第6話 中学校卒業

緊急家族会議にてハル両親にバイク乗車の許可を貰い大手を振って北海道ツーリングを目指す事と相成った。とはいえ大人の社会で中学生という身分にお金を稼がせてくれる場所などない。結城家は月の自動給付小遣い制度では無く、家事の手伝いで小遣いを頂く方式を取っている。お陰で心の闇バイトをしなくても教習所へ通うための資金が貯まりつつあるのだが。


「ハルー!ちょっとママのお料理手伝ってー。」


「ハル、パパの仕事で凝った肩を揉んでくれないか。」


家族会議以来ほぼ毎日家事を手伝っている。気を使ってくれているのが解りやす過ぎて申し訳ない気持ちになる。しかし一人娘だからと言って甘すぎてあまっーい!と心で叫びながら、その恩恵を一心に得るためにお手伝いをしている。もちろん誓約書通りパパママ呼びは絶対条件だ。クソがっ。


特に父の方は激甘の程度が限界突破しており、肩を揉んだ後に1万円札を取出し渡そうとするものだから素で軽くゲンコツをして説教しておいた、若い内に大金を持つと碌な事が無い。ただでさえスマホ代を払って貰っているので無料でやっても良い位なのだ。母の方はと言うと金銭感覚はまともで子供の域を出ない程度の小遣いを渡してくれる。俺が言うのもなんだが父は良い嫁をもらったと思う。


中学校─


学業の方はと言うと先生と友人達にも恵まれおっさん臭さを出さずになんとかやっている。中学生3年生とは言えまだまだ子供である。俺を除いて…。


冬休みの自主トレが効いたのか成長期なのかは分らないが入院していた時よりも、太った訳ではなく顔は据え置き平均よりちょっとお胸とお尻がアレなんだ。しかも腰は細く引き締まる一方でこれ以上育ったら爆発四散する自信がある。


話を戻すが友人との他愛のない話などをして過ごしていたが困った事が一つだけあった、ジェネレーションギャップっていうレベルじゃない世代の差だ。流行しているもの人気のあるものが当然全てが違う。友人との談笑の後は教室を出て一人で話題になった物、人物をスマホでコソコソ調べている有様だ。その中でも特大の失敗をしてしまった。それが好きなタイプの俳優の話の時である。


「でさー俳優の〇〇くんってさーかっこいいよねー。」

「昨日のドラマ見た見たーわたしタイプー。」

「わたしもあんなセリフ言われてみたいー。」


休み時間、最近TVドラマで(押し)売り出し中の若手イケメン俳優の話で大盛り上がりだ。斜に構えた感想だがおっさんだから許される。そしてもちろん興味無し。だがそれを口に出すのは大人じゃあない、TVでも見た事があるのでさり気なく顔の特徴を挙げて褒め殺し。社会人時代の様な懐の探り合いが無い、こんな無邪気な談笑が妙に心地よい。昼食後というのもあり少しウトウトし始めた時にキラーパスが飛んできた。


「…でさ、ハルちゃんはさー好きな俳優さんいるの?」


「ドゥ〇イン・ジョ〇ソン…。」


眠気に意識を一瞬もっていかれた隙に素で質問に答えてしまった。

はっ!としたが時すでに遅し、予想外の答えに友人達が固まっている。


「まった!今の無し!!」


慌てて訂正しようとするがそれが本気だと取られた様だ。

女子の情報共有伝達の早さは伊達じゃあない。


「え…誰それ?」

「ちょっと検索してみようよ。(スマホポチポチ)」

「うわっ筋肉凄くてハゲてる。」

「ハルちゃんってこういう人がタイプなんだねぇ。」

「この写真みんなで共有しよっとハルちゃんのタイプはこの人(スマホポチッ)」


ドゥ〇インごめん、世界一ハーレーの似合う男と勝手に思ってあなたの名前を出してしまったが故に俺の好みのタイプ扱いされて共有されてしまった。あとハゲって言うな!あれが良いのだ。次点でキ〇ヌとステ〇サムだが今は置いておく。


あっという間に他の組まで拡散されて翌日にはプロレス好きの生徒の誰かが〇ック様時代のプロマイドを俺の下駄箱の中に入れてくる始末だ。まぁ貰っておくが。


こうして二度目の中学生生活を光太郎の時と違う形で過ごしていった。


卒業式─


そんな日々もあっという間に過ぎ中学校生活も3月の卒業式を迎えた。実質3カ月の中学校生活であるが有意義に過ごせたと思う。

静まる体育館に名前を呼ばれると声が響く、体育館の壇上に上がり校長先生から卒業証書を受け取る。卒業生全員が受け取ると校長先生が静かに語り出した。


「君達はまだ若い、これから失敗する事も多いでしょう、だけど恐れては行けません、一歩を踏み出すと道が出来ます。その道を進むも立ち止まるも違う道を見つけるも全て君達次第です。そして今一歩を踏み出した所、それぞれが思う道を歩んで下さい。」


校長先生の卒業生に贈る言葉については今居る生徒には理解が出来ない事だと思う、だけどおっさんである俺には理解が出来る。仕事に忙殺されて特に趣味も無く日々を無為に過ごしていた時に出会った道が北海道ツーリングである。とこじ付けみたいだが何かの為に頑張るというのは案外悪くない物である。


「二度目の卒業式か…短い間だったけど楽しかったな。」


ふと独り言を言っていると後ろから友人達が一気に集まってきて記念写真に誘われる。なんだか青春だなと、おっさんの名残か涙腺が緩み自然と涙が出る。撮影が終わった後は友人達に感謝の気持ちを伝えた。


両親の待っている場所へ行こうとしたら、ごりごりの坊主頭の筋トレをしてきた屈強な野球部と柔道部の男子数人に円陣を組むように囲まれる。


「…えっ?何?」


突然の状況に俺が戸惑っていると囲っている男子が顔を見合わせて相槌を打つ。


「「「「せ~の!以前から好きでした!付き合って下さい!!!」」」」


この男子達はどうやら卒業最後に俺に玉砕覚悟の告白をしようと待ち構えていたら思った以上に同志が居たみたいで、その場で意気投合して全員で行こうという話になったらしい。本当にこういう男子のノリは好きである。


「ご…ごめんなさい!!!」


全員燃え尽きた様にうなだれていく。

やらない後悔よりやる後悔とは言うが振られたにも関わらず男子数人の顔には悲壮感はない。だが本当に期待をさせてすまない、そもそもドゥ〇インと言った俺が悪いのだ。わざわざ頭を丸めて来てくれた男子も居る中、一人一人丁寧にお断りの握手をしていく。


(はは…魅力的すぎるのも問題だな…。)

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