第8話 高校入学デビュー!
「いいよ、いいよ!視線をコッチに向けて!そうそう!ちょっと表情が硬いよ!っかぁー!天使はここに居たっ!」
高校入学式、校門前の入学式という看板の横に立った俺をハルの父が大きいレンズのついたカメラを片手に俺を被写体として記念撮影に勤しんでいる。あらゆるアングルから攻め続けるのと撮影に夢中になり独り言が多すぎて周りで順番待ちしている保護者達がドン引きしている。正直、恥ずかし過ぎて死にそうである。
「あなた、ちょっとやり過ぎ。」
そう言うと背後から笑顔で青筋を立てた母の貫手が父の鳩尾に刺さり父が悶絶。
俺も恥ずかしさから解放され母と一緒に悶絶した父を支えてそそくさと校門を後にする。
校門から校舎まで続く道の両側に植えられた桜の花が八部咲位であろうか色鮮やかに咲き乱れている。天気も雲一つ無い晴天にも恵まれて入学式日和である。
〇〇高等学校、スポーツ強豪校でもあり有名人も堀〇高等学校程では無いが数人が通っている様だ。そういう込み入った事情により生徒の個人的な活動については大らかに対応する事で有名だ。俺にとったらたまたま家から近いだけって話なのだが。
校門から校舎の間にあるベンチで悶絶している父を母と一緒に介抱していると、校門に黒塗りのセダンが止まり後部座席から一人の少女が降りてくると周りで待機していたTVカメラやリポーターなどの取材陣が一斉に集まってきた。
遠くから眺めていた感じ少女は有名人らしく校門前で慣れた様子で受答えをしっかり行い、マネージャーらしき人物と一緒に入学式会場へと向かっていった。有名人も大変だなと他人事の様に思いながら俺達も入学式会場へと向かう。
教室─
入学式も一通り終わり保護者達とは一旦別れ教室へ移動すると、担任教師が待機しており黒板に貼りだされた座席表をもとに席を探し椅子に座る。担任の挨拶が始まりそして次に出席簿をもとに一人一人の自己紹介が始まっていく。
皆緊張した面持ちで自己紹介を始めていく、初めて会ったばかりの人間ばかりなので緊張するのは当然である。順調にそして無難に自己紹介が進みある生徒の順番まで回ると教室が騒めき始める。男子の低音の歓声と女子の黄色い歓声が混じり何事かと様子を伺うと先ほど取材陣に囲まれていた少女だ。
「
名前は聞いた事がある、光太郎時代の時に見た大河ドラマで子役で出演しており名台詞「同情するなら米をくれっ!」は時の飢饉の時代に領主に涙ながらに訴えかける名シーンである。子供にしては気迫のある演技で驚いたものだ。
その子役で有名な一花も今や少し大人びた?高校生。
160cm前後で髪はセミロング、体型も平均よりも少し痩せている。
ただ家庭の事情も複雑というのをゴシップ記事で見かけた事がある。今時の学生らしからぬ少し固めの表情も気にかかる。
「えー…次は結城 晴。」
と考えている内に自分の番がやってきた。
「はいっ!」
勢いよく立ち上がったせいか胸が上下に揺れる。
「おおおおおおおぉー!」
教室が揺れる程の男子の低音の歓声、遅れて数人の女子からの舌打ちが聞こえてくる。揺れるのは自然の摂理なのだ、許してくれ女子達よ。揺れる胸を押さえて恥ずかしさを噛み殺し自己紹介を始める。
「…結城 晴です。趣味はバイクです、気軽にハルって呼んで下さい。1年間仲良くしてください。」
笑顔で締めて着席した後も教室内の男子全員の視線がこちらに向かっている。
(((可愛い…結婚しよ…。)))
そんな視線が集まる中、殺気を含んだ視線を感じる。そう一花の視線だ。
顔を見れば解る目を血走らせながら私よか目立ってんじゃねーよ感が凄い褒めてはいないが流石役者である。
全員の自己紹介も終わり、明日からの授業内容と登校時間の説明を受けて解散となった。俺も帰り支度をして教室を出ようとすると一花が出口を塞ぐように立っている。
「ちょっと付き合いなさい、ハル…だっけ?」
そう言われ教室を出て少し離れた人気の無い校舎裏へ付き従い移動する。
やはり先ほど自己紹介で人気を取られたのが気に食わなかったのだろうか、一花の胸を見つめると確かにごめんなさいな気持ちになる。校舎裏に到着すると一花がこちらに振り返る。
「あんたね、ちょっと胸デカくて可愛いからって調子乗ってんじゃないわよ!」
問答無用で一花はそう言いながら俺に蹴りを見舞うが凄く軽い。自主トレのやり過ぎた結果であろうか、今や並以上に筋力と体力が付いて体幹もしっかりしているので体がブレない。しかも蹴りの反動で一花が体勢を崩して転倒しそうになり慌てて俺が体を支える。
「おい、大丈夫か?半端な力は自分に返ってくるぞ。」
素の俺の口調で語り掛けると一花は我に返り支えていた俺の手を突き飛ばす。
「フン、きょ、今日はこれくらいにしてあげるけど調子に乗らない事ね!」
そう言うと一花は俺のもとから一目散に走り去って行く。一体何なのか解らず呆然と立ち尽くしていると、先ほど校門前で見かけた一花と一緒に居たスーツ姿の男が入れ替わる様に出てきた。
「ウチの一花がご迷惑をお掛けして申し訳ございません!!」
一花の保護者かな?と思ったがあまり顔と体型も似ていない。低姿勢で小太りで人の良さそうな中年男性だ。急いで来たのか汗が凄い。
「えーっと…迷惑かどうかも認識する前に終わったので気にしないで下さい。」
俺がそう言うと安心したのかハンカチで汗を拭った後に胸ポケットから名刺を取り出し差し出してくる。
「そう言って貰えると助かります、わたくしこういう者でして。一花のマネージャーをやらせて頂いております。」
名刺を両手で受け取ると
【〇〇プロダクション 一花専属マネージャー 佐竹】
と書かれていた。
「これは佐竹さん、丁寧にどうもありがとうございます。…で、なぜ私にこれを?」
同業者でも無いたかが一介の学生相手にしては少し大袈裟な対応に少し疑問に思っていたが次の瞬間、佐竹のキラキラと目を輝かせ話し出した。
「単刀直入に申し上げます。ずばり、ハルさん!ウチの事務所に入っていただけませんかっ!!」
「はっ?え?」
佐竹の突然の申し出に理解が追い付かないがここから佐竹の情熱的な口説き文句が始まった。
「年頃の可愛らしさを保ちつつ大人な雰囲気を醸し出し、年下から年上までを魅了するオーラ、決してこれは育ちや環境で決まるものではありません。これは神からの寵愛を受けた証拠、これを目にして世に出さなかったらこの私が日本中から叱責を受ける事必然でしょう!!ひいては芸能界の損失!!!」
おっさんでも恥ずかしくなるくらいベタ褒めである。
「佐竹さん…買い被り過ぎですよ、私にそんなモノはありま…。」
「一目見ただけでそこまで気付くとは慧眼ですな。」
謙虚な姿勢で否定しようとしたら遮る様に聞きなれた声が背後から聞こえてくる。悶絶していた父である。どうやら戻らない俺を探しに来た様だ。これ以上ややこしい事にならない様に心配していると俺が受け取った名刺を見つめ。
「…佐竹さんとおっしゃいましたか流石一流芸能プロダクションマネージャーだけあって良く分かってらっしゃる。」
自慢の娘がベタ褒めされているのである、今の父の心境と言ったら天にも昇る気持ちであろう。案の定、今まで見た事が無い位に父の表情がとろけるチーズのようにだらしない。
「もしかして、ハルさんのご両親様でしょうか?」
佐竹がそれとなく聞いてみると近くに居た母も参戦してきた。
「はい、ハルの両親です。(ウィンク)」
俺の側に立って決めポーズを決めている、この両親もうノリノリである。
「…ハルさんのご両親様、今すぐ決断されなくても良いのでハルさんの弊社の事務所入りのご検討お願いします。また日を改めて!」
佐竹は父と母にも名刺を渡してその場を急ぐ様子で立ち去っていった。
(一花の入学式に付いていったら一花に続いて100年に1人の逸材が見つかるなんて!!私のマネージャー生活初めての事だ。急いで会社で会議を開かなくては!!!)
「うーん、さすが我が娘!入学式に芸能界からスカウトされるなんて!母は鼻が高いぞ!」
「有名人が通う学校だから時間の問題と思っていたが、まさか初日にスカウトとはな。フハハハハハッ!!」
母と父がご機嫌過ぎて怖いが俺としては話の展開が早すぎて付いていけていない。
名刺を見つめながら喜んでいいのかどうかも分からないが親孝行みたいになっているのなら俺は満足だ。さっきまでは他人事だったのに、これも運命だろうか。
芸能界に入るかどうかは後で考える事として、当面はバイクの免許が優先事項となるだろう。
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