節分のお悩み ~豆まきと教育とO・T・O・3~
───【登場人物(♂3:♀1:不問1)】───
緒方(♂)
轟(♂)
大清水(♂)
母(♀)
息子(♂少年)
───【本編】───
息子
「お母さん! 節分って、豆をまく日なんでしょ? 鬼は外、福は内、って! 豆まき、やろうよ! お母さん!」
母
「しません。」
息子
「えっ!? なんで!? 学校のお友達はみんなやってるって言ってたよ!うちはやらないの!?」
母
「あのね。豆は投げるものじゃなくて、食べるものなの。食べ物を粗末に扱っちゃダメでしょ?」
息子
「でも学校のお友達はみんな──」
母
「よそはよそ。うちはうち。
それに、豆まきをするなら鬼の役をする人がいるでしょ?
人に豆を投げつけたりなんかしちゃいけません。
万が一、目に入ったりとかしたらどうするの?」
息子
「人じゃなくて、鬼だよ?」
母
「鬼なんていません!! あなたが豆を投げつけてるのは、鬼じゃなくて人なの!
人に豆をぶつけて遊ぶなんていう無粋で不謹慎な遊び、あなたの教育に害しか与えないんだから、そんなことは、うちでは、しません!!」
息子
「……お母さんの鬼」
母
「なんですって!?」
息子
「お母さんの鬼ー! 鬼ー!豆まきしたいー! 豆まきさせてー!!」
母
「そんなに泣き叫んでもダメなものはダメです!! ほら、早く諦めて部屋に戻って勉強しなさい!」
息子
「やーだーやーだー!!豆まきー!! 豆まきーー!!」
母
「ああもううるさい!! 静かにしなさい!!
……はぁ。どうにか息子に言うことを聞かせる方法は無いかしら……」
緒方
「お困りですか、奥様よ!(奥様よ)(おくさまよ)」
母
「!? 誰っ!?」
轟
「お困りならば、いざ行かん!(いざ行かん)(いざゆかん)」
母
「どこ!? どこから聞こえてくるの!?」
(玄関のチャイムの音)
母
「あ、はーい。誰かしら、こんな時に…… どなた──」
大清水
「わるいこはいねがー!!」
母
「ヒッ!?」
緒方
「豆まきがしたい少年よ!」
轟
「そうはさせない母親よ!」
大清水
「間をとって我らが行かん!」
緒方
「オー!」
轟
「ティー!」
大清水
「オー!」
緒方
「鬼!」
轟
「福!」
大清水
「大清水!」
緒方
「三人組ッ!!」
轟
「略して我ら!!」
緒方・轟・大清水
「
母
「……は?」
緒方
「失礼ながら、上がらせていただく! 鬼だが!!」
轟
「失礼いたす! 福なので!」
大清水
「失礼ッ!」
母
「え、ちょっとちょっと!!」
(三人、ドカドカと上がり込む)
緒方
「おーにーだーぞー!!」
息子
「え、うわああああ!!」
轟
「大丈夫だ少年! 私は福である!さあこの豆をもって投げるのだ!!」
息子
「えっ、あっ! わかった! よーし!」
母
「コラーッ!!」
大清水
「ぬぅん」
母
「人に豆を投げてはいけないって言ったでしょ!!
それに何なんですかあなたたちは! 急にドカドカと家に入ってきたと思ったら人の家の息子に豆まきをさせようだなんて!」
緒方
「鬼である!!」
轟
「福である!!」
母
「人でしょうが!! とにかく、うちでは豆まきをやらないので! お引き取りください!!」
大清水
「なぜ豆まきをやらないのだ?」
母
「教育に悪影響しかないからです!! 悪影響を与えるものをわざわざやる必要がありません!」
緒方
「そうは言うがな奥様よ」
轟
「悪いことは悪いことだと教えることも、教育ではないのか?」
大清水
「悪影響を過剰に回避することで、子どもの楽しみを奪ってしまってはおらぬか?」
母
「それは……」
緒方
「ということで豆をまこうぞ少年よ!!!」
息子
「やったあ!!」
母
「ちょっと!?」
轟
「まあまあ奥様よ、我らに任せてはくれまいか」
大清水
「ちょっと一度やらせてみてくれはしまいか」
息子
「豆まき、豆まき!」
大清水
「少年もあのように喜んでいることだし」
母
「うーん……」
緒方
「ということでこちらに用意したるは炒り大豆」
轟
「そして落花生」
母
「なんで!?」
大清水
「地域差を考慮させていただいた。大豆を投げる地域もあれば、落花生を投げる地域もある」
緒方
「ということで、鬼であるこの私を倒すために! 武器を選ぶのだ少年!!」
息子
「えーっと、それじゃあ……」
(※豆か落花生、好きな方をお選びください)
息子
「(豆/落花生)にする!」
緒方
「よーし決まったな!」
轟
「それでは私は個包装チョコを」
大清水
「私は十円ガムを」
母
「豆じゃないけど!?」
緒方
「投げて楽しければよいのだ」
轟
「個包装なので床に落ちても衛生的である」
大清水
「あとから食べるにも豆だけでは飽きてしまうのでな」
母
「そりゃまあ、そうだけど」
轟
「ということで少年よ、このセットがキミの鬼退治の武器だ」
息子
「わくわく」
緒方
「それでは投げていこうぞ!」
息子
「鬼はー!!」
轟
「ちょっと待たれよ!!」
息子
「えっ!?」
緒方
「今回投げるのは私ではないのだ。
私は鬼なので、他に鬼がいそうなところは見えている。
その場所に向かって豆を投げていくことで、この家に住み着いた鬼を払っていくのだ!」
息子
「たのしそう!!」
轟
「よーしそれでは鬼退治の旅へ、レッツゴー!」
緒方
「まずはキッチン! 水場は邪気が溜まりやすい!」
息子
「おにはーそとー!」
轟
「ナイススロー!!」
緒方
「鬼たちが逃げていくのが分かるぞ!」
轟
「次は福を呼び込むのだ!」
息子
「わかった! ふくはーうちー!」
轟
「ナイススロー!!」
緒方
「これでキッチンは浄化されたぞ! 次はお風呂場! 水場は邪気が溜まりやすい!!」
息子
「おにはーそとー! ふくはーうちー!」
轟
「良いぞぉ良いぞぉ!! 豆まきの才能がある!」
緒方
「さあさあ次に行くぞ! 次は洗面台だ! 水場は邪気が溜まりやすい!!」
(緒方、轟、息子の3人、そのまま家を移動しながら)
母
「……はぁ。」
大清水
「どうしたのだ奥様よ」
母
「こうやって散らかしたのを片付けるのは誰かって話ですよ」
大清水
「それは散らかしたものが片づけるのが筋であろう。つまり我ら!
そして当然! 奥様の息子も一緒である!」
母
「本当に片づけるかしらねえ……お菓子はまだしも、散らかった豆を拾うのとか面倒じゃありません?」
大清水
「デッデーン!!
母
「えっ何!?」
大清水
「取り出したるは掃除機とストッキング!掃除機の先端を抜いてホース型にし、そこにストッキングを差し込む!
ストッキングが吸い込まれないように輪ゴムで固定してから散らかった豆やお菓子を吸い込む!!
するとあら不思議! 豆やお菓子はストッキングに引っ掛かるので、簡単に回収できるという優れものなのだ!!」
母
「ちょっと待って、それ誰のストッキング!?」
大清水
「もちろん自前である!!」
母
「あ、そ、そう。なら良いんだけど」
(豆をまいていた3人、戻ってくる)
緒方
「戻ったぞ! この家の鬼はあらかた片づけておいた!!」
轟
「それでは少年お待ちかね、もぐもぐタイムだ!」
息子
「やったー!!」
大清水
「おっと待たれよ! 食べるにはまず撒いたものを集めねばならぬ! 手元の残りだけでは心もとないであろう!」
息子
「えー……片づけるの嫌ー。拾うのめんどくさいー。」
大清水
「デッデーン!!
息子
「えっ何それ!? 楽しそう!」
大清水
「それではコレをもって、撒いたところへ駆けつけようぞ!」
(大清水と息子、撒いたところへ移動する)
(間。戻ってくる)
大清水
「戻ったぞ!!」
息子
「いっぱい撒いてたからいっぱい拾ってきた!」
母
「あら、ちゃんとお掃除したの」
息子
「したよ! ストッキング掃除機がすごかった!」
大清水
「さすが
緒方
「さて改めてもぐもぐタイムといこう」
轟
「少年が撒いた豆やお菓子には福が宿っているだろう。
これを年の数だけ食べることで、今年一年の平穏を願うのだ」
大清水
「でも衛生的にも教育的にも子供によろしくないので今回は落ちていない豆から食べる豆を選出しよう」
母
「落ちた豆はどうするんです?」
緒方
「後で我らがおいしく処分させていただく」
轟
「それでは! レッツ! もぐもぐ!!」
息子
「いただきまーす!」
(間。ちょっともぐもぐタイム)
大清水
「ときに少年よ」
息子
「何?」
大清水
「人に豆を投げるとどうなるか知っているか?」
息子
「えっ? い……痛い?」
大清水
「そう、痛い。
が、どれぐらい痛いかというのもある程度は知っておいた方が良いぞ。
……まあ、百聞は一見に如かず、というしな」
母
「まさか、人の息子に豆をぶつける気ですか!?」
大清水
「そんなことはしない。よし轟! アレを!」
轟
「この私が福、またの名を轟! そしてアレとはコレ!発泡スチロールの板!」
大清水
「実際に人にぶつけると痛いので、この発泡スチロールを持ってもらって、実際にガードしてみようではないか。
よし緒方!!」
緒方
「そうこの私が鬼、またの名を緒方!! 人の姿に戻って発泡スチロールを持たせていただく!」
大清水
「さて少年よ! 豆が当たるとどれだけ痛いのか、その目で見るがよい!」
息子
「ごくり……。」
大清水
「それでは覚悟するがよい鬼よ!! 我が渾身の力を込めて!
デーモォン!! ゲラウェイ!! ショーーーット!!!」
(豆、発泡スチロールの板を突き破り緒方に直撃する)
緒方
「グワーーーーーーーッ!!!」
轟
「緒方ーーーーーーッ!!!」
緒方
「ま……豆は……鬼の……弱、点……ガクリ」
大清水
「ということで、豆が当たると痛いのだ。くれぐれも少年は、人に向かって豆を投げてはならぬぞ」
息子
「でもおじさんは鬼じゃなかったの?」
大清水
「おじさんは鬼だが、我ら人にはそう簡単に鬼と人との区別がつかないようにできている」
緒方
「鬼か人か分からないまま豆を投げつけると、人に当ててしまっては痛い思いをさせてしまうし、鬼に当ててしまっては鬼が本性を現して少年に襲い掛かってくるのだぞ。」
轟
「本気を出した鬼は少年なぞすぐに食べてしまうかもしれん」
息子
「いやだ! ぼく食べられたくない!」
轟
「そうだろうそうだろう。
それに、人に豆を投げてしまうと、もしかしたらその人を鬼に変えてしまうかもしれん。」
息子
「それもいやだ!」
大清水
「それが嫌ならば、人には絶対に豆を投げてはいかんぞ」
息子
「わかった!」
緒方
「よーし、良い子だ」
轟
「それでは少年、ちょっとこちらへ。ないしょ話をしよう」
息子
「なーに?」
(二人、内緒話をする)
母
「……何の話をしているのかしら」
大清水
「奥様はそのまま待っておくがよかろう」
轟
「……ということだ。頑張れるか?」
息子
「わかった!」
(息子、母の後ろに回る)
母
「……どうしたの? 後ろに来て」
息子
「……お、おにはそと、ふくはうち」
(息子、母の背中にやさしく豆をかける)
息子
「お母さん、いつもごはんつくってくれたり、そうじしてくれたり、いろいろやってくれてありがとう。
そして、いつもおつかれさま。ぼくももっと良い子になるようにがんばるから、
おかあさんの中から、おこりんぼの鬼がいなくなってくれますように。
そして、福の神が入って、長生きしてくれますように。」
母
「……。そうね。 ちょっと厳しくしすぎちゃったかしらね。」
緒方
「少しずつ変わっていけばよい! 応援しているぞ!」
轟
「これにてこれにて一件落着」
大清水
「我らが仕事も一件落着」
母
「……あなたたちも、ありがとうございました。
息子から害になるものを遠ざけるだけではなく、
悪いことは悪いと教えるのも親の役目ということを
改めて、実感しました。」
緒方
「礼には及ばぬ、奥様よ」
轟
「やるべきことをやったまで」
大清水
「おっと最後に一言を」
緒方
「少年よ!」
轟
「ガムとチョコレートを一緒に食べると!」
大清水
「ガムが溶けるぞ!!」
息子
「ほんとに!?」
緒方
「それでは我らは失礼する」
轟
「鬼退治ならばすぐに呼べ」
大清水
「失礼ッ!!」
(3人、ドカドカと玄関から去る)
母
「……鬼退治?」
息子
「お母さん! ガム溶けた!!」
母
「あらそう、良かったわねー」
──────────
緒方
「
轟
「それは悩める人の前に!!」
大清水
「助けを求めるあなたのそばに!!」
緒方
「いつでもどこでも駆けつける!!」
轟
「次に我らが現れるのは!!」
大清水
「あなたのお家かもしれない!! それではこれにて!!」
緒方・轟・大清水
「失礼!!!!!」
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