第17話 全国誌デビューのおっさん
4月も終わりに近付きゴールデンウィーク(GW)目前となった。
高校生活も慣れていき一花以外にも仲の良い友人が男女問わず数人出来た。
一花の方はというと本格的に舞台が始まり学校に来る事が減り少しもの悲しい気分だ。しかもGWは連続公演が決まり休み無しだという、大人でも体力的に厳しいのに良くやっている。
GWと言えば夏休み前の唯一の長期休日である、北海道ツーリングの前哨戦としては申し分ない。俺は長期休日を利用したバイクツーリング計画を立てている状況だ。
そして思い出したくなかったが俺の水着が表紙の少年誌が全国で今日発売される。
登校中に寄ったコンビニにもすでに俺が表紙の少年誌が置いてあり無意識にコンビニに置いてあるライターを手に取り火を付けたくなる。
同学年の他の組の顔を知らない子にも普段より声を掛けられる、教室に入るともう大変だ。
「「「ハル(ちゃん)!初グラビアおめでとう!」」」
クラス中の男女が俺が表紙の少年誌を持ちながら祝福してくれる。どこを見ても水着で笑顔の俺が沢山いる、頭がおかしくなりそうだ。
「…ありがとう。」
しかし学友からの祝福を塩対応、むげに出来ない俺は仏陀の様な笑顔でお礼を返す。
授業の合間の休み時間は上級生、同級生とのツーショット写真撮影とサインを求められる続ける。学校内だけでも以前のオーディション動画の比べ反応が物凄い事になっている。さすが全国で販売されている少年誌だ影響力も半端じゃない。
同級生から渡された少年誌のグラビアをマジマジと眺めるが我ながら凄く美人に撮れている、撮影に関わる人間が全員プロだという事を再認識する、というかこんな恥ずかしいポーズ取ってたんだ。
普段見慣れた自分の裸よりも水着で隠れた方が少しHな感じなのはなんだろうか、悶々としてしまうのは悲しきおっさんの性か。
「ハルさん、グラビアの反響が凄いですよ、この子は誰だと問い合わせが多くてウチの社員総出で対応中です。」
マネージャーの佐竹からも電話連絡があり、どこの書店でも少年誌の売り切れが続出している様だ。少年誌のグラビア担当も大絶賛で違う雑誌でもお願いしたいと大手出版社との契約も結んだらしい。他の3人のグラドル、陽子、秋子、雨美にも仕事が入った様だ。
マネージャー佐竹の手腕はとどまることを知らず、俺を含む4人のグラドルを究極のグラドル四天王として多方面へと売り込む作戦を考えているらしい。美〇しんぼか!
そこで今や無視の出来ない情報拡散力、発信力を持つSNSで俺を含む4人のアカウントを作る事となり佐竹から招集連絡が入った。詳細な話を詰める為に学校が終わった後に本社ビルへ向かう事になった。
本社ビル会議室─
「ハル様ーグラビア成功おめでとうございますー、私もグラビアの仕事貰っちゃいました。」
様!?陽子が俺の腕に抱き着き離れない、あの日から気に入られたのもあるが今回のグラビアの件で一気に俺の株が上がり先ほどからこの調子である。
「ハルが正直ここまで出来るなんてね。」
「…でもハルのお陰でグラビアデビューできるのは事実。」
秋子と雨美も素直に俺のグラビア成功を称賛、感謝してくれている。
「皆さん集まりましたね、電話でもお話した通りSNSで自身のアカウントを作成して頂きます。とは言えすでに会社の方で共有アカウントとして作っていますのでログインの方法をお伝えします。」
佐竹が俺達にそう言うと各々のスマホ取出し自分の名のアカウントにログインをする。
「ええと、通知はOFFにしておいて下さい。フォローといいねの通知の勢いが凄いので。」
佐竹が言っている意味が解らずSNSについてはライン以外知らない俺は普通にログインする。すると物凄い勢いでスマホがピロピロ鳴っている。
「うわっ!ずっと鳴ってる!」
「ハルさんのは今日が全国誌デビューなので一番フォローされているでしょうね。」
フォローの意味が分からないのでとりあえずファンの数と思っておこう。
他の3人は手慣れているのか通知をOFFにしてやり過ごしている。
「基本、グラビアアイドルとして活動する場合のみにこのアカウントで行って下さい、もちろんイメージを損なう発言は禁止、他人を誹謗中傷するのもNGです。」
佐竹のSNS使用方法の説明が入る。
「また、誹謗中傷を受けた場合はウチの法務部が法的手段で対応しますのですぐに対応して欲しい場合は一報を下さい。それとプライベートな内容は極力発信しないように、ストーカー事件などに発展する恐れがあります。」
インターネットは世界の目でもあるので善意もあれば当然悪意のある目もある。
自宅を特定できる発信した後にファンに待ち伏せされた人も居るのだ。
「と言う事で早速ですが、自分の趣味と好きな食べ物、好みの男性像を発信して下さい。」
佐竹のSNSでの発信の指示をするがやり方の分からない俺。おろおろしていると陽子が寄ってくる。
「ハル様…私が教えてあげましょうか?」
肩をぴったりくっつけてSNSの使い方を教えて貰う。零距離から陽子の良い香りを嗅ぎ俺の顔が緩む。その様子を見て秋子と雨美も動き出す。
((今の内にハルに恩を売っておくのが得策))
「ハル困ったらお姉さんに相談しなさい。」
「…ハルは教えれば出来る子。」
光太郎…いやおっさん時代にはありえない光景が広がっている。極上の美女3人に囲まれSNSの手解きを受けている。銀座のキャバレーでもこの様な事はありえない。銀座の方は行った事無いけど。俺は初めてこの体になって神に感謝していると思う。
(やはりハルさんを先鋒としてグラビア撮影させたのは正解でしたね。)
佐竹が遠目で俺達4人の仲睦まじい様子を優しく見守っている。
「(ポチポチ)……よしっ!出来ました!佐竹さん!」
3人の手解きを受けてSNSマスター(笑)になった俺が佐竹に声を掛けて内容を確認して貰う。発信前の報連相だ。
「では失礼して見させて貰いますね…。」
「…。」
俺のスマホを受け取り内容を見た佐竹が無言で頭を抱えてその場に崩れる。
「ええと、ハルさん。趣味はバイクで結構ですが好きな食べ物と好きな男性像が少し問題がありますね。」
俺は元男でもあるので当然、好きな男性像は分からない…分かったらアカンやろ!憧れは沢山居るが。結果こういう人なら良いなと言う内容を書いたつもりなのだが食べ物も好きな物を普通に書いた。
「まず、好きな食べ物が『ホルモン』これは若い女性があまり好む物ではありません。次に好きな男性像が『歩きスマホをしない人』ってちょっと曖昧過ぎませんか。と言う事でこの2点は修正をお願いします。」
秋子と雨美が横で笑いを堪えている。陽子だけは素敵…と目を輝かせてこちらを見る。
「わ、解りました。(ポチポチ)」
佐竹に言われて俺はがっかりしながらスマホを受け取り渋々内容を書き換えようとするが。
「あっ……発信しちゃった。」
間違って発信ボタンを押してしまった。佐竹達の方を向いてウィンクをしながら舌を出して可愛らしく誤魔化すおっさん(45歳)。
「ちょ、ハルさん!私にスマホを貸して下さい!!」
佐竹が慌てて俺のスマホを操作して発信削除をしているがいいね!が一気に付く。
秋子と雨美が笑いを堪え切れずに大声で大爆笑。陽子だけは可愛いという目で俺を見てくる。
「…ハルさん好きな食べ物と男性像は私が書きますので教えて下さい。」
佐竹が焦る姿を初めて見て新鮮に思ったが、少し目が怖かったので大人しく指示に従い答えて行く。
結局無難な案として『牛タン』、『ドゥ〇イン・ジョ〇ソン』に決定して発信をした。だが少し遅かった様で『ホルモン』、『スマホ歩きをしない人』がスクリーンショットで保存された様だ。
:【ホルモンとか親近感わくw】
:【おっさん臭くて草】
:【スマホ歩き止めます!!】
:【パンチ定食食べてた所見たからこれはガチ。】
:【修正した後のドゥ〇イン・ジョ〇ソンも本当に好き感ある。】
:【世の中のハゲ共チャンスだぞ。】
しばらくSNS内でお祭り騒ぎとなった。SNS内で俺のリプ欄はホルモンとスマホ歩きの話題で埋め尽くされる。
アルバイト先のコンビニ─
翌日いつもの様に学校帰りにアルバイト先のコンビニへ向かうと凄い事になっている。いわゆる出待ちという奴だろうかコンビニ周辺を囲むように人が何十人も立っていたり、座っていたりする。心なしかスマホ歩きしている人が居ない。
事前にコンビニの店長から連絡があり状況は教えて貰っていたが俺の想像以上である。用意していたマスク、帽子を深く被りコソコソと店内に入ろうとした時に扉に貼ってある張り紙に気が付く。
【ハル目当てのファンの方へのお願い。普通に利用するお客様もいらっしゃいますので車での来場はご遠慮下さい。店内に入る場合は500円以上のタバコお酒以外のお買い物をお願い致します。またこちらの指示が守られない場合はハルを帰らせます。以上。】
「なんだこれ…。」
最初はまともだが中盤から欲望丸出しのお願いが書かれている。守られなくても帰らないぞ俺は。
店内に入ると店長以外に見た事が無い人が2人働いている。レジの中に居る店長に挨拶をすると腕を掴まれて休憩室まで連れていかれ椅子に座らせられる。
「ハルさん、折り入ってご相談があります。」
いつになく真剣な表情の店長、外の出待ちもそうだが俺のせいでお店に迷惑を掛けているのである、もしかしてクビの話かもしれない…と思っていると。
「時給を破格の5000円にします!いや少ないかもしれませんが…それは置いて。週に1回いや月に数回で良いのでシフトを減らして貰えませんか!!」
詳しく話を聞くと俺が週に数回アルバイトに入ると客が多すぎて他アルバイトと店長の体力が持たない事、本部の応援を頼み難い、商品の売れ行きの変動が大きすぎて発注が難しい、客同士のトラブルも発生しかねない。
でも売上げが良すぎて俺をクビにしたくない、そしてトドメが俺のグラビアデビューだ。店長が言う事にも一理ある。
「…わかりました、私が原因になってる以上、協力します。」
店長が涙を流しながら俺の制服のスカートを掴み感謝する。ちょっとスカート脱げるから離せ店長。
だけど少し俺にも一端の責任はある、そこで一計を案じてみる事とした。
【追記、店側との約束が守られない場合は出禁に致します。また守られていない方の情報提供者、守られた方にはハルの握手(3秒間)1回のみをサービスさせて頂きます。もちろんやらせが発覚した場合も出禁に致します。】
入り口の張り紙に店長が追記を行うと外から歓声が上がる。某アイドルがやっていた握手会を思い出し書いてみたが想像以上に反響が凄い。
店長とアルバイトのトニー、本部からの応援2人がレジ打ちを担当。俺は出入口の横に立ちいらっしゃいませの挨拶に500円以上利用したレシートを証明書として握手をして客をありがとうございましたと見送りをする新体制でアルバイトに臨む。
「テンチョーきょうはスッゴイきゃくながれるのハヤーイ!」
「ああ、今日は応援を頼んだのとハルさんをレジに立たせない事が功を奏してる。」
トニーと店長が軽快にレジ打ちを行い本部の応援2人がフォローを行う淀みのない連携が取れ以前の様な長時間の長蛇の列が無くなり客の不満が解消される。
「ハルの握手をご希望の方はレシートを忘れずにお持ち下さい。」
「ハルサンのハンドシェーク欲しかったら言う事キク!ニホンジン!」
いつもより余裕があるのか店長の説明とトニーの軽口が聞こえてくる。
さらに車で来場していたファンの事を情報提供してくれた人に握手を行いその場で出禁にする。車のナンバーも客として来ていたSNSのフォロワーが写真を取りファン同士で共有され拡散されていく。
大多数の人が守ってくれたので出禁になる人は少ない、SNSによる不正者情報拡散が自浄作用を果たしているのも救いだった。全くそれに俺は気付いていないが。
握手を求める客も様々だ、家族連れ、子供、若いカップルにご老人、中には常連さんも面白がって握手に来る。手の空いた時には品出しなどを行うがすぐに呼び戻される。
「皆さんお疲れ様!」
「ヤリきったゼ!テンチョー!フゥー!」
笑顔の店長の掛け声とトニーの喜びの声が聞こえると時間が22時近くになっていた。商品棚から商品がほぼ消えて客の数も減っていく。売上げも相当上がった事だろう。
「はあー、見よう見まねでやったけど握手するのも結構大変だな…。」
途切れない程では無いが、ひたすら握手をしていた俺の手が少し赤みがかっている。感覚も無くなりそうだがお互い儲かっているし、これから月数回のシフトになるので我慢のしどころだ。しかし全然コンビニの仕事をしてないのだがこれで良いのか…と悩んでいると。
「ではハルさん、今後の『ハルの日』を決めましょうか。」
店長が俺に声を掛けると夜勤組に引継ぎを行った後、店長とシフトの相談を行う。
一方、SNSでは今回の事が拡散されコンビニで働く出会えるグラドルとして親しみ易い印象を持たれた様だ。第一回の握手会モドキで親交を深めたファン同士で非公認のファンクラブも結成され俺を取り巻く環境が変わりつつあった。
後日、『ハルの日』が決まり、その日のコンビニは外に机を出し露天を展開する賑やかなお祭りの様な定例イベントとなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます