第4話

「はあ……」

 マイミと別れてその姿が見えなくなると、ユウミはまたいつものクールキャラに戻って、特大のため息をついた。

「とにかくこれで……結果は出ましたね?」


 隠れていた他の会員たちも、マイミがいなくなったことでユウミのところに集まってきている。

「あぁ? ……うぷ」

 食べ過ぎで、未だに気持ちが悪そうに口元を抑えているラーラ。

「け、結果……って……?」

 事務所で店員から相当問い詰められたらしく、涙で目を真っ赤にはらしているルシア。

「みんなが、意外とバカっぽいっていう結果?」

 もう二度と能力を使わせようにと、ラーラに色付きメガネを乱暴にガムテープで固定されてしまっているエチカ。


 そんな一同を、これまで通りの冷酷な視線で見回しながら、ユウミは言う。

「今日の有様を、見たでしょう? せっかくマイミとデートできる機会を与えられたというのに……私たちは自分の欲望のままに任せるだけで、マイミを楽しませる事ができた人なんて、一人もいませんでした。これでは、本当にマイミと付き合ってデートできる関係になれる人なんているはずがありませんし。もしも、まかり間違ってそのようなことになっても、マイミを幸せにできるはずがない。私たちは、マイミにはふさわしくない、という結果です。ですから、今後はもっとお互いの監視を厳しくして、絶対に、私たちの誰もマイミに近づかないように……」


「なっ⁉」

 その言葉に最初に反応したのは、やはりラーラだ。

「ふ、ふざけんなよっ⁉ こんな、今日一日のことくれーで何が分かるって……」

 彼女は体調の悪さも忘れて、ユウミに掴みかかろうとする。

 しかし、その前に……。


「い、嫌です!」

 おとなしい印象のルシアが、モール中に響くような大声で叫んだ。


「わ、私はまだ、マイミさんのこと諦めたくないですっ! た、確かに、今日は失敗しましたけど……私の気持ちは、何も変わってません!」

「……っ」

 その勢いに、思わず圧倒されてしまうユウミ。


 ルシアにタイミングを奪われてしまったラーラは、気を取り直して、少し気を落ち着けてから言う。

「オレだって、コイツと同じだよ。一回失敗したくれーでマイミのことを諦めるなんて、ぜってー嫌だ。……会長さん、アンタだって、同じじゃねーのかよ? アンタのマイミへの気持ちは、その程度のモンだったのかよ?」

「そ、それは……」


「ってかさー……いつも思ってたんだけど、ユウミちゃん。全部、自分で自分に言ってるよねー?」

「な、何を……」

 いつもユウミに呆れられていたエチカが、逆にユウミに呆れ顔を作っている。


「ファンクラブなんか作って……ぬけがけしないようにお互いでお互いを監視ぃー? マイミちゃんにふさわしくないから、今後は近づかないぃー? それさー……あたしらが言い出したんなら、まだわからんくもないよ? だってユウミちゃんが言うように、ぶっちゃけあたしらって、まだまだマイミちゃんとは仲良くなれてないからね。あたしらなら、他の誰かに先を越されないようにルールを作って牽制するのは、メリットがある。けど……どうしてユウミちゃんが言うのよ、それー? マイミちゃんと同学年で、もともと『休みの日に一緒に買い物できる』程度には仲がいい関係のマイミちゃんが、どうしてあたしらなんかを監視する必要あんの? あたしらなんか放っておいて、勝手にどんどんぬけがけすりゃーいいじゃん。友だち同士で遊び行ったり、お泊りしたり……自分の立場利用して、いくらでも『いい思い』できるはずじゃん。今のユウミちゃんは、わざわざ自分で『それをしなくていい理由』を作ってるように見えるよ? 自分で自分の行動を縛って……『頑張らない理由』を作ってるんじゃないのー?」

「……」


「も、もしかして……今日、会長さんが自分の能力を使わなかったのも……そ、それが関係してるんですか……? だ、だって、マイミさんの心が読めたら、もっと上手く立ち回ること……出来たはずですもんね……? マイミさんが求めてるものを、いくらでもあげることが出来たはずですもんね……」

「……」


「自分で気づいてねーかもしれねーけど……アンタ、考えが顔に出すぎなんだよ。読心術なんかなくっても、アンタの考えてることなんか、オレらには丸わかりなんだからな?」

「……」


 ユウミはもう、何も言えなくなっていた。

 それは、エチカたちの言ったことが、真実だったからだ。



 ユウミは、自分に自信がなかったのだ。

 彼女だって、他の三人に負けないくらいに来留美くるみマイミが好きだった。だが、その気持ちのままに行動する勇気が持てなかった。

 友人として振る舞うことは出来たが……その先に行くことは、どうしても出来なかった。

 もしも、彼女の心を読んで、マイミにとっての自分が「ただの友だち」でしかないと知ってしまったら……。

 もしも、彼女に気持ちを否定されてしまったら……。


 そう考えたら、一歩踏み出すことがたまらなく恐ろしかった。だから『ファンクラブ』を作って「ぬけがけ禁止」なんて言って、その勇気が持てない自分の言い訳にしていたのだった。

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