第2話 迷子を拾った……出自は異世界!?

 「ひとまず帰る手段は確保できたけど……この子のことどうやって説明しよう……」


 耳に当てていたスマホをポケットにしまうと日向はため息を吐く。その視線の先には日向と然程年の変わらない少女が壁にもたれ掛かって眠っている。この状況を見た母はどのような反応を起こすかが気掛かりだが、放っておくわけにもいかないと決めた日向はただ母の到着を待つのみだった。


 「むむぅ……?そこにおるのは日向か?」


 そんな時日向の耳に聞き覚えのある声が聞こえ近くの角から一人の老人が現れた。そこそこに年を食っている筈なのに、未だに曲がることのない背筋とガタイの良さは絶対に印象に残るその正体は。


 「あれ?じいちゃん?こんなとこでどうしたのさ?」


 「あー……あれじゃ……喉元まで来とるんじゃが、えー…………そうじゃ散歩じゃ!ちょっと暇じゃったから日向が勧めた路地を散歩してみようと思っての」


 日向の祖父、石清水いわしみず源蔵げんぞうだった。今時珍しいなんてレベルじゃない和服を身に纏い、下駄で歩く時代錯誤もビックリなおじいちゃんだった。


 「珍しいね。普段はばあちゃんの入れたお茶飲んでグータラしてるのに」


 そんな源蔵に日向は普段の様子を上げて散歩をしていることを不思議がったことに気付いた源蔵は頬を掻き目を逸らした。


 「老人の暇を甘く見てはいかんぞぃ……時に日向よ」


 「…………なに?」


 日向の話を改め真剣そうな雰囲気を醸し出し始めた源蔵に、今まで見たことのない雰囲気を感じ取った日向は僅かな緊張をもって先の言葉を促した。


 「そこの女子おなごはお前さんが引っかけたのかの?」


 「はっ?えっ?」


 しかし帰ってきたのはただの孫の恋愛事情を聴きたいだけの言葉だった。


 「こんな人目の付かんとこでナニをしておったじゃな?若いのう……」


 「してねぇわ色ボケジジィ!!」


 とんでもねぇ爆弾をブチ込む源蔵だった。当然思春期の日向は真っ赤に赤面し強い言葉で返してしまう。そこにまた一人路地にやって来た。


 「日向ー迎えに来たよー……あれっお父さんもいたの?……ってその女の子どうしたの!?」


 日向の母、朝比奈琥珀こはくが日向を迎えに来たようだが琥珀は日向のすぐ近くで眠っている少女を見て声を荒げた。


 「日向が珍しく迎えを頼んできたと思ったら行き倒れ!?早く救急車を―――」


 「落ち着け琥珀。この娘はお前が養子に取ると言っておったじゃろうが」


 「「えっ?」」


 動揺している琥珀に日向が困惑していると源蔵が更に大きな困惑の種をまき散らした。養子をとる……そんな話は少なくとも日向は今の今まで聞いたことのなかった事だ。それは琥珀も同じようで二人そろって声を上げたが。


 「ああ、そう言えばそうだったね。一旦お父さんの家まで行こうか。私は車で待ってるね」


 「えっ?母さん?」


 たった一瞬で意見を翻した琥珀に日向は驚きを隠せなかった。それと同時に得体の知れない恐怖が日向の背を舐めているかのような感覚に陥った。


 そんな日向をよそに源蔵が普段と変わらない声色で続ける。


 「これでいいかの……ああ、心配しなくとも琥珀は大丈夫じゃぞ。ちょっとだけ認識を誤らせただけじゃからな」


 「え?認識を誤らせるって?」


 「深くは聞くな。はよう説明せんと違和感を持たれる。その前に日向に聞かねばならんことがある」


 日常ではまず使わないであろう意味不明な言葉にまた一層混乱する日向だが、源蔵が真剣な顔を向ける。正直先程の件もあって胡散臭く感じたが日向は耳を傾けることにした。


 「実はな……儂は異世界で魔王を倒したことがあっての……」


 「こんな時に大法螺かよっ!!」


 「人の話は最後まで期間かっ!実話じゃ!」


 「…………ついにボケたか?」


 流石に日向はキレた。真面目な話を期待していたのに出てきたのは小学生でも分かる法螺話だったのだ。だが源蔵は大慌てで否定する。最早日向は源蔵のボケを心配し始めていたが。


 「理解できんのは分かる。儂だって信じん。じゃが本当の事なんじゃよ……さて話を戻すが、そこの女子はどこで出会ったんじゃ?正直に話すんじゃぞ」


 「…………その子が寝てる近くに急に現れた。言葉が通じなくて泣いたからお菓子を食べさせたら眠った」


 自身の祖父が何故か虎か何かの猛獣の姿と重なって見え、嘘偽りなく聞かれたこと以外のことまで喋ってしまった。目の前には普段の好々爺然としていた源蔵の姿はなくまるで別人のような覇気を纏った誰かがいるような気になってしまった。


 「そうかそうか……その子の言葉が通じんのは当たり前じゃ日向。なんせこの娘は……この星の人間じゃないからのう」


 「…………え?」


 先ほどまでと打って変わって元の雰囲気に戻った源蔵は「まさかまだ『道』が残っていたとはのう……」と呟きながら日向に衝撃の事実を告げた。


 「そこ娘はの異世界から来た『迷い人』なんじゃ」


 「…………え?」


 日向はただ間抜けな声を上げる事しかできなかった。

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