第22話 要請


「レイディアス家から盗賊団の討伐依頼が来ている」


 自宅の屋敷の食堂で朝食をとっていると、テスラ父がそんなことを言い出した。なお今日はテスラ母がいない。


 ちなみに我が家はグレーターオーガ討伐で少し財政が潤ったが、朝食のクオリティはずっと変わらない。


 何故なら元から食に金を使っているから。ベルアイン家に節約という文字はあまり存在しない。


「私が単独で盗賊団を討伐するんですか?」


 ソワソワをなんとか隠しつつ詳細を聞いてみる。


 それならば本望だ! 盗賊団をひとりで討伐すれば間違いなく目立てるぞ!


 ましてやレイディアス家からの依頼なら、レイディアス領に巣くう盗賊団だ。人口の多い場所で活躍した方が、噂の広まり方も当然大きくなるのだから。


 ……うちの領地は小さいから、活躍してもあまり他領地に広まらないんだよな。あるいは知れ渡ったとしても、どうせド田舎の盛った嘘だろうと思われてしまう。


 つまりレイディアス領で活躍すれば天才として賞賛されるのだ!


「そんなこと許すわけがないだろう!? レイディアス家が盗賊団退治の軍を出すから、お前も同行して欲しいと命れ……要請が来たのだ」


 要請×、命令〇。グレーターオーガの素材で棒引きされたとはいえ、我が家はレイディアス家に借金あるからな。


 ぶっちゃけベルアイン家はレイディアス家の手下みたいなものである。


「しかし他領地である俺を呼び寄せるとは、巣くった盗賊団は結構大きいのですか? レイディアス家なら魔法使いなど簡単に揃えられるでしょう。うちと違って」


 盗賊団はある程度多い数なので軍を出すのは分かる。だがその軍の規模はそこまでの規模は必要ないのだ。


 基本的に盗賊団よりやや多い程度の一般兵と、魔法使いが二人ほどいれば軍として十分だ。何故なら盗賊団には魔法使いがいないから。


 魔法使いは大半が貴族だし、平民でも働き口はいくらでもある。なのでわざわざ盗賊団にいることは稀だ。


 そして魔法使いは銃を兼ねた大砲みたいなものだからな。歩兵同士の戦いなら、大砲を持つ側が圧倒的優位なのはなんとなくわかるだろう。


 引き籠る盗賊団に安全距離から魔法を撃っていれば勝てる。先日のアーネベルベが夜盗相手に、一方的に魔法をぶっ放していたように。


 もちろん魔法使いが不意打ちで狙われると困るので、正面で戦っても勝てるように盗賊団以上の一般兵を揃えるのだが。


 ようは魔法使いは戦術、もしくは戦略兵器になりえるわけだ。


「うむ。そう思うのだが、なにやら今回の盗賊団は少しきな臭いようでな」

「きな臭いとは?」

「ここだけの話だぞ? 隣国から支援を受けていて、魔法使いが紛れている可能性があると。そもそもレイディアス領地は安定していて、治安もしっかりしてるから盗賊団など普通は出てこれないのだ」


 テスラ父は小さくコソコソと告げてくる。


 なるほど。他国を荒らすために盗賊団に支援、もしくは他国の兵士が盗賊団に偽装する……普通にありそうな話だ。


 レイディアス家は国境付近の領地だから、そういった隣国からの間接攻撃も仕掛けられるのだろう。


「うちは国境付近じゃないから狙われていないが、レイディアス家はそうだからな」

「父上。うちの領地は国境付近であろうとも、価値が低すぎて狙われないと思われますが」

「な、なにおう!? 我が領地にだってほら、盗賊の類は出てくるぞ!? きっと他国から支援を受けているやも」

「それはただの天然物です」


 治安が悪いと盗賊は生えてくるからなぁ。


 レイディアス領は盗賊取り締まりなどしっかりしているようだが、我が領はお金がないので放置気味……。


 まあぶっちゃけ土地が貧しいので、そこまで盗賊が出てこないのだが! 奪える荷物や金が少なければ、盗賊も食いっぱぐれるからな!!


 不毛の地ではゴキブリも多くは生きていけないのだ! 自然の要害ってやつだ!


「だがなテスラ。私は決して、決して借金のカタにお前を討伐軍に参加させるわけではない。いや理由のひとつではあるのだが、全部ではないというかな?」

「はい」

「お前の魔法の腕はすでに超一流だ。グレーターオーガすら討伐できるのだから。ならばその実力に見合う手柄も必要だろう? お前は目立つのが好きだしな。レイディアス家は威信にかけて討伐軍を編成するので、戦力も十分だから安心できるし」


 どうやらテスラ父は、借金のためだけに俺を討伐軍に参加させるわけではないようだ。


 というか俺が目立ちたがりなのバレてる。いや隠してたわけではないのだが。


 なんとなく気恥ずかしいのでここは否定しておこう。ほら天才が賞賛されるのにガツガツするって、なんとなく精神的に天才ぽくないじゃん?


「父上。私は決して目立ちたがりなわけでは」

「ないのか? なら無理やりでも断るが」

「いえあります! ありがとうございます、頑張ります!」

「うむ! では武功を期待しておるぞ! それで褒美をもらって帰ってきて、我が領地を富ませるのだ!」


 結局、俺の武功の褒美はアテにしてる件について。


 まあいいさ、俺が欲しいのは金ではなく名誉だ。それにベルアイン領に金をいれないと、領地が財政崩壊したら困るし……。


 

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