第7話 イケメン




(ま、まあ。イケメンかどうか決めるのも、人それぞれだよね)


 ぼくはイケメンですかって。

 世界中の人に尋ねたとして、世界中全員がイケメンですと答えるわけがない。

 九割だろう。

 残り一割はそうじゃないって答える、か、な。

 まあ。まあまあ。うん。しょうがないよね。うん。

 そりゃあそうだ。

 その一割に、千田さんが入っていたって、おかしくない。

 うん。

 いいじゃないか。

 イケメンに見られなくたって。

 うん。

 あんなに何回会っても、じっと見てくれる人なんて、この先会えるかどうかなんてわからないんだから。

 お金ありきの関係だったとしても。


(………うん。いいじゃないか。お金ありきの関係だって。お金を払っても、まっすぐに見てくれる人なんてきっともう見つけられないよ。うん。あれ?公園。どうしたのかな。人がいっぱい集まってい、るって)


 ぼくは自分の目を疑った。

 だって。プロレスラーみたいな人に一方的に殴られている人がいて。

 殴られているその人が千田さんだったんだ。

 あれ。

 あの。

 人間レンタルサービスの、あれ、かな?

 暴力シーンの、撮影、かな。

 だって、みんな、撮影、してる、し。

 止めよう、とか、警察呼んだ方がいいんじゃないかって、みんな、言わないし。

 でも、本物の血じゃ、ないの、か、な。

 顔、ふくらんで、ない、か、な。

 青あざとか。

 本当に、撮影。なの、か、な。

 千田さんに、尋ねて、から。の方が。

 でも、もし、邪魔をしてしまったら。

 ぼくのせいで、撮影を最初から撮り直しってなったら。

 すごい迷惑を、かける。し。

 もし。

 もしも、本物の暴力だったとしても。

 ぼくは、強くないし。

 もし。止めに入ったぼくも暴力を振るわれたら。

 顔を殴られでもしたら。

 ぼくの好きなイケメンの顔が変わってしまう。

 ぼくの好きじゃない、イケメンじゃない、顔になってしまう。


(………そうじゃないでしょうが!)


 ちがうちがうちがう!

 もし本物の暴力だったら止めなくちゃ!

 撮影だったら、すんごく謝る!お金も払う!


(本当のイケメンってのは!)


 顔がふくれあがろうが、青あざができようが、歯が欠けようが。

 イケメンはイケメンのままなんだ!




「千田さん!」




 ぼくは走った。人を押しのけて走って走って走った。

 千田さんの元へと。











(2023.9.26)



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