツらの事分かってないのに~」


「ごちゃごちゃ言うな! いいから、やるんだ!」


 氷室の言動に圧倒されて、過去に何があってああなってしまったのかを聞かされる。

 

「天井は、元々暴走族のリーダーでプライドが高いんだよ……アイツは……だから……傷付きやすい……しかも、父親とも不仲でそれをきっかけでグレたんだ」


「そうだったんですか」


「それでな……親御さんは、大変勉強熱心な方の為、それも拍車をかけて誰にも心を開かなかった」


 氷室は、淡々と天井がここまで来てしまった経緯を話すが、何時もの冷徹なイメージとは想像もつかないような悲しそうな顔をしていた。


「だから……私は、アイツには滅茶苦茶気にかけていた……それで、やっと最近過去のことを打ち明けてくれたんだ……」


「そうでしたか」


「だから! お前は、私の代わりにアイツを導け! 更正の道へと!」


「そんな、滅茶苦茶な……」


 俺は、どうやら勘違いをしていたようだ。

 氷室と言う女は、冷徹な人としての心を持たないロボットのような、人間だと思っていたが全くの反対だった。

 仕事が終わり、居酒屋へと誘われて酔いつぶれて、絡み酒をしている氷室を肩で背負いながら家へと送る。


「家守! ひっく……絶対に、お前が……天井の、事を真っ当にしてくれることを信じてからな!」


「分かりました! 絶対にしますから、とっとと帰ってください!」


 俺は、家のドアを開けて部屋に入る氷室を確認した後、自分の家へと重い足を上げて帰る。



 氷室の約束通り、俺は天井と話し合う為に会議室と書いてある、部屋へと呼び出して話を聞こうと父親と何があったのか、本人の口で聞くことに。


「何? あんたに、何でこんなことを話さなきゃいけないのよ!」


「まあ……話さなくてもいいよ……だけど! 君は、このままでいいのか! 本当に、ただの犯罪者のままで!」


「良くないわよ……でも! 仕方がないじゃない! もう、終わったのよ! それに……誰も私の味方なんていないのよ……」


 天井は、叫びなから眉間にシワを寄せて、そう言いながらも俺に今までの事を話し始める。


「私はね……本来、大企業の社長の娘なの……だけど、勉強が苦手で良く怒られていたわ……お父さんに……その時は、まだよかったのよ……だけど! 私が高校受験に失敗して、底辺高校に行くことになったの……そんな私を見て、父は愛想をつかして……ほとんど、私の面倒を見てくれなくなったわ……メイドの人以外は……だから、父に心配させようと……」


「お母さんは……いなかったの?」


「母は、私が幼い時に病気で死んだわ」


 天井は、涙を流して体をプルプルと震わせながら、俺に問いかけた思いの丈をぶちまけるように。


「あんたは……私を、裏切らない……」


「……うん」


「嘘だ! 絶対に、裏切るでしょ! 私は信用しない!」


「だったら、信用しなくていい……だけど、父親との面会の日は近いんでしょ?」


「何で、あんたが!?」


「聞いたんだよ……氷室さんに」


 天井は、唖然しながら顔をうつむけて、目を見開き口を塞いでいた。


「だから……これは、氷室さんの言葉として受け取ってほしい……ここへ、出るまで面倒見続けて立派な大人にして見せるって!」


 天井は、俺の話を聞いて開いた口が塞がらなかった。


「信じられない! 私は、教師や高校の時のクラスメイトにも裏切られて、無視されていたのよ!」


「ソイツらと、俺と氷室さんを一緒にしないでくれ!」


「じゃあ、あんたと氷室さんはどう違うの!」


「俺と氷室さんは、本当の天井を知っているから……純粋で、人から愛されたいそんな天井を」


 天井は、足から崩れ落ちていくようにひざまづく。

 そんな中、ロッカーからガタガタと何かが暴れる音がして、ドアが開くとそこから氷室さんが出てきた。


「良くやった! それでこそ、私の部下だ!」


「見たんですか! それなら助けて下さいよ! あなたの、元生徒でしょ!」


「これも、部下の教育だからな自分で乗り越えんとな!」


「後、普通に出てきてくださいよ……」


 俺は、天井を背負い部屋へと連れていき、その後仕事終わりにまた氷室さんが酒を飲むといい、付き合わされてまた酔いつぶれて、部屋へと送りその日は疲れていたのか、家へと着くと自分のベッドに横たわりすぐに寝てしまった。



 次の日、父親との面会があると直前で氷室さんに言われて、大慌てで準備をする。

 全く、氷室さんは意外としっかりしてないな~と思いながらも、天井の父親の元へと向かう。

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刑務官の俺は女子少年院で少女達の面倒事を見ている 黒金 影輝 @voltage

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