第8話 質問




『何だか。何だろうねえ。あの子。見た目は立派な大人なんだけどねえ。目にたんと涙を浮かべてさ、でも流すまいと堪えている幼い姿が見えちまって。泣きなさんなって。これで欲しいもんを買いなさいって。お金をあげたって。あんた。はした金だよ。毎回百万くらいしかあげてないさね。うん?騙し取られている?騙し取られてようが何だろうが、私があげたんだ。別にどーでもいいさね』




『う~ん。なんかあ。可愛くって~。貢ぐってゆうの~。そうそう。貢いだだけ~。騙し取られてないってば~』




『騙し取られたんだよ!あんた。あんなしゃんとした外見で雰囲気で話し方で。儲け話があるって言われたらそりゃあ、お金を預けようって思うでしょうが!私がバカだったんだよ!あんなやつに騙されてさあ!』




『まあ。ぶっちゃけ?好みだったから?財布のひもがゆるんだっての?騙されてるかな~って?思いつつ?でもあげたら助かるって喜ぶからさあ。まあ、でも。やっぱり?騙すのはよくないからさあ。うん。ちゃんと?罪は償ってほしいかな。騙された人多いんでしょ?』




『家族があいつにお金を騙し取られたんだ!騙されたショックですっかりやつれちまって!あんなやつ!死刑にしちまえ!死刑に!』





 被害者の数。

 被害額。

 詐欺の手口。

 様々な被害者、及び被害者の関係者の声。

 被告人の詐欺に及んだ、就職が長続きしなかったという理由。

 被告人の被害者及び被害者の関係者に対する真摯な謝罪及び反省文。

 これらを鑑みて。

 

 被告人を懲役二年に処する。その刑の一部である懲役六月の執行を二年間猶予し、その猶予の期間中被告人を保護観察に処する。




 これはつまり、猶予しない一年六か月の懲役刑の執行を実際に受けて服役し、その服役が終わったのちに、猶予された六か月の執行猶予期間である二年間が始まる、という事らしい。











 刑務所の面会室にて。

 

「仙田さん。ぼくってイケメンですか?」


 受刑者である仙田貴晴の面会者である美紀彦の質問に、立ち会っていた刑務所の職員は何だこの質問はと、思わず遠い目になってしまった。











(2023.9.27)



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