第3話 北海道への道

長いリハビリを終えてようやく退院となった。

予定よりも一カ月早く終わったが既に世間は12月クリスマスの時期だ。

気温も下がり肌寒くはなったが俺の北海道の情熱は未だ尽きてはいない。


ここで状況を整理して行こう。


まず俺は『結城 晴』(通称ハル)という女の子になった様だ。


父は『結城 正太郎』母は『結城 美月』の3人家族

家は埼玉県〇〇市にあり一軒家2階建て住まい、閑静な住宅街だ。


父方は有名な名家の分家らしく実家はお金持ちらしい・・・。

両親は共働きで家に居る事は少ないが退院した後は時間を作って俺と一緒に居てくれる。


実は俺、鈴木光太郎(45歳)の方の両親はすでに他界しており所謂天涯孤独というやつである。兄弟や身近な親戚も居ないのできっと遠い親戚が俺の葬式を行ってくれただろうと思う。


その為かハルの両親との他愛のない会話も凄く楽しいのだ。


復学は来年の1月に決まったが当然ながら在学時の友人関係は分からないので会ってから思い出すという作戦で行こうと思う。


そして僭越ながらハルの貯金を確認してみたのだが、贅沢はしていないのか中学生にしては結構な額があった。これは使えない・・・大人としての矜持である。


来年度の北海道計画だが必要な物を書き出してみた。


1.400cc以下の中型バイク1台

2.中型自動二輪免許

3.フェリー往復代金

4.ETC設置代金

5.ヘルメット、バイクジャケットetc

6.USB給電口設置代金

7.キャンプ用品

8.北海道の食事代(これ一番大事)


うん、これ100万円近く掛かるな。

まだ中学生なので当然アルバイトは出来ない、これは高校に入学した当日にアルバイトをしないと間に合わない計算だ。スマホ代や光熱費だけは両親が払ってくれているので十分に助かる。


「・・・下着売れるのか?」


ふと呟いてみたが中身45歳のおっさんの履いた下着なんぞ誰が買う物好きがとネットを検索するとあるんかーい!と一人ツッコミをしてしまった。しかも顔写真付きだがこの手のアレは大体嘘だと思っている。

いやハルの両親が悲しむので絶対やらないが世の中の闇を少し感じてしまった。


とりあえず両親に高校進学後にアルバイトをしたい旨をそれとなく伝えてみたらHなお店でなければ全然OKと気前良く返事を貰った。なんやねんHなお店って!


冬休みの間はとりあえず体作りを主軸にしてバイクの運転に備えていこうと思う。

早朝ランニングに自重筋トレをメニューにして冬休みを過ごしていく。


年明け─


体力も年頃の子と引けを取らない位に戻り新年の初詣も終えたが周りの視線が妙に多かった気がする。着物を着付けて貰ったが同年の15歳に比べ身長が平均より高く目立ってしまったのが原因、というかモデル感凄い。その足で父方の祖父母の家へ向かう。


「門でっか!」


つい声に出してしまい父が俺の反応を見て失笑している。いや普通にでかいでしょ。

ドラマの新選組の本拠地の様な時代を感じる武家屋敷みたいで驚いていると

年配のお爺さんお婆さんが近付いてくる。


「あけましておめでとう、正太郎。」

「父さん母さんあけましておめでとうございます。」


父がお爺さんとお婆さんに挨拶をしているとコチラを見つめて


「ハルちゃんーまぁー可愛くおめかししちゃって。」

「ほぉーまるで婆さんの若い頃の姿まんまじゃな。」


お爺さんが俺を見てそう言うとお婆さんが、やだよ爺さんったらぁ的なやり取りを行っている。可愛い祖父母だ。

敷地に案内されたら何台もの車が駐車している。どうやら親戚が勢揃いしているようだ。

ここからが本当に大変だった。親戚全員に挨拶周りラッシュに入院していた事の話と引っ張りダコ状態、更に小さい子の相手もさせられて体力作りしておいて良かったと思った。会食も一通り終わり食器を下げるのを手伝い母とお婆さんと一緒に皿洗いを終えた。


親戚が次々と帰宅し始め、ハルの両親も帰る支度に入ると祖父母から呼び止められた。


「ハルちゃんお疲れ様ね。はい、これお年玉。」


そう言われて思い出した、そうだ俺は今中学生だったんだ。


「ありがとうございます、お爺ちゃんお婆ちゃん・・・!?」


お年玉袋じゃなくて封筒しかも今にも破れそうな位にパンパンにお札が詰まっている。鈴木光太郎の社会人時代のボーナスは現金での支給、当然厚みもあり落とすのが怖くて即銀行へ預けていたのを思い出す。悲しい事にお年玉がそれよりも分厚いのだ。


「これ多すぎるって!!」


素で声を上げてしまった。中学生に大企業並みのボーナスを手渡されるとかなり動揺するというか絶対教育に良くないだろこれ。俺の声を聞いた父が封筒を取上げ。


「父さん母さんハルを甘やかさないでくれ。」


父がお爺さんお婆さんに向けてそう言うとしょんぼりした顔で下を向く。


「ハルには丁度これくらいが良いんだよ。」


そう言うと父は10万程抜いて封筒に入れて俺に渡す。

いや父よそれでも十分に多すぎる、中学生に10万は大金だぞ。


「なんじゃい、折角の退院祝いも兼ねておったのにのう。」


お爺さんが不満そうな顔でそう漏らす。母の顔を見るといつもの事だなぁという達観した表情を浮かべている。毎年こうなのか、恐ろしい一家である。

しかし本音はあるだけあれば北海道計画に一歩近付ける訳で、10万円をありがたく頂戴しようと思う。


「お爺ちゃんお婆ちゃんお年玉ありがとう。」


「なぁにいいんじゃいいんじゃ。何か美味しいもの食べておくれ。」


何十年振りかのお年玉を貰い祖父母の家を後にする。大変ではあったけど以前の俺にはあんなに親戚の集まりは無かった、それが逆に新鮮に感じたので良かったが毎年やるのかとなると結構頭が痛いイベントでもある。

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