第17話 魔物退治


 俺はレイディアス領から自分の屋敷に戻った翌日。


 食堂で朝食をとりながら、さっそくテスラ父にお願いしてみることにした。


「父上! どうか私に盗賊や夜盗退治をお命じください!」

「どうしたテスラ? いきなり?」

「私は目覚めたのです! このままではダメだと!」


 アーネベルベ嬢は俺の先を行っている。


 レイディアス領において、きっと彼女は俺よりも天才と思われているのだ。


 レイディアス領のほうが人口が多い上に、アーネベルベ嬢は積極的に広報活動をしているのだから!


 負けてられない! 俺ももっと崇められたいのだから!


「そ、そうか……テスラも領主としての責任が生まれてきたのだな……! 九歳にしてすでに……!」

「立派になって……」


 なんかテスラ父と母には勘違いされてるが別にいいか。


「テスラ、確かにお前は天才だ。すでに魔法の腕はそこらの貴族でも負けないだろう」

「父上、違います。そこらどころか、腕のいい貴族相手でも圧倒できます」


 間違いは否定しておく。


 これは俺のうぬぼれではない。アーガイさんやテスラから、すでに俺は相当強い魔法使いだと言われているのだ。

 

 自信過剰でないなら過小評価される必要はない! 俺はもっとチヤホヤされたいのだから!


「そうであったな。だがそれでも九歳ではある」

「テスラ! そんな危険なことする必要はありません! 貴方もなんで乗り気なんですか!」

「実はちょうど近隣の森に魔物が現れたと報告があってな。兵士数人に確認させに向かったのだがまだ戻ってこないのだ。このままでは村を襲う可能性もあるし、早めに討伐しようと思ってな」

「兵士が戻ってこない? そんな危ない魔物相手に……!」

「待て待て! 魔物はただのオーガと報告を受けているし、私とアーガイに兵士も同行する。テスラももう九歳だ、狩りを体験するのもいいかなと」

「オーガですか、それならまあ……」


 テスラ母はオーガと聞いて、俺の狩り参加への反対を取りやめるようだ。


 この世界には魔法を筆頭に地球とは違うところがいくつもある。


 そのうちのひとつが魔物、この世界特有の怪物の存在だ。地球における妖怪などの類がこの世界では普通にいる。


 そして魔物は人間を襲う。彼らは人間の魔力発生器官たる臓物を食うことで、力を増すことができるとゲームの攻略本に記載があった。


 この世界の書物には記載されていないので、本当かどうかは不明だけども。


 オーガというのは二メートルを超す大型の鬼だ。その怪力や体の丈夫さは人では及ぶところではない化け物。


 だがその一方で動きは鈍く、遠距離からなにかできるわけでもない。離れたところから仕掛けられる魔法使いからすれば楽勝の相手と習っている。


「ではテスラ、オーガ退治に同行せよ」

「はい」


 ……ただ俺としては微妙に乗り気ではない。


 オーガは退治したところで大して目立てないんだよな。魔法使いからすれば勝って当たり前の相手だから。


 まあいいさ、今回の件を最初にしてもっと強い魔物や夜盗を狩ってやる! そしてチヤホヤされるのだ!


 そうして朝食を取り終えた後、俺はテスラ父に連れられて領地の森へと馬で向かっている途中だ。


 すでに俺も独りで騎乗できるようになっている。当然だ、いつまでも他の人と一緒に乗っているのではチヤホヤされるはずもない。


 俺の将来の理想としては、ドラゴンを退治した後に馬に乗って決めセリフを吐きたいのだ。そうすればきっと絵物語になってぐふふ。


『少しは緊張したらどうだい?』


 後ろをついてきているバーナード、いやテスラからの叱咤が脳内に響く。


 相変わらず老犬が馬と同じスピードで走っていたが、もはや誰もツッコむ者はいない。


『わかってるよ。森についたら油断はしない』

『それならいいけどね。まあオーガ相手ならば、君の力なら緊張する必要もないが』


 こうして俺たちは屋敷から少し離れた森に到着する。


 各自が馬から降りて森の中へと入りだした。


 森の中はやや薄暗いが背の高い木が多く、幸いなことに見晴らしはきく。


 相手は大柄で動きの遅いオーガだし、不意を突かれる可能性は低いだろう。

 




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 テスラたちが来る少し前の森。


 兵士たちは必死に逃げていた。後ろから迫りくる巨体から。


 もはや話す余裕もなく、足もからまってまともに走れていない。それでもなお恐怖という原動力が彼らの足を動かしていた。


 だが追跡者との徐々に距離は詰まっていく。恐ろしい巨体のほうが速いのだ。


(な、なんでっ……! オーガじゃないだろくそっ!?)


 兵士のひとりが心の中で嘆いた。


 ベルアイン家に領民が訴えは、「オーガがいる」だった。


 だが後ろの巨体は明らかにそんな生易しいものではない。オーガは確かに弱い魔物であるが、その上位種であるハイオーガは強力な魔物だ。


 オーガよりも一回り以上大きい三メートルの巨体。さらに頭もずる賢くて、人間の八歳くらいの子供並みにある。


 ハイオーガは半端な魔法ならば丈夫な体で防いでしまい、魔法使いであろうとも決して油断はできない存在だった。


 ――だがそれならば人の足ならば逃げ切れるはずだった。


 後ろから地響きを立てて走ってくる巨体は、五メートルを超えている。


(な、なんで……なんでこんなところにグレーターオーガがいるんっ……)


 グレーターオーガ。オーガの上位種たるハイオーガの、さらなる上位種。


 五メートルを超える巨体が全力で走れば、人間どころか馬よりも速いと言われている。さらにその体の丈夫さはもはや、熟練の魔法使いでも苦戦するほどの強者。


 複数の領地の精鋭魔法使いを呼び集めて、大討伐隊を組むほどの怪物にして脅威。


 グレーターオーガは遊びは終わりとばかりに、今までの数倍の速度で走り出す。そしてすぐに逃げていた兵士たちを踏みつぶし、死体を手でつまんで食べていく。


「ニンゲン、オロカ。モットクッテツヨクナル。オマエラ、モットダマセ」


 グレーターオーガに集まるように、二メートルほどのオーガたちが姿を現す。


 こんな巨体の魔物が今まで存在を気づかれていない理由。


 それはこの森にあえて潜んで、餌となる人間を集めるためだ。


 自分という存在を知ったら人間は討伐隊を組むのを理解して、それが来るまでに人を食べて力を増そうとしていた。


 森に出現したのはオーガだけと見せかけて、弱い人間を誘って食らう。


 まるで食虫植物が無害な植物と思わせるように、賢しい罠をもって張っていた。


 グレーターオーガはしゃがみこむと、肌の色が岩のように変化していく。そして遠目からなら小さな岩山にしか見えなくなった。

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