5件目のお悩み ~はじめての親とO・T・O・3~
───【登場人物(♂4:♀1)】───
緒方(♂)
轟(♂)
大清水(♂)
男(♂)
女(♀)
───【本編】───
(玄関を開ける音)
男
「はー疲れた。ただいまー」
女
「おかえりー……。」
男
「うわ。どうしたの」
女
「さっきまでずっと赤ちゃんが泣いてたのよ……。
おむつ替えても泣き止まないし、ミルクは飲まないし、遊んであげても全然泣き止まなくて、
さっきまで抱っこしながら延々と揺らし続けてちょうど今さっき寝付いたところなのよ……」
男
「あ、そ。で、今夜の夕飯なに?」
女
「……は?」
男
「夜ご飯。」
女
「私の話、聞いてた?」
男
「聞いてた聞いてた。おつかれ。で、飯は?」
女
「は?」
男
「いや、お前こそ俺の話聞いてる?」
女
「出来てるわけ無いでしょ?
さっきまで赤ちゃん寝かしつけてた、って言ったでしょ?
ご飯作る暇あると思ってる?」
男
「出来てないの? マジ? あーそっか。じゃ風呂入ってくる。準備できてるよね?」
女
「……は?」
男
「は? 出来てないの? 風呂も飯もないとかお前何してたの?」
女
「アンタマジで人の話聞いてないわけ!? さっきまで寝かしつけてたって言ってるでしょ!?」
男
「いや専業主婦だろお前。あるだろ。時間ぐらい。何、サボり? 最近そういうとこあるよね。甘えてんじゃねえの?」
女
「じゃあ少しぐらいアンタも子育て手伝いなさいよ!!」
男
「うるっさ! 疲れてんだよ俺は。仕事で。
ずっと家にいるお前と違って、家計を助けるための仕事でへとへとなんだよ。
せっかく家に帰ってきてまた子供の世話しろとかさ、ありえないよね?
お前の仕事だよね? 子育てと家事。
他の奥さんはちゃんとやれてるんだから、お前がサボってるだけじゃん。
違う?」
女
「さっきからダラダラダラダラ言い訳ばかり!
私だけの子供じゃないんだよ!? あなたとの子供でもあるんだよ!?
なんで一緒に育ててくれないの!?
なんで家事のひとつも手伝ってくれないの!?」
男
「あーうるさいうるさい。もういい。メシ買ってくる。」
女
「はぁ!? 逃げるの!? 話終わってないんだけど!?」
(赤ちゃんが泣きだす)
女
「ああーー!! ほら赤ちゃん起きちゃったじゃない! たまにはアンタがあやしなさいよ!!」
男
「はぁ!? 俺の話聞いてた!? それはお前の仕事だっつってんだろうが!
俺はメシ買ってくるのに忙しいんだよ!」
女
「いいかげんにしてよ!!」
(突然玄関のドアが開く)
轟
「緊急性が高いのでいきなり失礼させてもらう!!」
男
「はぁ!?」
女
「誰!?」
緒方
「説明は後だ!」
大清水
「二人ともとにかくリビングに戻れ!」
女
「えっ!? ちょ、ちょっとちょっと!」
(全員リビングに移動)
────
(轟、背景で赤子をあやし続ける)
女
「ていうか、誰なんですかあなたたち!」
男
「そうだよいきなり家の中に入ってきて! 不法侵入だぞ! こっちはただでさえイライラしてるってのに!」
女
「はぁ!? 私だってイライラしてんのよ! 誰かさんのせいで!」
男
「はぁ!? 元はと言えば──」
緒方
「落ち着けェ!! ここでの争いは何も産まない!!」
大清水
「仕方ない、まず挨拶だけでもしておくか。轟! 轟! 挨拶をするぞ!」
轟
「了解! あ~ちょっとだけばいばいしようね~ばいばい~」
(轟、戻ってくる)
緒方
「子育て疲れの新米夫婦!」
轟
「赤子に不慣れの新米夫婦!」
大清水
「ならば我らが助けましょう!」
緒方
「オー!」
轟
「ティー!」
大清水
「オー!」
緒方
「緒方!」
轟
「轟!」
大清水
「大清水!」
緒方
「三人組ッ!」
轟
「略してあ~ばっばば~ぶ~べろべろ~」
大清水
「轟!!!」
轟
「失礼!! ウォッホン!略して我ら!! 」
緒方・轟・大清水
「
男
「……いや誰!?」
轟
「私は戻るぞ!」
大清水
「健闘を祈るぞ轟!」
(轟、背景で赤子をあやす作業に戻る)
緒方
「それでは私は台所を借りたいが、よろしいか」
女
「えっ!? あっ、はい、どうぞ」
緒方
「感謝する。では失礼!」
大清水
「行ってこい緒方!」
男
「……で! あんたたちは一体何なんだ! こっちは疲れてるんだよ! 余計な疲れを増やさせないでくれ! 明日も仕事なんだよ! 誰かさんと違って!」
女
「はぁ!? こっちだって疲れてるのよ! 休日がある誰かさんと違って!!」
大清水
「その通----り!!!」
男
「何が!?」
大清水
「疲れている! そう疲れているのだ!
どちらがより疲れているか、という話ではない!
どちらも! 疲れている!」
女
「だ、だから何……?」
大清水
「疲れというのは──」
轟
「父親よ!」
男
「何だよ!」
轟
「おむつを替えるぞ!」
男
「だってよ」
轟
「父親ァ! お前に言っているのだ!!」
男
「いや俺の仕事じゃねえって」
轟
「父親ァ!!!! 早くしないか!!!」
男
「あーもううるさいな! 行けばいいんだろ!?
……っていうか、どうすればいいんだよ」
轟
「コレが替えのおむつで、これがおしりふきだ。
替えた後のおむつはこちらの袋に入れたうえでおむつ用のごみ箱に捨てるだけでよい。」
男
「はぁ。それなら簡単じゃん。
よっ、っと。……うわ暴れるな、ちょ、手についた! んなー! もう!
……ふう、これでいいか?」
轟
「おむつを替えたところ悪いが、追いおしっこだ。もう一度おむつを替えるぞ!」
男
「はぁ!? なんでだよ……でもまあ仕方ないか……。」
女
「……ちゃんとやってる……。」
大清水
「珍しいか?」
女
「初めて見るかもしれない……。」
男
「……はぁ、終わった……。」
大清水
「では話の続きだな。二人とも疲れているという話であったが、疲れというのは、余裕を無くすものだ。体の余裕も、心の余裕もだ。」
女
「はぁ……」
大清水
「母親も、もし子供がすんなりと寝てくれてさえいれば、極端な話、子供の世話をしなくて良いのであれば、父親にこうも強くあたらなかったであろう。」
女
「まぁ……そう、かも。」
大清水
「それは父親も然りだ。仕事が──」
轟
「父親よ!!」
男
「なんだよ良い所で! またおむつか!」
轟
「ミルクを作るのだ!!」
男
「だってよ」
轟
「父親ァ!」
男
「だーもう! 俺作り方分からないんだよ! そもそも作ったことねえし!」
緒方
「父親ァ! 台所に来るのだ!! この緒方が! 手とり! 足とり! ナニとり!」
男
「ナニって何だよ!!」
緒方
「なあにミルクの作り方なんてガーッとやってボーっとやってジャーだ!」
男
「わかんねえよ! ったく……」
女
「……どうして私じゃなくて?」
大清水
「新人研修である」
女
「まあ、残念なことに子育て新人だけどさ」
大清水
「仕事の内容も知らずにサボりサボり言う輩には多少なりとも仕事の内容を教えておくべきなのでな」
女
「ほんとそれよ。こっちがどれだけ苦労してるかも分からずに口だけ達者にギャーギャー言ってさ。クソ上司かよっての。」
大清水
「そこまでであるぞ!母親も父親の仕事の内容を分かっているわけではあるまい」
女
「……そりゃまあ、そうだけど……。」
男
「はあーー。いや確かにガーッでボーッでジャーだけどさ……。面倒すぎるでしょ……」
轟
「3時間後にまた出番だぞ!」
男
「はぁ!? ほとんど休めねえじゃん!」
女
「そうよ?」
男
「あっ……」
大清水
「話を戻そうではないか。
父親も、仕事に余裕があり、定時で帰宅できれば、
何なら有給を取得して充分な休暇が取れれば、
母親にここまで強く当たることもあるまい。」
男
「そう、かな……。」
緒方
「さて、お待たせしたな。夕食を用意したぞ!父親には特別にビールもつけてやろうではないか!」
男
「おっ、ありがとう……ございます」
緒方
「そのお礼、普段から母親に言っておるか?」
男
「……」
大清水
「とにかく!今は二人とも疲れているのだ!!
無理もない、初めての子供だ! 右も左もわからない、体力配分も分からない!
必要以上に気負ってしまい、普段以上に疲れてしまう!
仕方ないのだ! 二人とも疲れるのだ! だから心も体も余裕がない!!」
女
「……だからって、どうすればいいのよ」
緒方
「休むのだ」
大清水
「とにかく休むのだ」
女
「休む、ったって、簡単に休めないでしょ?」
轟
「子は寝たぞ。満腹になって満足したようだ。ちゃんとゲップもさせておいた」
女
「ああ……本当にありがとうございます。何から何まで……いやもう、これだけでも本当に休めてるけど」
緒方
「もっと休むのだ」
轟
「子どもは一時預かり保育でも使い」
大清水
「家事はすべて投げ捨てて、外食をして銭湯へ行く」
緒方
「もちろん父親も有給を取るのだ」
男
「簡単に言うけどさ。子どもの将来のために節約してるんだけど」
轟
「子どもの将来を担うお前たちのために金を使えと言っているのだ!!!
この時だけは節約など忘れるのだ!! 散財だ散財!!」
女
「でも、外食とかすると健康に」
大清水
「1日ぐらい不摂生したところで死なぬわ!! 逆にあまりに根詰めると心が死ぬのだぞ!!」
女
「ま、まあ……うん……。」
男
「そう……ね……。」
緒方
「分かったようだな」
轟
「これにてこれにて一件落着」
大清水
「我らが仕事も一件落着」
緒方
「よーしそれでは最後に」
大清水
「母親よ、ちょっとこちらへ」
女
「えっ!? 何!? 何をするの!?」
大清水
「ちょっと気持ち良い事をしようではないか」
男
「はぁ!? 人の妻に何を」
緒方
「父親はこちらだ」
男
「えっ!? ちょ、何を」
緒方
「気持ち良い事をするのだ。気持ち良い事はとても気持ち良いぞ。
何せ体と体のぶつかり合い、くんずほぐれつくんずほぐれつ」
男
「えっ、ちょっ、あーっ!!」
(間)
女
「……とっても気持ちよかった……」
男
「そうだな……とても気持ちよかったな……」
緒方
「そうだろうそうだろう」
轟
「二人の渾身のマッサージ術を堪能したようだな」
大清水
「さぞリフレッシュできたことであろう」
女
「ほんとよかった……だいぶすっきりした……なんか、その……色々ありがとうございます」
緒方
「礼には及ばぬ、新米夫婦よ」
轟
「やるべきことをやったまで」
大清水
「おっと最後に一言を」
緒方
「新米夫婦よ!」
轟
「満身創痍になったならば!」
大清水
「我らはいつでも駆けつける!」
女
「ほんとに!?」
男
「お、俺も頑張るから、ほどほどに……」
緒方
「それでは我らは失礼する」
大清水
「お困りならばすぐに呼べ」
轟
「あばばぶばー」
(3人、ドカドカと玄関から出ていく)
男
「……疲れてたんだな」
女
「……そうね」
男
「……俺、出来る限り頑張るよ。子育ても、休息も」
女
「少しずつでいいわよ、新人さん」
男
「面目ない…… 」
──────────
緒方
「
轟
「それは悩める人の前に!!」
大清水
「助けを求めるあなたのそばに!!」
緒方
「いつでもどこでも駆けつける!!」
轟
「次に我らが現れるのは!!」
大清水
「あなたのお家かもしれない!! それではこれにて!!」
緒方・轟・大清水
「失礼!!!!!」
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