第5話 偉大
「あああああ」
千田貴晴は畳の上に直敷きした布団の上にダイブしてのち、ごろごろごろごろと右に左にと布団の上だけで器用に転がり続けた。
恋は偉大だ。
十年ぶりに実家の両親に頭を下げて住居及び住所を確保。
美紀彦のみ人間レンタルサービスの仕事を受けつつ、配達の倉庫内作業をして真っ白な金を稼いでいた。
「あああああ」
確かに。美紀彦が懸念事項に書いていた通り。
会う回数を重ねるごとに光り始めて、今やもう直視できないくらいに輝いている。
けれど。
ああけれど。
心を鷲掴みにした顔が見られなくなったとしても。
見続けた結果、あの眩さに両の目が潰されたとしても。
構わないとさえ思ってしまう、思わせてしまう、あの輝き。
あらゆる悪行さえ包み込んで赦してしまうようなあの優しく温かい空気。
天使?
海原?
地球?
太陽?
いいやいいや。
そんなちっぽけな存在なんかじゃ、表せねえ。
宇宙の中で一番大きな存在って何だ?
ブラックホール?
いや。ブラックホールとは真逆の存在。
穴?穴の反対語って何だ?
壁か?
黒の反対語は白だから、白い壁か?
ホワイトウォールか?
いや。いやいや。
表せるもんじゃねえ。あの輝きは。あの尊くて貴い存在は。
「あああああ」
「ちょっと。
スパアアンと、勢いよく襖を開けた母親を千田貴晴は睨みつけた。
「あ?俺に友達なんかいねえよ。ババア」
「ババア?」
「あ。お母さま」
「ふん。いいからさっさと行きなさい。あんたが来るまで待つって聞かないんだから」
「ああ?まったく」
背を向けて歩き出した母親の姿が完全に見えなくなってのち、布団から起き上がった千田貴晴は後ろ髪をかき回しながら玄関へと向かった。
「おいちょっと面貸せや。
断ったら、両親がどんな目に遭うか。わかるよな。
わかりやすい脅しをかけてきた筋肉モリモリの男性に、別に両親がどうなろうが家と土地さえあればいいとクソな自分が話しかけるが、美紀彦の輝きがクソな自分を浄化したので、おとなしくその男性について行く事にした千田、もとい仙田貴晴であった。
(2023.9.26)
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