第3話

 来留美くるみマイミを諦めてもらうという名目で与えられた、たまさかのデート。

 普段なら、ユウミをはじめとした他の会員たちから監視され、自由に一対一で会うことさえ出来ない憧れの存在。そんなマイミと、クリスマスを間近に控えた今日、コテコテのデートスポットでデートができる。

 当然、ファンクラブ会員なら誰もが、そこで全力で自分の魅力をマイミに伝えようとするだろう。そのデート中になんとか告白して、他のライバルたちを出し抜いてしまおうと考えるだろう。


 だから、こそ。

 そこで彼女たちには全力を尽くしてもらって……そこでマイミに振られ、彼女を諦めてもらう。放っておくと、暴走した恋心で何をしでかすか分からない彼女たちの恋心を先に砕いてしまって、問題を根本から解決する。

 それが、会長のユウミが考えた作戦……彼女が言っていた『北風と太陽』という言葉の真意だったのだ。


 そして、それから数分後。ユウミに呼び出された時間通りにやってきたマイミは、ファンクラブの会員たちと、各自が一対一でデートをすることになった。

 ……のだが。



「お、おいっ! あのエロメガネ、デート始まってソッコーでメガネ外しやがったぞっ⁉ アイツ、デートとか何も関係なく、ただマイミの裸みてーだけじゃねーかっ!」

「あ、鼻血出して……倒れちゃった……」

 最初に挑戦した透視能力者の丸美まるみエチカは、あっという間に「原因不明の出血多量」でドクターストップ――というか、自分の欲望丸出しの反則行為でレフェリーストップ――になってしまったり……。



「マ、マイミちゃん……クレーンゲーム、何か欲しい物……ある? 私、言ってくれたら何でも取れるよ……?」

 念力使いテレキネシストの木根ルシアは、その能力でクレーンゲームのアームや景品を動かしてマイミの欲しい物を片っ端から取っていて、そのお陰でだいぶ好印象を稼げていたようなのだが……。

「あ、あの店員さん……? え……ズ、ズル? 私が……? し、してないです……あ、あの、私、普通にゲームしてるだけで……。ホ、ホントに……このやり方が、私にとっての普通で……。あ、あれ……? あれれ……」

 あまりにも景品を乱獲しすぎたせいで不正を疑われて、店員に事務所まで連れて行かれてしまったり……。



「おい、マイミ! 見てろよ⁉ 今からオレが、最高にかっこいいところ見せてやるからなっ⁉ すんませーん! この『激盛り10キロカレー』っつーやつ、チャレンジしまーっす!」

 分身能力者ドッペルゲンガー分寺ぶんじラーラなんて、何故か、モールのレストランにあった大食いチャレンジメニューに挑戦して……。

「う、うぷ……」

「あ、ラーラさん……またトイレ……っていうか、今回のは、本気っぽい……」

「トイレに行くたびに分身と交代して、二人がかりでやれば食べ切れるとか思ったってこと? あの先輩、マジでバカだねー。分身したって、そもそも一人で5キロは普通に無理っしょー? つーか、好きな子に大食い見せたら惚れてもらえるとか……発想が男子小学生!」

 結局ラーラは、その『10キロカレー』のうちの1キロ程度を食べた時点で、本体と分身の二人ともノックダウンしてしまい、トイレから帰ってこれなくなってしまうのだった。



 そして……最後に。

 そんな残念な三人に対して完全に呆れ切って、もはや呼吸と同じくらいのペースで何度も何度もため息をついていた、読心術者テレパス照端てるはしユウミも……。


「マ、マイミ……のど、乾いてませんか? え? あ。だ、大丈夫、ですか……。じゃ、じゃあ、お腹空いては……な、ないですよね。さっきまで、大食いカレーのところにいましたし……。え、えと……」

 普段のクールキャラはどこへやら。

 想い人の前で完全にアガってしまって、もはや告白どころではないようだった。



 結局、それからしばらくして、次に用があるというマイミは帰ってしまい、この連続デートイベントは終了したのだが……。


 蓋を開けてみれば、デートや告白どころか、マイミと少しでもいい雰囲気になれた会員は一人もいなかった。

 むしろ、急に鼻血を出したり、不正を疑われて店員に捕まったり、大食いに失敗してトイレから出られなくなったりして……。微妙な空気と、マイミの満面の苦笑いを引き出しただけなのだった。

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