第2話

「はあ……」

 今までよりもさらに大きなため息をつく、ファンクラブ会長の照端てるはしユウミ。

 その視線の先には、今もギャアギャアと幼稚園児のように騒いでいる会員たちがいる。


「つーか、よく考えたら……この会長がいる時点で、隠し事なんてできるわけねーじゃねーかよっ! ルシアてめー、それ分かってたんなら早く言えよなっ⁉」

「え、ええぇぇ……? もともとは、ラーラさんから言い出したことなのにぃ……。私は、ただ脅されただけなのにぃ……」

「ああんっ、何だって⁉ 聞こえねーよっ! 言いたいことがあるなら、はっきり言えよなっ! そんなんじゃあ、マイミも気味悪がって相手にしてくれねーぞ!」

「そ、そんなこと、ないですぅ……。マ、マイミさんは……こんな私にも、優しくしてくれてぇ……」

「あっはははーっ! っていうか、マイミちゃんはみんなに優しいんだよー? スカートめくる陰キャにもー、時代錯誤のヤンキーにもさー」

「うるっせぇっ! エロメガネは黙ってろっ!」

「ちょ、ちょっとー⁉ その言い方はないんじゃなーい⁉ そりゃ、確かにあたしはメガネだしー? 最近じゃあ、能力使えなくてもマイミちゃんの裸が脳裏に浮かんじゃうくらいにエロいことばっか考えてるけどー……って、あれ? じゃあ別に、エロメガネであってるのか?」



「……はあ」

 ユウミはそこでもう一度大きなため息をつく。

 しかし、今回のは今までのような、「変人たちの相手にうんざり」という意味のため息ではない。むしろ、そんな変人たちに根負けする形で「何か大きな決断をしたとき」の、準備運動的な深呼吸に近かった。


 それから彼女は、まだ騒いでいる会員たちを見回しながら、言った。

「この『ファンクラブ』はもともと、私たち超能力者がその能力を欲望のままに使って、マイミの心を傷つけることがないように……。自分たちで他の能力者の行動を監視するために……という目的で私が作りました。しかし最近は、その監視が正常に機能している、とは言えないようです」

 ユウミの視線が、分身能力者のラーラで止まる。

「な、なんだよっ⁉ 今日のは、オレだけが悪いってわけじゃあ……!」

 それに対して反発しようとするラーラを相手にせず、ユウミは続ける。


「しかし……そもそも我々はまだ、誰もが未熟な子供です。自分の欲望を完全にコントロールしろと言われても、どだい無理な話だったのかもしれません」

「え?」

「『北風と太陽』……という教訓もあります。常に縛り付けるだけでは、みなさんだって反発してしまうでしょう? 押さえつけられた欲望が、いつか爆発してしまうかもしれないでしょう? それでは本末転倒です。私たちは少しアプローチを……『クラブ』の行動規範を、変えるべき転機にやってきたのかもしれません」

「そ、それって……?」

 ユウミの言いたいことがイマイチよく分からない他の三人。

 ただ、誰もが「なにか新しいことが始まる」という期待のようなものを胸に、ユウミのことを見ていた。


 そんな六つの瞳を、苦々しい表情で見返すユウミ。

「世間ではクリスマスなんていう……軽薄な恋人たちのイベントが近づいて、浮かれきっています。今の自制心薄弱なみなさんでは、その浮かれムードに流されてマイミに対して強硬手段に出ることも考えられます。クリスマスにマイミと結ばれるために、自分の欲望と能力を全開にしてしまう……なんてことも、ありえない話ではありません」

「うっ……」

 三人全員から同時に、「図星」を意味するうめき声があがる。


「ですから……」

 ユウミはまた小さくため息をついてから、結論を言った。

「私は逆に、このクリスマスを利用することにしました。この機会に、みなさんには思う存分全力を・・・尽くして・・・・もらって……マイミにぶつかってもらう。ぶつかって、砕けて……彼女を諦めてもらうことにしました」

「え?」

「つまり……」



………………………………………………



 数日後。


 そのファンクラブの四人は、人がごった返すショッピングモールにいた。

 西洋の街並みを模したおしゃれなそこは、普段から多くの若いカップルがデートで訪れる場所ではあったが、クリスマス間近の今日はその傾向がさらに強いようだ。


「もうすぐここに、来留美くるみマイミがやってきます。クラスメイトで、一応は『彼女の友人』ということになっている私の呼びかけに応えて、一緒に買い物に付き合ってくれるそうです。そこで……皆さんにはこれから一人ずつ、マイミとデートをしていただきます」

「なっ⁉」

「えぇっ⁉」

「マジっ⁉」

 そんなユウミの言葉に……他の三人は驚きと緊張、そして、激しい興奮を隠しきれないようだった。

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