第13話 九歳になりました


 テスラから未来を変えろと言われてから、俺は色々と頑張った。


 毎日毒月草を煎じて飲みつつ、魔法の勉強や訓練もしっかりやって、かつ病の治療薬の授業をテスラから受ける。


 はっきり言ってハードスケジュールで、かつかなりキツイ。


 だが服毒以外は楽しかった。魔法を学べば学ほど自分が強くなっていくのが分かるし、それに治療薬についても魔法授業の延長みたいなものだった。


 この薬草にはこんな効能があるので、ここだけ魔法で抽出してーとかで他の魔法にも応用が効く。


 唯一の懸念はテスラ父の金使いが荒くなっていることくらいだろうか。


 毎日の朝食のメニューが豪華になり、頻繁に肉が出るようになった。


 たぶん俺により強く育って欲しいがために、栄養のあるものを無理して揃えている。


 ……テスラの話によると父というかベルアイン領は酷い財政難になる。だが俺が無駄遣いを諫めても聞いてくれないのだ。子供の言葉だと意味もないよなぁ……。


 ま、まあ財政難の大きな理由に、川が氾濫した時の復興費があったらしいから……。俺が氾濫を防いだのでなんとかなってくれるといいなぁ。


 そんなこんなで俺がテスラの身体に入ってから、三年の時が経った。


「テスラ。これから一ヵ月後、レイディアス伯爵家へと向かうぞ」


 食堂での朝食時に、テスラ父からそんなことを言われたのだ。


「え、えっと? 随分急ですね……?」


 レイディアス伯爵家は、俺の婚約者であるアーネベルべ令嬢の実家だ。


 ちなみに俺はそのアーネベルベ令嬢と、未だに顔を合わせたことすらなかった。


「お前ももう九歳になったし、礼儀作法も学んでいる。そろそろ顔合わせをしてもいいと思ってな。決して他の理由があるわけではないぞ」


 テスラ父は明らかに偉ぶりながらしゃべっている。


 ああ、これはなにか他の理由があるんだな。俺に隠そうとしている辺り、たぶん借金関係とかじゃないだろうか……。


「あなた! それならテスラに相応しい正装を用意しないと!」

「安心しろ! すでに有名な服飾屋を屋敷に呼んでいる! 予算は気にせずに、我が子が見栄えよくなる服を作れとな! テスラはこの後に採寸だ!」


 ま、また無駄遣いしてるっ!? 


 俺には我が家の財政状況を隠しているつもりだろうが、金欠気味なのくらいは分かってるんだぞ!?


「父上! うちにはお金がないはずでは!?」

「な、な、な、なにを言うっ!? そんなわけがあるかっ!」

「そうよ! うちはお金持ちの貴族なのよゅ!? テスラはお金のことは気にせずに魔法を学んで、ベルアイン家を建て直してくれればいいの!」


 テスラ父とテスラ母が噛みながら叫ぶ。


 これで我が家の財政難を、少しは隠せているつもりなのだろうか……。


「それにな! 息子の社交界デビューに、見ずぼらしい服装をさせるわけにはいかぬ! ベルアイン家の面目にも関わるのだから!」


 確かにテスラ父の言うことにも一理はある。


 貴族の金使いが荒いのは、見栄を張る必要に駆られてなところもある。そうテスラから習った。


 領主の服装などを元に、その領地の財政状況などが判断されることは多い。だから貴族はなるべく豪勢なことをする必要があると。


 その後に『でも外に見えないところは節制するべきなんだけど、うちの両親はそんなのしなかったけどね』と言ってたが。


「テスラ! そういうわけで準備をしておくように! 社交界デビューに向けて、マナーを完璧にしておくのだ! 先生にマナー講座の時間を増やすように言っておく!」

「わかりました」


 俺は朝食を取り終えた後、早速屋敷の一室でマナーの授業を受けるのだった。


「んー。テスラ様、頭を下げすぎですねぇ」


 俺を指導してくれているのは、ちょび髭で細顔の少し怪しいタイプの男の人だ。


 名前はミズネーさん。だが見た目と言動と名前はともかく、完璧にマナーを教えてくれる先生。


 唯一問題があるとすれば、元々魔法の講師で呼んだのに魔法の授業ができないことくらいか。


 正直彼から教わることがなかったのだ。まあ仕方ない、なにせ俺が天才過ぎるだけだからな。


 それに魔法に関してはテスラから習えばいい話だった。あいつの魔法の技術はおそらくこの世界でナンバーワンで、日々高度な授業をやってもらっている。


 それと俺ミズネーさんに魔法を教えていたりする。


 おかげでミズネーさんのマナー講師代が割引かれているのだ。家計的にすごく助かる……。


 テスラ父もミズネーさんが魔法講師をしてないのは把握していて、「うちの子天才過ぎる! お高いはずのマナー講師が、安く雇えるの助かる!」と言っている。


「んー! その角度です! 忘れないでくださいねぇ! では次はダンスの訓練を解しましょうねぇ」


 俺は一ヵ月の間、礼儀作法を中心に訓練を重ねた。


 そして出発の日の前日、テスラと自室で話していた。


「アーネベルベ令嬢ってかわいい?」


 アーネベルべ令嬢は婚約者、つまり俺の結婚相手になりえる人。テスラは婚約破棄されたらしいけど……なんにしても可愛いかどうかは重要だ。


『まあ容姿だけなら優れてると思うよ。内面はひどいものだけどね。傲慢令嬢とはあんな子を指して言うんだろうさ』


 テスラはかなり辛辣だ。


 テスラ母も以前にアーネベルベ令嬢の悪口を言ってたが、いったいどんな少女なんだろうか。


「内面が酷いってどんな風に?」

『高飛車、ワガママ、人の話を聞かない、初見で僕を毛嫌いする。まだ必要かい?』

「もういい……」

『残念だよ。アーネベルベ令嬢と婚約する未来が変わらなかったことだけは』

 

 ものすごく毒を吐き捨てるテスラ。


 他人にかなり寛容なはずなこいつに、そこまで言わせるアーネベルベ令嬢とはいったい。


『覚悟しておくことだね。それと身体が病弱なのがバレなくても、婚約破棄する方法を模索しておくのをおススメするよ。生前の僕はまあ酷いことばかりだったが、彼女と婚約破棄できたのだけは僥倖だった』

「いやでもさ。相手は伯爵家だろ? 仲良くすればうちの領地を支援してもらえて、テスラの両親やアーガイさんの不幸な未来も回避できるんじゃないか?」

『ははは。伯爵がそんなに都合よく扱えるかな?』

 

 アーネベルベ令嬢との顔合わせに、すごく気が重くなるのだった。




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