第5話 緊急家族会議
「「絶対にバイクはダメ!!!!」」
緊急家族会議が始まった時のハルの両親の第一声だ。
リビングのテーブルに俺と向かい合う様にハル両親が鎮座している。
その表情は般若の様な眉間にしわを寄せ怒りと困惑が合わさったような顔である。
「そもそもなんでバイクなんだ。通学中に交通事故に遭ったのに。」
そう父が言うとふと思い出す、リハビリ中に看護師から聞いてはいたがハルは通学中に信号機の無い横断歩道を渡っていた際にスマホ操作に集中していた運転手の車に撥ねられた後に寝たきりになってしまった。
その為に心配を掛けまいと内緒で北海道ツーリング計画を進めていたが今の体は俺だけものではない。俺は素直に気持ちを話して行こうと思った。
「お父さん、お母さん。私はね…乗り物に罪は無いと思う。」
「大事に上手く利用すれば見た事の無い世界に連れて行ってくれる素敵な物。」
「病院でのリハビリは大変だったけど寝る前にたまたま見ていたスマホ動画で北海道ツーリングの動画がね凄く元気をくれたの。皆凄く楽しそうにしてて。」
「いつか私も元気になったら北海道ツーリングに行ってやるってリハビリも頑張った。でも心配させると思って内緒で準備を進めてたの。」
「黙っていてごめんなさい!!」
実際、おっさん…光太郎の時にも短期ではあるが入院する事があった。
やる事が無く暇を持て余した時に出会ったのが。
【バイクで北海道に行ってみた。】
という動画だったのだが内容は後日話すとして、おっさん時代からの北海道ツーリングのきっかけと原動力をハルの体を介して両親に素直に話しそして謝罪した。
「冬休みに早朝から走り込みをしていたと思っていたが、この為か。」
起こさないようにしていたが、どうやら父と母には冬休みの体作りがバレていたらしい。母が少し考えた様な表情になり続けた。
「ねえあなた、私ね、事故が起こる前のハルと比べて受け身な事が少なくなったと思う。自分で考えて行動する、なんか人が代わった様な気がしてね。」
母の指摘は鋭かった全くその通りである。やはり母、いや女性というのは直感力が凄いと思う。父も追従するように。
「母さんもそう思うか、いや俺もそう思ったが少し違うんだよ、なんか友人が出来たような懐かしさというか大人びた雰囲気というか。」
おっさん時代の癖は抜けないものだ家族だけあって長く一緒に居るので変化にも敏感になるのだろう、ただ単純に今時の若い子の所作が分からないだけであるが。
両親の俺に対する変化と意見を交換した後に小声で話し合い神妙な面持ちで。
「…分かったハル。バイクに乗る事は許そう。」
父がテーブルに両腕の肘をつき両手で指を組み額にあてるような姿勢で静かに語り掛ける。
「お父さんお母さんありが…。」
俺が椅子から立ち上がりお礼を言おうとしたら父がすかさず手の平をこちらに向け言葉を遮る。
「ただ、条件がある。」
父と母が目を合わせ条件をA4ノートに二人で書きだしていく。丁寧にも誓約書と書かれているがちらっと見えた、その後の二人は真剣そのもので見ている俺も何が条件なのか固唾をのんで見守った。
「ハル、これが条件だ。」
条件を記載したページを手で切り取りテーブルの上からすっと滑らせるように俺の前に渡してきた。
誓約書
・些細な事故でも起こしたらバイクを降りる。
・バイクに乗る為に必要な物は親に相談する。
・バイクでの行先は必ず事前に報告を行う。
・バイクに必要な経費は必ず自分で用意する。
・バイクの購入時には両親を同行させる。
・家に居る時はパパとママと呼ぶ。
・北海道に行ったら美味しい物を送る事。
しっかりとした文字で書かれている、どれも一人娘を心配する両親の最大の配慮である。…最後の方にさり気なく恥ずかしい事が書かれているが北海道ツーリングの為だ条件を飲む事にした。
ちらっと両親に目をやると二人して耳をこちらに向けてお礼は?というニュアンスで待ち構えている。ぐぅ、恥ずかし過ぎて死にそうだが背に腹は代えられない。顔を真っ赤にしながら頑張ってお礼を言う。
「パっ…パパ、ママありがとう!!!」
「あらあらぁーハルちゃんいいのよ。」
「やはりパパの響きは最高だな!!」
両親の顔がニコニコと上機嫌になり満足そうに母は夕飯の支度に父は書斎に入り着替えを行う。そして残された俺は急ぎ足で自室に戻ってベッドに倒れ込み恥ずかしさを忘れるように足をバタバタさせて今日の…最後のアレを忘れようとした。
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