第21話 魔法の鍛錬
「うーん……違うなぁ」
俺は屋敷から少し離れた平原で、魔法の訓練を行っていた。
なお服毒はすでに済ませているので、魔力などは制限されている。それでもそこらの魔法使いよりははるかに強いが。
『なにが違うんだい? さっきから手で空を掴んでいるけど』
俺のすぐそばでテスラが寝転がっている。
「いやさ。グレーターオーガを討伐した後、投石を華麗に避けただろ?」
『華麗でもなければ避けてもなかったような』
「とにかく! 避けれはしたけど危なかったと思うんだ! 仮に四方八方から投げられたら厳しい! だから防ぐ方法を考えてる」
テスラの身体は間違いなく天才だが、常人離れした丈夫さがあるわけではない。むしろガラスの天才なので耐久力は低いようにも思える。
岩の一発で死ぬ恐れもあるので、そういった攻撃を確実に防ぐ手段は用意しておきたい。
『普通に水のバリアでも張ればいいんじゃない? 岩に合わせてさ』
「それだと不意打ちが厳しいだろ」
『僕の反射能力なら不意打たれても確実に反応できるはずだけど。そもそも不意なんて打たれたことないなぁ。なんか気づくんだよね』
おのれ天才め。テスラからすれば事実を述べているのだろうけど、それが自慢になるのがより腹立たしい。
『それで空に手を伸ばしていたのかい? まだ見ぬ答えに手を伸ばす的な』
「いや実はそっちはもう思いついてるんだ。もうひとつ、ちょっとな」
岩というか飛び道具対策に関しては、すでになんとなく解決できそうな魔法は考えた。
なのでいま俺がなんとなく空を掴んでいるのは別の理由だ。
『もうひとつとは?』
「魂ってなんだろうなって」
『急に痛々しいこと言いだしたなぁ』
「うるさい」
テスラに軽口で考えつつ、また空に手を伸ばす。
なんとなくだが、自分の中に魂が宿っていると感じることがある。たぶん一度この身体に転生したことで、そういったものが理解できるようになったとかだろう。
もう少しでなにか掴めそうな気がするんだよな……。
「なあテスラ。お前は未来から魂が送られてきたんだろ? 魂を操る魔法とか使えたりしないの?」
確かテスラは誰かに魂が送られて、過去に戻れたと言っていた気がする。
なら俺と同様に魂での移動を体験したので、なにかを掴んでいる可能性もありそうだ。
『無理だね。あの時は本当に必死というか瀕死というか。死ぬ寸前で無我夢中だったから、どうやって発動できたかも覚えてないよ。死に際の馬鹿力というか』
ん? 今の言葉だと、テスラが自分で過去に魂を送ったような言い方なような。
「お前の魂を過去に送ったのは、他の奴じゃなかったっけ?」
『……おっとそうだった。死ぬ間際だったから記憶が曖昧になっていたよ』
ごまかすように笑い声を出すテスラ。
まあいいか。別に過去に魂を送ったのがテスラだろうが他人だろうが、大した差はないしな。
「なあテスラ、ちょっと聞きたいことがあるんだ。このゲームの主人公……いやクラートのことを知らないか?」
クラート。それは『救世の魔王と破滅の勇者』における主人公の名前だ。
実はテスラからずっと聞けなかったことがある。
それはこのゲームの主人公などのメインキャラについてだ。
聞けなかった理由は簡単だ。俺は最初はテスラに怪しまれていたので、聞いても絶対に教えてくれないと思ったから。
もし俺が悪人の類ならば、彼らを幼い間に亡き者にするなんて考えるだろうしな。
だがそろそろテスラも俺を信用してくれているのではないか。なにせ四年も一緒に暮らしてきたのだから。
『……いいだろう。クラートはベルアイン領の隣領の村に住んでいる。エリシャも同郷だ』
どうやらテスラも俺を信用してくれたみたいだ。
この世界が『救世の魔王と破滅の勇者』ならば、主人公とヒロインの動向は把握しておきたい。なにせ彼らがこの国、ヴァーミリオンを救うのだから。
他にもキャラはいるが特に重要なのはこの二人だ。
クラートは勇者として聖剣の所有者となり、エリシャは聖女となって純白聖装を纏って戦うのだ。
この聖剣と純白聖装がすごく重要なんだよな。この二つがヴァーミリオンに揃うことで、なんと国の天運が大幅に上がるのだ。
作物の収穫量は二倍になり、兵士は豊かな食糧で強靭になり、国力で負けている帝国相手にも抵抗できるようになる。
彼らがこの国に存在することで、隣国である帝国からの侵攻が防がれるのだから。
「わかった。教えてくれてありがとな」
とは言えども今の俺にできることはない。
二人がベルアイン領に住んでいたならばともかく、隣領の村ならば迂闊に手は出せない。
そもそも下手になにかをして歴史を変えるのも嫌だしな。正史通りに進めば彼らは勇者と聖女になるのだから、俺は彼らに余計なことをしないようにしよう。
そうして屋敷に戻ったあと、翌日の朝食をとっていた時だった。
「レイディアス家から盗賊団の討伐依頼が来ている」
そんなことをテスラ父から伝えれたのだった。
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