第12話 嫌な未来を回避するには


「いいよ。具体的にどうすればいいかは分からないが」


 俺はテスラの問いに即座に返答する。


『へえ。少しは迷わないのかい?』

「わざわざ不幸になる未来に進みたくない。それにテスラの父や母、アーガイさんやミーナが死ぬのは後味悪いだろ」


 俺がこの世界に来て、まだ一ヵ月程度しか経っていない。時間だけ見れば彼らと別に親しいとは言えないだろう。


 だが彼らに不幸になってもらいたいとは思えない。


 テスラの父や母はお調子者だがテスラに向ける愛は本物だ。アーガイさんは魔法技術こそ高くないが、必死に俺を教えようとして頑張ってくれてるのを知ってる。


 ミーナはいつも俺の部屋を掃除したり、身の回りの世話をしてくれてるのだ。


 俺は別に聖人じゃないし性格がいいとも思えない。むしろ嫉妬心は相当強いし、やや性根が腐っている可能性もある。


 だけど知り合いの不幸を祈るほどのゴミではない! あ、でも天才なら少しは苦労しろって思うが……ちょっとタンスの角に小指ぶつけろとか程度だ!


 ……それになにより、先日見た両親処刑の夢を思い出してしまう。あんな嫌な夢が現実になるかもしれないなんて嫌だ。


『ありがとう。僕の身体を奪っておいて、断るほどクズだったらどうしようかと』

「なあテスラ。お前も言うほど性格よくないだろ。天才のくせに」

『ははは、僕は別に聖職者でもないからね。というか天才だからって性格がいいとは限らないだろ』

「……天才は苦労しないし、周囲からも見てもらえるだろ。だから善人になるイメージがあるんだよ」


 金持ち喧嘩せずみたいな感じで、天才の大半は性格がいいイメージだ。


 恵まれてれば他人に嫉妬や恨みを持たないし、清い心のまま育てるんだろうなと。


 実際余裕があれば他人にも寛容になれると思うんだけどな。いまの俺だって嫉妬が湧かな……少ししか湧かないので、地球の頃の俺より余裕がある。


 テスラの両親は俺のことをちゃんと見てくれているが、それも魔法の才能のおかげだ。


「それで聞きたいんだが。なんでお前の父や母は、処刑なんて目に合うんだ? それが分からないと避けようがないぞ」

『元々は僕の身体のせいだ。僕が天才としての力を見せつけた後、伯爵家との婚約が成立した。ちょうどいまと同じようにね。でもそれから数年後、僕の身体が弱いのが発覚したんだ。いつ死ぬか分からない者だからと婚約破棄された』

「そんな簡単に婚約破棄されるものなのか?」

『貴族が婚約を結ぶのは、メリットがあるためだよ。もうすぐ死ぬ者にはもう利用価値がないからね』


 せ、世知辛いにもほどがある。


 利用価値がなくなったらポイってことかよ……。


『それで伯爵家から見捨てられた僕の父と母は絶望した。僕がベルアイン家を再興するという希望が粉々に砕けた挙句、その僕のために色々と借金などもしてたからね。そして……禁制の薬を領内で売ってしまった』

「禁制の薬……それって麻薬の類では」

『そうだね。もちろん禁止されている行為なので、王家にバレて父と母は処刑された。僕だけは関わりなかったのと、死ぬまでに首に鈴をつけるためにベルアイン家を継いだ』


 テスラの淡々とした、だがどこか悔しそうに聞こえる声が脳裏に響く。


 ……確かにテスラ父と母は、尋常じゃない期待を今の俺に向けている。


 もしそれが裏切られた挙句、借金が大量に残ったとすれば……狂ってしまう可能性はあるかも。


「アーガイさんは?」

『ベルアイン家に残ってくれた。でもうちの領地は洪水被害などもあって、相当酷いことになっていてね。疫病が流行して、お金がなくて薬も用意できずに死んでしまうんだ』

「まじか……」


 なんというか、地獄のような話だ。


 テスラの身体がガラスのことが発覚してから、転げ落ちるように酷くなってる……。


「ん? でもそれなら、俺が服毒していれば避けられるんじゃないか?」

『服毒はあくまで症状の緩和であって根絶はできない。やはり根本的に治療をする必要がある。おそらくなんだけど、僕が死んでからすぐに治療法が見つかりそうなんだ』

「なるほど」


 それは知っている。テスラが死んで一年後には、治療法が発見されるのだ。


 テスラにとっては死んでからの出来事なのだが、なにせ彼がその病気の検体みたいなものだった。きっと治療法など色々研究していたのだろう。


 なにせ天才だからな……なんでもできるんだよこいつは。


『僕が君に頼むのは、その治療法を完成させることだ。僕は治療法の知識があるから、それを学んで継いで欲しいんだ』

「……お前じゃ無理なのか? 俺は医療関係の知識は皆無だぞ?」

「わんわんわん、くぅーん」

「これ見よがしに吠えるのやめてくれ……そりゃ犬じゃ無理だよな。ごめん」


 いくら天才でも犬では出来ないこともあるだろう。


 肉球プニプニの足では薬の類は造れないだろうし。


「わかったよ。じゃあこれから俺の目標は、不幸な未来を回避すること。そのために周囲の状況に気を配って、なにかマズイ状況が起きれば対応する。そして自分の身体を完治を目指して、薬の勉強をする、でいいな?」

『目標じゃない、必須の目的だ。そうじゃなければ僕の身体を奪ったことを許さない』


 確かにテスラの言う通りだ。


 目標なんて想いではダメだろう。コトは人の、ましてや俺によくしてくれている人の生死に影響するのだ


 失敗してもいいなんて気持ちではダメだ。


「……悪かったよ。俺は自分の身体を必ず治して、不幸な未来を回避してみせる! ……そうしたら少しは天才として好き放題させてくれよ?」

『そうだ、その意気だ。じゃあ早速だが服毒しに行こうか』

「うっ……」


 慣れてきたとは言えど、あの死ぬほどマズイ味には辟易しているのも事実だ。


 思わず嫌な顔をしていると、


『完治したらもう飲む必要もないよ』

「おおおおおお! 一日でも早く完治させるぞ!」

 

 俺は必死になって叫ぶのだった。


 あんなゲロマズイのずっと飲んでられるかっ!?


『君さ、現金な奴ってよく言われない?』

「!?」

 

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大目的:(天才として幸せに生きるため)不幸な未来を回避する

中目的:病を完治させる

小目的:周囲の不幸を避ける

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