第48話 8月12日②…俺たちのエヌ…エカ…エサヌカ線!

APOLLOSTATION宗谷岬SS─


宗谷岬を出て国道238号を浜頓別方面へ進むとすぐのガソリンスタンドで給油を行う。そこが最北端給油証明書が貰える最北端にあるガソリンスタンドである。


「レギュラー満タン現金でお願いします。」


「はい!レギュラー入りますー!」


セルフスタンドではないので自分で給油キャップを開けて店員が給油を行うのだが何台もバイクが訪れている観光地でもあってか給油作業が手慣れている。


給油が終わると店員さんがキーホルダーと最北端給油証明書を手渡してくる。


「これここで給油した人全員に渡してるんでどうぞ。」


「…ありがとうございます。」


貰ったキーホルダーは小さい貝殻に文字が描かれている物なのだが、これが少し扱いが大変なのだ。


「わー綺麗な貝殻…バッグに付けよっと!」


「一花!ちょっと待った!!」


「何よハルいきなり大声出してさ。」


「その貝殻はこのケースに入れておいて。」


俺が一花に100均で売っている小型の透明プラスチックケースを緩衝材と一緒に手渡す。ちょうど貝殻が入るくらいのサイズだ。


「何これ?」


「その貝殻なんだけど凄く割れやすいから持ち帰るならケースに入れとくと良いよ。」


「そうなんだ。」


「貰った日に割れたらすごくがっかりするから…。」


「…それは嫌だね。」


このキーホルダーを貰った事のある人なら経験があるかもしれないが少しでも圧力や衝撃を加えると割れてしまうのだ。


おっさん時代にも貰ってすぐにバッグに入れたのだがセコマで買い物をする為に財布を取り出す時にぶつけてしまい割った経験がある。


記念に貰った品を半日も経たずに壊してしまうのは精神ダメージが大きいのだ。一花にもそんな憂鬱な気持ちにさせたくない為にケースを事前に用意していた。


「ここでの目的は果たせたし、次は地平線に続く道に行くよ。」


「おー!!」


給油もしっかり終えて次の目的地、地平線に続く道へと向かう。



国道238号を浜頓別方面へ走行中─


「…ねえハル。」


「…なに一花?」


「なんか眠くなってきた…。」


「ま、まあ何も無いからね…。」


宗谷岬から走る事20分、道中は左手にオホーツク海と右手に草原と丘の自然地帯が続いて行く。


余りにも人気ひとけが無い自然地帯なのと道が広い事もあってかバイクも車も走行が単調になりやすい。


途中で対向車線のライダーとのヤエー以外に同じ景色が続くので眠くなりやすいのだ。ここまで来るとあれ程嫌がっていた信号機が恋しくなるほどだ。


「もうちょっと走ったらお昼にしよう。お腹も減っただろ?」


「…うん…でも…なんか眠い。」


「だーー!寝るなよ!あと少しで到着するから。」


走り心地の良い道では眠くなる事も多いが一花のバイクが少しづつフラフラと蛇行を始めているので、しばらく声を掛け続けると休憩地点へと到着する。



道の駅さるふつ公園─


公衆浴場やキャンプ場、飲食店や宿泊施設もある道の駅だ。ここは『ホタテ丼』が有名で北海道ツーリングのライダー達の舌を楽しませてくれる。


駐車場にバイクを停めると一花に眠気の限界が来ていた様で俺に寄りかかってくる。


「も、もう眠い…。」


「ちょっと仮眠を取ればいいよ。ゆっくり休憩しよう。」


「うん…そうする。」


さるふつ公園の野原まで一花に肩を貸して連れて行き饗庭あえばに頼んで敷物とブランケットを持って来てもらい、その上に正座をした俺が一花に膝枕をして寝かしつける。


「一花さん、大丈夫でしょうか?」


「北海道の長距離ツーリングに疲れたのかも、少し休めば大丈夫だと思うよ。」


「となると紋別までは厳しそうですね。」


「予定通りには行かないのも旅の醍醐味、一花が回復したら今日は早めにキャンプ場へ行こうか。」


「分かりました。助さんにも伝えておきますね。」


饗庭が一花の体を心配して俺に確認をした後に予定変更を伝える為に鳥居の方へ向かって歩いて行く。心なしか鳥居も遠目で心配そうにこちらを見つめている。


さるふつ公園の広い野原に真っ青な青空の下でしばらく休憩を取ることにした。


おっさん時代の時は休暇期間が短い事もあって北海道ツーリングという名の弾丸ツーリングになっていたがこうして時間を気にせずにのんびりと野原で休憩するのも悪くは無い。


余裕の無い現代の社会は俺を含めて皆、自分の事で必死だ。


そんな余裕の無い心を風情のある自然が大らかに受け止めてくれる、そこが北海道ツーリングの良い所だと思う。



草原に囲まれた中でそんな事を考えながら過ごしているとしばらくして一花が目を覚ます。


「…ううん…おはようハル。」


「よっ、もう疲れは取れたか?」


「…うん、ハルの膝枕って寝心地いいからすっきりしたよ。」


「自慢の脚線美だからね、癒されなかったら困るっての。」


「じゃあその脚線美を十分に味わってやる!」


そう言うと一花が俺の太ももに頭をグリグリしてくる。


「ぎゃはははは!くすぐったい!」


「では僭越ながら私めも参加させて頂きます。」


いつの間にか俺の背後に立っていた饗庭がもう一方の空いた太ももに頭をグリグリしてくる。饗庭の表情は欲望丸出しであったが気にしてはいけない。


「ギブ!ギブ!ぎゃははははは!!」


「一体俺は何を見せられてるんで…。」


さるふつ公園の野原の上で一花と饗庭に太ももをグリグリされて悶絶している俺の絵面を鳥居が微妙な表情で眺めている。


仮眠を取って元気になった一花としばらくじゃれ合った後に目的であった『ホタテ丼』を食べに行く。



さるふつ公園内さるふつをくらう館─


「お待たせしましたホタテ丼です。」


テーブルに置かれたホタテ丼、ホタテが丼の上に円を描くように散りばめられまるで宝石の様な輝きを見せている。


「うーん、まるで海のジュエリーボックスやー!」


「…ハルってギャグセンスふっるいよね。しかも完全に真似てるだけだし。」


猿払さるふつなだけに、猿真似…なーんちゃって。」


「今のダジャレもすっごくおっさん臭いから止めなって。」


「ブッー!…んくっ。」


俺が有名グルメリポーターの清麻呂きよまろのモノマネでホタテ丼の素晴らしさを表現するのだが一花の厳しい審議が入る。


だがその横で俺のおっさんギャグを聞いていた鳥居が笑いを堪えている。いつもの冷静な表情を保つのに必死である。


「助さん…分かる分かる。」


「ハルちゃんその同情的な顔で肩を叩くのは止めて下さい…。」


同じおっさんと言っても俺より一回りは歳下の鳥居だがおっさん同士のシンパシーがあるのは嬉しいものだ。


大振りのプリプリとしたホタテ丼を食べ終えるとお土産のホタテを買い漁る。


本当の事を言うと実家、つまりハルの両親との約束である『北海道に行ったら美味しい物を送る事。』をすっかり忘れていた。


先ほどのホタテ丼が美味しくて誰かにも味わって貰いたいと思ったら思い出したのだ。


「これで…よしっ!」


「何かいっぱい買ったけど誰に送るの?」


「お世話になってる人…かな。」


「ハルの両親だけじゃないんだ。」


「今ここに居れるのもその人達のお陰だからね。幸せのお裾分け。」


「ふーん、あまり分け過ぎて心が干からびない様にね。」


「んふふ、干した貝柱はさらに旨味が増すってもんよ。」


「いちいちおっさん臭いねハルは。」


宅急便の伝票を数枚書き終えるとその気遣いを心配した一花に小言を言われるがいつものおっさんギャグで返す。


お土産も買い終わり一息つくと、とうとう本日のメインディッシュと言っても過言ではない道へと向かう。


道の駅さるふつ公園を出て国道238号を浜頓別方面へ走る事数分、猿払パーキングシェルターを目印にそこを抜けると猿払川に掛かる橋が見えるのでそのまま渡る。


渡り終えた所に電光掲示板が設置されていて柱に『通称エサヌカ線まで1km先左折』と小さい案内板が掲示されている。


ちなみにこの看板は以前無かったものなので観光客向けに設置されたというより近所の住宅街を避ける為に設置されたものだろう。


看板通りに進み左折するとエサヌカ線の入り口へと到着する。



猿払村道エサヌカ線─


「エヌ…エカ…えっと何線だっけ?」


「エ・サ・ヌ・カ・せ・ん!」


「ごめんって、でも本当にあの写真の道があるのか疑ってるんだよねー。」


「そう疑うのも分かる、今は写真を加工して映える様にするのが主流だからね。」


北海道ツーリングの代名詞と言っても過言ではない『エサヌカ線』。ライダーであれば一度は訪れたい憧れの道である。


雑誌やツーリングマップルなどでは映りが良くなるようにプロのカメラマンが撮影を行い加工しているのだろうとおっさん時代の俺も疑っていた。


だが実際にエサヌカ線の一つ目のクランクを曲がった所で俺は言葉を無くした。


この感動は恐らく終生忘れることが無いであろう。そんな景色がもうすぐ見れるのだ。


「確かに道は真っすぐで景色も良いけどなんかいつもの景色?」


「一花、まだ先だから焦らないの。」


国道238号からエサヌカ線の入り口を真っすぐ進むとT字路にぶつかる、そこを右折をした所で一花が期待外れと感じたのか不満を言う。


だがここはまだ本番ではない、そのまま進むと右に曲がるクランクが見えてくるので右折をする、そして道なりへ進み左折すると到着する。



猿払村道エサヌカ線最長の直線路─


「…。」


「どうした?一花?ここがエサヌカ線だよ、写真でも有名なね。」


「うっそでしょ…写真まんまじゃん。」


「地平線まで続くってのも本当だろ?」


「道の先が見えないし、本当に空と草原と道しか無いんだ。」


左折した瞬間に飛び込む広大な景色に言葉を無くす一花、少し進むとバイクを道の脇に停車させる。バイクを降りるとしばらくエサヌカ線の景色を眺めている。


初めて通るとこの景色をどうしてもじっくりと観察したくなる。どんな人でもその衝動に駆られる位に素晴らしい景観を持つ道路なのだ。


「今日は雲一つ無いし、見通しバッチリだね!」


「ねえねえハル!写真撮ろうよ!写真!」


珍しく一花の方から俺の腕を引っ張り自撮りをお願いしてくる。周囲に車が来ない事を確認すると二人で道路の上に並び地平線の道をバックに自撮りをする。


しばらく景色を眺めていると他のライダーや車がやって来ては俺達と同じく停車して写真撮影に勤しんでいる。


「皆、私達と同じ事してる。」


「はははは、こんな景色を何もしないで行くのが難しいよ。」


「ハルが渋谷駅のど真ん中で水着で歩いている様なもんだもんね…。」


「その例えは喜んでいいのか微妙な例えだな…。」


一花のエサヌカ線の魅力=俺の水着の魅力という例えに素直に喜べない俺だが褒めているのは間違いないだろう。


少し時間が経つと後続車も増えて来たのでエサヌカ線を出発する。


地平線で見えない終着点まで続く直線に上は空、左右に草原、真ん中に道、そしてたまに見かける鹿、そんな道をひたすらに走り続ける。


終着点へ着くとまた来た道を振り返るとこれもまた素晴らしい景色が広がる。どこから見ても本当に素晴らしい道だ。


牧場脇の道路を道なりに進むと国道238号へ合流しようと一時停止する。


「あーエサヌカ線良かった。私の中で今のとこNo.1の道だね。」


「…あのさ、もう1周しない?」


「えっ?私はいいけど。」


俺がもう1周したい事を提案すると一花は戸惑いながらも承諾してくれる。今日宿泊予定のキャンプ場もすぐ近くにあるので出来るだけエサヌカ線を堪能したいのだ。


それにこの道を通った事のある人なら一度は思う事だ。


再び国道238号を稚内方面へと向かって走り、エサヌカ線に入る。



エサヌカ線を走り抜けて再び国道238号へ合流するために一時停止する。


「んー何度走っても良い道だねー。」


「も、もう一回…。」


「うえっ?ハル何?まだ走り足りないの?」


「う、うん…。」


俺の事をしつこいと思った人も居るだろうがエサヌカ線の魅力に取りつかれた者は何度でも何回通っても飽きないものである。


「じゃ、じゃあこれが最後だよ。」


一花が最後という約束を取り付けると再び国道238号を稚内方面へと向かって走りエサヌカ線に入る。



エサヌカ線を走り抜けて再び国道238号へ合流するために一時停止する。


「ふーこれで見納めかな。満足したハル?」


「…。」


「なんで遊園地から帰りたくない子供みたいな顔してるの…。」


ここではっきりしておこう、おっさんはしつこいのである。


「ほら、行くよ!」


「やだやだやだ!」


「わがまま言わないの!さっき最後って約束したでしょ!」


エサヌカ線は遊園地のアトラクションの様に何度行っても楽しいのだ。


その影響もあって精神年齢がおっさんから女子高生を飛び越えて子供へと戻りわがままが発動する。それに我慢出来ない一花がまるで俺の母親の様に叱ってくる。


「まあまあ一花ちゃん、ハルちゃんなら俺が付いていきますんでもう一度くらいは…。」


「助さん!こういうのは許したら際限がないの!甘やかしたらダメ!」


「こんな可愛いハルさんなら何でも許しちゃいます…。」


「がー!色ちゃんは黙ってて話がややこしくなるから!」


一花が全員に説教をするとエサヌカ線から離れて浜頓別町へと向かう。ソロツーリングであれば何度でも回れるが今は一人では無い。


それに一花の仕事柄一番嫌うのが何度も同じ事を繰り返す事である。一人一人の貴重な時間を割いて稽古をしているのに同じ場面で同じミスを繰り返す。


そんな事を俺に愚痴っていたのを思い出す。


道中反省しながらも浜頓別町のキャンプ場へと向かってバイクを走らせて行く。



クッチャロ湖畔キャンプ場─


クッチャロ湖畔の売店で受付を済ますと早速、位置取りを始める。今回は売店とトイレと炊事場に程よい距離の場所を選ぶとテントの設営に入る。


「…。」


一花が腰掛け椅子に座ってクッチャロ湖を見つめている。先ほどの件を気にしている様子だ。すると自分のテントの設営を終えた鳥居が声を掛けてくる。


「ハルちゃん、設営なら俺がやっときますんで一花ちゃんを。」


「助さん、ありがとね。行ってくる。」


鳥居が空気を読んで代わってテントの設営をしてくれる。その間に俺は一花の前に立って声を掛ける。


「一花、さっきはごめん!…俺らしくない暴走してました!」


手を合わせて謝罪をすると一花が一瞬放心状態でこちらを見た後に笑い出す。


「はははは、私は別に怒ってないよ。あんな道だもん何度も走りたくなるって。」


「私もちょっと言い過ぎたかなーって、あれだけ楽しみにしてた北海道だもんね。」


「ハルにもう少しわがままさせた方が良かったかな…って思ってただけ。」


俺の暴走を止めたのを悔やんでいる様子だ。北海道を心待ちにしていた事は俺の側にいた一花が一番知っている。


「一花!止めてくれてすっごい助かったよ。久しぶりの北海道だからさ興奮してたし…だから止めてくれなかったら後10周はしてたし。」


「はははは、10周はやり過ぎだって。…まったくハルは器用なのか不器用なのか分かんないね。でもちょっとすっきりしたよ、ありがとね。」


気にしていない事を俺が必死に訴えると一花が察してくれる。我ながら恥ずかしい所を見せてしまったと反省するばかりだ。そしてこの件は終わるのだが。


「はあはあ…ハルさん一花さん。ここの温泉ヌルヌルしてるみたいですよ!!」


温泉施設があると聞いて偵察に行っていた饗庭が息を切らせて戻ってくるのだが、やけにヌルヌルを強調してくる。


「美人の湯って言って美肌効果もあるらしくってですね!これはもうーじっーくりと皆さんで浸からないといけませんね!ヌルヌルしてますし!」


「というか美人なハルさん一花さんがさらに美人になったら…もう私としてはですねマネージャーとして冥利に尽きる訳です!特にハルさんのお胸!!」


「…饗庭さんカームダウン!オーケー?どうどう。」


本人は気付いていない様だが鼻息が凄く荒い上に本音を交えたオタクっぽい早口になっている。それを見た一花が少し引いて俺の後ろに隠れる。


北海道に来てからというもの毎日3人で温泉に浸かるのが日課となっている。


フェリーではあれ程ムラムラすると言って断っていた俺なのだがいつも饗庭に強引に温泉に連れて行かれているのだ。


というよりは饗庭の楽しみが俺とのお風呂だという事実に最近気が付いた。


「俺が夕飯の準備してますから、3人で温泉でもゆっくり入って来てください。」


「助さんナイス!じゃあじゃあ早速行きましょうハルさん一花さん!!」


「あっ…。」


鳥居がしまったという表情をしているが時すでに遅し。饗庭の無駄な馬鹿力で俺の腕を引くと温泉へと連行されて行く、後を仕方なく一花も付いて行く。



はまとんべつ温泉フェザー─


国内でも屈指の泉質を誇る『美人の湯』があるホテル兼温泉施設だ。


クッチャロ湖畔キャンプ場の夜間の受付もこちらで行っているので到着が遅くなっても泊まる事が可能だ。


「今思ったけど良くキャンプ場に温泉が併設されてるよねー北海道。」


「そりゃーもう風呂上りのキーンと冷えたビールの為に必死にそういうキャンプ場を探しもんさ。」


「…冷えたビール?」


「もとい、冷えたシュワッとするジュースの為です…。」


体も洗い終えて評判の美人の湯に浸かりながら俺と一花が他愛のない会話をする。おっさんの時は温泉に浸かってからのビールが楽しみであった。


インターネットの画面やキャンプ場ガイドの本に穴が開くくらい温泉併設のキャンプ場をチェックしたものだ。


「ところで饗庭さんや。背中に密着しすぎでは…。」


「はあはあ…ハルさんのヌルヌルボディ…。」


俺の背中にピタッとくっ付く饗庭、まるで某漫画の思念体の様に密着している。温泉に浸かった影響で頭に血が上り俺の声が聞こえていない。


饗庭の言った通り泉質は少しぬるぬるしている。肌に馴染むような感じがしてとても心地良いのだが背後の悪寒が止まらない。


「色ちゃんはハルの事好きなんだねー。」


「もうそれは私のアイデンティティですから!」


(どう見ても性癖だろう…。)


そうツッコミたい気持ちを抑えて饗庭の密着状態を我慢するのだが一花が温泉に浸かりながら背中を俺の方に向けて移動してくる。


「じゃあハルの胸枕は私が占領する!」


一花が後頭部を俺の胸に押し付けて枕の様にするのだが、それを見た饗庭が立ち上がる。


「あっーーーーーーーーー!一花さんズルい!触るの我慢してたのに!私もやるっ!」


(我慢してたんかーい!)


という心の叫びと共に俺の胸で遊ぶ2人。北海道はどんな大人でも子供に戻る不思議な力がある…のだと思う。


ああ、静かに温泉に浸かりたい。



クッチャロ湖畔キャンプ場─


俺の胸遊びで長湯をした事で時間はすっかり夕暮れ時になっていた。夕日を見ながらキャンプ場に戻ると鳥居が夕食の準備をしている。


「ただいまー。」


「お帰りなさ…うおっ!眩しいっ!!」


鳥居がこちらを向くが余りの眩しさに手で俺達を遮る。


美人の湯の影響で俺達3人の体が夕日に照らされてボディービルダーコンテストの選手の様に輝くように見えるのだ。


特に俺の胸は2つの太陽の如く特別に輝いている。


「ま、眩しい…本当に効果があったんですね…。」


「ふふん、私のヘッドブラッシングでハルさんのお胸はぴっかぴかのつるんつるんですからね!」


(なんだよヘッドブラッシングって…狂った獣の様に涎を垂らしながらやってた癖に…。)


得意げに饗庭が説明するが人には見せてはいけない顔でやっていた事を俺は忘れていない。


「助さんも行ってきなよ、いい温泉だよ。」


「そうみたいですね…じゃあ、お言葉に甘えます。」


その後は眩しい俺達の影響もあってか興味をもった鳥居も温泉に向かい代わりに俺が夕食の準備を進める。


ちなみに戻ってきた鳥居は本物のボディービルダーの様であった…。


今日の移動距離は一花の体が心配になり短い距離の移動となったが体が資本、そして第一であるのでその判断に後悔は無い。


クッチャロ湖に夕日を沈むのを見ながら皆で夕食を取り、片付けが終わると各々の時間を過ごし夜が更けて行く。


相変わらず俺のテントは一花と饗庭でぎゅうぎゅう詰めになる…。


本日の走行距離183km…エサヌカ線の周回があった分距離が伸びたがそれは内緒だ。

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