第5話

「でもさー……」

 そこでエチカは、ニヤリと笑う。

 そして、ラーラにつけられてしまったガムテープを力づくで外し、自分の能力を抑えていた『色付きメガネ』を取ってしまった。


「もしかして会長さん……今日は、いつもよりも少しだけ、頑張ろうと思ったんじゃなぁーい? クリスマスが近くて浮かれてたのは会長さんも同じで……みんなにデートと告白のチャンスをあげた流れで、自分も告白しちゃおうとかおもってたんじゃなぁーい?」

 エチカの視線は、ユウミが持っていたバッグに向けられている。


「あたし、さっきメガネを外したときに、見ちゃったんだよねー? そのバッグの中に……なぁーんか、オシャレなアクセサリーみたいなの入っているよねぇー? もしかしてソレ、マイミちゃんへのクリスマスプレゼントとかぁー?」

「っ⁉」

 バッグの中身を透視されて、ユウミは明らかに取り乱す。

 そして、そんな自分の挙動不審を誤魔化すように、

「ち、違……違う……違います!」

 と言って、三人から走って逃げ出してしまった。


 しかし、

「あ、あのっ!」

 逃げようとするユウミの体を、ルシアが念力で押さえつける。

「も、もう……逃げないでください……。じ、自分の気持ちから……」

「うっ……」


「ったくよー……」

 身動き取れないユウミにラーラが近づいてくる。そして、自分の携帯電話をユウミに差し出しながら、言った。

「アンタには一応……今日デートをセッティングしてもらった借りがあるからな。一回だけなら、チャンスをやるよ。……実は今、帰ってったマイミのあとを、もう一人のオレが追っかけてんだ。今のうちに、マイミを口説こうと思ってな。話はだいたい分かってるはずだから、アイツからマイミの居場所聞いて……せっかく持ってきたプレゼントくれー、渡しちまえよ!」


「皆さん……」

 ユウミは、自分を見ている三人を見回す。

 すでにルシアの念力は解けていて、彼女は自由に動くことができる。だが、もう逃げ出す気持ちはなくなっていた。


 今まで自分の気持ちを誤魔化すために利用していただけの三人――しかし今は、同じ人物を愛する恋のライバルの三人――が、自分を後押ししてくれている。自分の気持ちに正直になることを、応援してくれている。

 それが分かってしまったから。


「……」

 ユウミは、薄っすらとにじんできた涙をぬぐうと、

「……ありがとうございます!」

 と言って、ラーラから携帯を受け取って、モールの中を走っていった。




 残された三人は、その背中を見ながら……いつものユウミのような大きなため息をついた。


「あーあー。これで、『ファンクラブ』も解散かなぁー……?」

「ま、それはしゃーねーだろ。恋人・・が出来たマイミを邪魔するほど、オレらだって腐っちゃいねーよ」

「う、うぅ……マイミさん……。お幸せに……」

 号泣して、その場に崩れ落ちるルシア。

 そんな彼女を横目に見ながらエチカが、

「確かにユウミちゃんは、考えてることが顔に出やすいタイプだけどー……。実はマイミちゃんも、それとおんなじくらい気持ち分かりやすい子なんだよねぇー……。だって、ユウミちゃんと一緒にいるときのマイミちゃん……別人みたいにカワイイんだもんなぁー……」

 とつぶやくのだった。




 それから、数分後。

 マイミのもとにたどり着いたユウミが、マイミに言ったこと。それと同時に、バッグの中の物を渡したこと。

 そして、その答えとしてマイミから返ってきた言葉。

 それらの詳細は、当事者の二人にしか分からない。超能力でもなければ、分かるはずがない。

 だが……今さらもう、そんなものは必要ないだろう。


 誰かが誰かを想うということ。そして、勇気を出してその気持ちを相手に伝えるということは……それだけで、どんな超能力よりも素晴らしいものなのだから……。




「つーか、このヤンキー……。まーた、こっそり分身でマイミちゃんのことストーキングして……一人でぬけがけしようとしてたんだぁ?」

「うるっせぇ。おめーこそ、勝手にメガネ外して、オレらの裸見てんじゃねーよ。また鼻血出してーのかよ? このエロメガネがっ」

「は? あんたらの裸なんかみて、鼻血でるわけないじゃん? むしろ、貧相すぎる体見ちゃって、誰かさんみたいにゲロ吐きそうなんですけどー?」

「……よぉーし、お前ぶっ殺す。今、ちょうどオレ、むしゃくしゃしてるからな。二人がかりでボコってやるから、もう一人のオレが帰ってくるまで、ちょっとそこで待ってろよ?」

「やれるもんなら、やってみろし!」

「こ、この二人……またいちゃついてるぅ……」

「「いちゃついてないよねーし!」」


 だ、誰かが誰かを想うということは、素晴らしいもの……なの、だから?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

マイミちゃんファンクラブ 紙月三角 @kamitsuki_san

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ