第2話 優劣
異世界に召還されて、異世界で生きていくと決めた日から10日が経った。
当然だが、生活スタイルは大きく変わる。
それでも、ほとんどの者が慣れた様子だ。慣れすぎているとすら言える。
あの時、ステータスを確認してから、宰相が真っ先に行ったのは選別。生徒25名と教師1名を優秀、普通、劣等で区別するもの。
それぞれの暮らしぶりは大きく違う。優秀や普通に選別された者たちは良い暮らしを。劣等認定された者は、何とか生活できる暮らし。
そして僕は、劣等認定されてしまった。劣等認定されたのは、僕を含めた二人。それでも僕は、そこまで悲観的ではなかった。自分が、優秀でないことは、とうの昔に思い知ってる。
ならば、劣っている者なりのやり方をすればいい。
それは、地道な努力。この10日間、自分の能力を向上させるのに勤しんでいた。今も、その最中。
「お疲れ様、相変わらず頑張っているね。少しは休んだら?」
「いや、もう少しだけ」
彼は、もう1人の劣等認定をされた者だ。名前は
しかし、こっち世界に来てから、同じような立場に置かれたことで、友達と呼べるまでに関係が築かれた。
彼も僕と同様で、今の生活に対して悲観的ではない。むしろ、二人で楽しく生活しようとしているくらいだ。
同じ部屋で生活する彼は、僕が行っていることを毎日目にしている。
「どう?何か出来るようになった?」
「全然ダメだよ。色々と試してはいるけど、所詮は玩具遊び程度。これなら、劣等認定も納得するしかないよね。シュウはどう?」
「僕だって自分の力を全然扱えてないよ。それに、すぐに疲れちゃう。たしかに、役立てるのが難しいくらいだよ」
シュウの授かった職業は、『預言者』。彼が手にした力の1つが、『未来眼』というもの。
その名が示すように、彼の眼は、こっちに来る前と変わっている。
能力名を聞いただけならば、間違いなく優秀な者に認定されていただろう。だが、彼の能力に大きな欠点がある。それは、大きく分けて2つ。まず1つが、意図的に未来を見ることが出来ないこと。もう1つは、未来が見えた時の疲労が尋常ないこと。
つまり、能力を持たないに等しいのだ。それでも彼は1ミリも辛そうにする様子はない。
だからこそ、彼には好感が持てた。
「ステータスには、変化あった?」
「一応、確認しておくよ」
『名前:黒井レン
種族:人間
年齢:17歳
性別:男
レベル:5
能力:操術・傀儡化・傀儡収納』
この10日間で、レベルは4も上がった。能力も気付けば1つ増えていた。
能力は、色んなことを試したことで、ある程度のことは把握している。
まず『操術』、これは自分が傀儡化したものを操るための能力。次に『傀儡収納』は、自分が傀儡化したものを異空間に収納が出来る能力。そして3つ目の能力が、『傀儡化』。この能力の理解には、7日も要した。『傀儡化』とは言葉通りで、自分が傀儡としたいものを傀儡に出来る。ただそれには、手書きの陣が必要となる。これの習得に苦労させられた。
僕が試した結果では、陣と同じ大きさのものなら傀儡に出来ることが分かった。ただ、命あるものに使えないのも分かった。
もちろん、僕の能力にも大きな欠点はある。
それは、1回『傀儡化』に多大な手間を必要とすること。手のひらサイズのものにでさえ、数時間はかかってしまう。
何とか訓練を繰り返すことで、数秒程度だが短くはなってきている。
「そろそろ、ご飯を食べに行こうよ」
「そうか、もうそんな時間になっていたのか」
気付けば、昼食をとる時間帯となっていた。
ここで、ご飯を食べるには、ここから離れた場所にある食堂のようなところに行かなければならない。
僕とシュウは、そこへと向かった。
配膳をしている人のもとに行くと、その人に合った食事が配られる。僕たちに配られるのは、パン1個とスープ1皿。これ以外の物が出されたことはない。
「それじゃあ食べようか」
二人で質素な食事を摂る。
ハッキリ言えば、美味しくはない。だが、不味くもない。これといった特徴的な味はなく、無味に近い。腹を満たすための食事といった感じだろう。ただ、10日も同じ物を食べていると、自然と慣れてくる。
むしろ、10日も同じ物を食べ続けるならば、これくらい味が無い方が、飽きなくなるから、一番いい味付けなのかもしれない。
これだけ少なければ、食べるのに時間はかからない。いや、僕たちが急いで食べているのもある。
「おいおい、どうして劣等組が呑気に飯なんか食ってるんだ?」
来た。僕たちが急いで食べている理由となった彼等が。優秀な人たちを先頭に、僕たち二人以外のメンバーも食事に来た。
彼等は僕たちとは違い、最高の環境の下で訓練に取り組むことが出来る。だからこそ、成長速度も圧倒的に差がある。個人の力に差が生まれて、優劣がハッキリすると人は大きく変わってしまうようだ。
その良い例なのが彼、
「ご、ごめん。ちょうど僕たちは食べ終わったから、すぐに帰るよ」
「その態度が気に入らねぇんだよ!」
今日は一段と当たりが強いな。
距離を詰めてきて、僕の胸ぐらを掴んできた。何か癪に障るようなことをしただろうか。
もう一度謝るしかない。
そう思っていたが、僕が謝るよりも先に、他の者たちが彼を止めに入る。
「落ち着け界斗、こんな場所で騒ぎを起こすな」
「そ、そうだよ。こんな二人のことは放っておいて、早くご飯を食べようよ」
龍弥君や、数名の女子生徒が割って入ってきた。流石の界斗君でも、彼らに言われれば、落ち着かざるを得ないようだ。
もちろん、龍弥君たちが僕たちを庇って行ったわけではないのは理解している。ただ単に、騒ぎになるのが面倒なだけだったのだろう。事実、彼らは僕たちに一言かけるどころか、見向きする様子すらなかった。
そう、僕たちが置かれている状況とは、そういうことなのだ。
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