タイムリープして昔クリアできなかったゲームにリベンジする俺

市川英坊

第1話

 俺の名前は須永たすく。二十五歳。

 一応大学は出て、一応会社にも勤めている。

 だが正直な話、これといった大きな目標があって進路を選んだわけじゃない。

 大学進学の時も会社を探していたときも”なんとなく”って感覚で行き先を決めていた。

 けど、だからって不満があるわけじゃない。それなりに楽しい人生が送れていると思う。

 俺がそう思えるのはひとえに毎日の生活の中にゲームがあるからだ。


 物心ついた時にはすでに生活の中にゲームがあった。

 ゲーム好きな父親の影響で遊ぶゲームに困ることはなかった。

 ファミコン、スーパーファミコン、ニテンドウ64、セガサターン、プレイステーション……。世の中に発売された主だったゲーム機はたいがい家に置いてあった。

 ゲームこそ我が人生――といっても過言じゃないかもな。


 そんな俺の毎日の楽しみはもちろんゲームだ。

 とくに新作ゲームが発売された日は楽しみで仕方ない。

 今日も会社帰りに電気店に立ち寄ると予約していた新作ゲームをゲットした。

 両手に抱えたバッグの中にはさっき入手した新作ゲームが入っている。

 ムフフ。

 明日は待ちに待った週末だ。帰ったら徹夜でゲームを攻略してやるぞ。そのためには食料が必要だな。駅についたら帰り道のコンビニで徹夜用の食糧と飲み物、お菓子を買いだめしなくては。

 俺は週末の計画を妄想しながら、会社帰りの電車に揺られていた。

 電車から降りると俺は自転車置き場へと向かう。

 そこで見知った姿を見かけた。

「あれって……砂羽さわ?」

 それは三雲砂羽みくもさわだった。小学、中学と同級生だった三雲砂羽。

 高校では別々の学校になってその後すっかり会わなくなっていたが、久しぶりに見かけてすぐに彼女だとわかった。

(砂羽もこの電車だったんだ……)

 俺はなぜか物陰に姿を隠した。顔をあわせたところで何と話せばいいのだろう? 何より昔好意を持っていたことが、なんとなく気恥ずかしくて、話しかけられない理由になっていた。

 彼女は紺色のスーツを着ていた。やっぱり砂羽も会社帰りなんだろうか。

(俺のこと、覚えているかな)

 もじもじとしている間に砂羽は自転車の鍵をはずすと自転車置き場から出ていってしまった。


 俺は小学生の頃を思い出していた。

 あの頃、俺はいつも仲の良い三人組でゲームをして遊んでいた。

 その一人が今見かけた砂羽だ。そしてもう一人がタケちゃんだ。俺たち三人は学校が終わるととくに約束もしていないのに俺の家に集まってゲームをしていた。それは俺の家に集まればいつでも最新のゲームが揃っているからだ。 

 三人でいろんなゲームをした。

 けどそれは三人で同時に遊べるゲームというわけではなく、一人用のゲームを交代でプレイしたりして、その間ギャラリーになると後ろからあーだこーだゲームに茶々を入れるのだ。

 そんなゲームを遊ぶ時間が最高に楽しかった。

(あの頃は毎日が最高に楽しかったな……)

 俺は自転車のペダルに足をかけて、自転車置き場を出ていった。


 一人暮らしのアパートに帰宅して扉を閉める。

「はぁ……」

 新作ゲームを買った興奮もどこへやら。俺はさっき見かけた砂羽のことがどうも気になっているらしい。

「まさかあの子も同じ街に住んでいるとはな」

 俺は誰に聞かせるわけでもなく、でかい独り言を吐いた。

「考えても仕方ない。どうにかなるわけじゃないし。――さぁてゲームしようっと!」

 俺は自分に言い聞かせるようにことさら元気な声を出して靴を脱いだ。

 ――と。

 俺は靴が上手く脱げずに思いっきり狭い廊下に転倒。その勢いで壁に思いっきり後頭部をぶつかてしまった。


「いってぇ」

 俺は後頭部をなでながら目を覚ました。

 瞬間的に気を失っていたらしい。

「どうしたの?」

 母親がリビングから顔をのぞかせてこっちを見ている。

「転んじゃった」

「もう気をつけなさいよ」

 そういうとすぐに顔を引っ込めてしまった。

(……ん? 母親? なぜ一人暮らしの俺のうちに母親がいるんだ。しかも若い……)

 俺は立ち上がると違和感を感じる。なぜか妙に

(なんかおかしいぞ)

 あたりを見回すとそこは一人暮らしのアパートではなく、勝手知ったる子供の頃生活した実家だった。

(夢か? 夢なのか)

 俺はすぐ右手にある洗面所に入ると鏡を見つめた。

 そこには小学生の姿をした自分が鏡を見つめていた。

「は? どういうこと?」

 これは夢? それとも俺、タイムリープしちゃったの?

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