第2話 新たな希望
松田優作と言っても若い人には解らないだろうが、まさにドラマ同様の声を上げてしまった。
手鏡で自分を見ると顔ちっさ、手もちっさ、髪の毛ふっさふさのさらさらロング。
語彙力が小学生レベルに戻っているがまさにそのままなのだ。しかもやつれてはいるが結構可愛い。
「ハルちゃん大丈夫?」
看護師が心配そうに見つめてくるがこちらは頭脳をフル回転させて現状の把握に努めている。まず思ったのがこんな可愛い子に鈴木光太郎(45歳)が中身に入っている事をハルのご両親にバレるのは不味いのでここはハルという子になりきる方向で行こう。
次に現在の月がいつなのか確認だ。
「看護師さん今は何月なんですか?」
「えっと今は9月ですね。」
北海道終わった…。
俺の頭の中の北海道がガラガラと音をたて崩れ去っていく、正直事故よりショックが大きい。
呆然自失な俺の顔を見て看護師がフォローするように笑いかけてくれた。
「でも中学校卒業までには十分間に合うから大丈夫だよ。」
「中学3年生…。」
その言葉に俺の頭脳が再起動する、中学3年生と言う事は15歳。
つまり高校生になれば中型2輪免許が取得できる16歳。
しかもだ、学生だから夏休みが1カ月以上あるお盆休みなんか目じゃあない。
しかし最大の問題が一つだけある。
「看護師さん父と母を呼んで貰えますか?」
「ええ、今呼んでくるね。」
個室の外で医者と会話している両親を呼びに看護師が外に出る。
医者と一緒に両親が入ってくる。
「ハルどうしたの?」
心配そうに声を掛ける母に意を決して聞いてみた。
「お…私の誕生日っていつかな?」
俺の心臓がバクバクしているのとは逆に母はポカンとして質問に戸惑っているが直ぐにしっかりした表情で答えてくれた。
「20XX年4月11日よ、忘れたの?」
この時点で次年度の北海道ツーリング計画が動き始め心の中でガッツポーズを取り雄叫びをあげる。ハルの母よ父よあなた方は良い仕事をしている、理想的な展開で涎が垂れていく。ただまだ問題点は山積みで安心は出来ない、涎を拭きつつ確認を行う。
「先生、私の退院はいつになりますか?」
野獣の様な視線を医者にやると上を向きながら顎を指で擦りながらしばらく考え込み答える。
「現状を確認した上でリハビリは4カ月を見込んでます。ただしハル君のやる気次第で短縮は可能だよ。」
俺のギラギラした目を見て早く退院したいのだと察した医者が挑戦的ながらも現実的な日程を提示する。
血が滾ってくるのを感じる、いち早く体を回復して計画に向かって進めたい気持ちが強くなっていく、それほどまでに北海道ツーリングは魅力的なのだ。
「じゃあ早速リハビリを…。」
そう言って立ち上がろうとするが動かない、手足に30kg位の重りがある様だ。
上体を起こそうとするだけで汗をかく、看護師が支えてくれてようやく上体を起こす。
「しばらく食事をとって安静にしなさい、体力が少し戻ったらリハビリを行いましょう。」
医者がそう語り掛けると入れ替わる様に心配そうに寄り添った母が続ける。
「ハル…今は無理をしないで先生の言う通りにね。」
母が起こした上体をゆっくり寝かせおでこを暖かい手で撫でる。
次第に意識が薄れ始めゆっくりと目を閉じていく。
一体なぜこうなったのかは分からない。俺の本当の体はどうなったのか。
考え始めるとキリが無い、今は体を回復させる事に専念しよう、俺の体じゃない人様の体だ。元に戻った時に傷物にならないように大事にしないといけないな。
これからどうなるのか出たとこ勝負だな…。
まずはリハビり…。そして深い眠りへとつく。
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