第6話 助け




 ああ、くそ。

 いてえな。

 いてえ。

 全身容赦なくボカスカ殴りやがって。

 こいつ。

 ただ楽しんでいるだけじゃねえのか。

 母親の代わりに罰を与えるだのなんだの言っていたが。

 本当なのかどうなのか。




 ついて行った先に辿り着いた公園の広場で、自宅に来たこいつは声を大きくして言ったのだ。

 こいつは詐欺者だって。

 母親がこいつに大金をだまし取られたって。

 これから罰を与えるって。

 母親に見せる為なのか何なのか。

 スマホを三脚の上に乗せて、また声を大きくしてに言ったのだ。

 撮影を始めますって。


 人間が次から次へと近づいて来て、今じゃ、俺とこいつを囲んで、スマホやら何やらで撮影してやがる。

 本物の血が出てんのに。本物みたいってはしゃぐんじゃねえ。

 ドラマの撮影って本当に信じてんのか。

 それとも。

 ただの暴力だって知ってても、珍しさ見たさに警察に連絡してねえのか。




 ああ。くそっ。くそっ。いてえ。

 ただの殴り放題のサンドバッグじゃねえか。

 俺は、喧嘩弱いんだよ。

 頭も悪いし、体力もねえ。

 だから、アルバイト先でもすぐにへばっちまって、呆れられるか、怒られまくっている。

 しょうがねえだろうって。

 すぐに辞めていた。

 あの人がいなければとっくに。


(ああっくそっ)


 涙が浮かんで来た。

 痛いからじゃない。

 めっちゃ痛いが、それが原因じゃなくて。

 あの人に会いたいって思ったら、涙が浮かんで来た。

 会いたい、会いたいって。


 ああ。俺、

 このまま殴られ続けて、死ぬんじゃないか。

 死ぬ。

 いやだなあ。

 いやだ。

 死にたくねえ。

 やっと。

 やっと、生きててよかったって、思える人と出会えたんだ。

 出会えたのに。

 これから。

 でも。

 やっぱ、詐欺者だからな。

 人を騙して、金を稼いでたからな。

 罰。なんだろうな。

 死んだとしても。

 当たり前っつーのか。


 いやだなあ。

 いやだ。

 いやだ。

 誰か。


(美紀彦さん)




 助けて。




「千田さん!」











(2023.9.26)



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