ヒロインに属性を盛っていく爺

 


 リナの驚異的なまでの嗅覚はありとあらゆるにおいをかぎ分けてしまう。


 人のにおいもそうだが、僅かな動揺、感情も体から発する匂いである程度察することができる。その嗅覚は通常の雌猫の200倍と自負している。


 なので匂いで発情にも至る。




 カイザーの若干の雄臭さも十分に堪能しつつ、城のマップ確認をある程度理解したリナはカイザーの手を握って、新品の匂いのする部屋に向かうのだった。






「正妻としての余裕をお持ちください」




 ガルドの発言に、一瞬冷静になったエリスは漲る魔力はそのままにしたまま話を聞くことにした。




 カイザーのそばにいたことで、常に魔力を放出した状態だったエリス。


 その身に宿る魔力はすべてエリスの中に溜まっていた。




(すでに父君を超えていますな。)




 多くの経験を経て、魔力を貯めていたエリス。


 その特異な能力と魔力を貯めこむ器であるエリスがあってこその強力な異能は真価を発揮する。


 無限に等しい器はすでにガルドには図ることなどできなかった。




「正妻ですか?」


「はい、その通りです。」




 ガルドに残された道は一つ。


 床に正座しているジャガー、目を瞑り黙りこくゾルディスに代わって、エリスの怒りを鎮火させるしかない。


 目の前のいつ爆発するかわからないような魔力の塊を放っておけば、修復が進んでいる城がまた壊れかねない。




「祖父から見た私が断言できるのは、カイザーは間違いなく姫様を意識しています。」


「!?そう思った根拠は?」


「カイザーは子供のころから、村の同世代の女子にも興味を持たずにいました。しかしエリス様に会ってからは反応が違っていました。」




 原作のメインヒロインだから。




「カイザーはいまだに12歳。エリス様のお姉さんのような魅力に翻弄されているように見えました。」


「お姉さん。」




「そうです。カイザーもまだまだおこちゃまです。外の世界の女性に振り回されることも多々あるかもしれません。」




「だからこそっ、姫様の大人としての魅力、母性的な魅力、余裕を全面的に出すことでカイザーを翻弄するのです!!」






 ガルドは自分で言ってて、恥ずかしくなってきた。一回りも二回りも年の離れた娘に何を熱弁しているのだろうか。


 先々代の魔王に謝りたくなった。




「姉と弟の関係。」




 エリスが自身へとつぶやくように繰り返す。


 今までカイザー様にはずっと頼りっぱなしで、すべて助けてもらっていた。自分はそれを見てばかり。


 あげくは一目ぼれして、発情する始末。(本当に)






 ガルドの熱い言葉を聞いて、エリスの中で何かが芽生えようとしていた。


 


 その時、カイザーの全身に寒気が走っていた。新たな芽生えは近い。






 リナの言葉に従って、城の中を進んでいると、見覚えのある女性が周りのものに指示を出していた。




「その機械はそちらに置いて。こちらの作業はすでに終わっているからゆっくりで大丈夫。」


「リアベルさん、これはどうすればいいですか?」


「まだ動かさないで。ここの式に間違いがあるわ。ここをこうして、はい、これで新たに再構築して。」


「ありがとうございます!」




「誰だあれ?」


「私も知らない。」




 リアベルです。


 それは眼鏡をかけていた。白衣をしていた。美しい女性だった。




「おかしい。あんな人は知らない。」




 リアベルです。




「あの、すみません。」




 リアベルらしき何かに声をかける。




「ん?どうかし、」




 一瞬の空白、




「ご無沙汰しています、陛下。」




 すぐにリアベルはその場でひざまずいた。




「さ、『殺戮獣』リナ様、お勤めご苦労様です。」




 リアベルの周りにいた人もすぐさま膝をついた。


 え、何。その中二病丸出しみたいな言葉。


 リナの方を横目で見ると、とても苦い顔をしていた。




「四天王、ただのリナでいい。その呼び名は凄いセンスが悪い。」




 本当に嫌そうに答えるリナ。


 そこら辺の子供でもまだネーミングセンスありそう。




「それで、陛下何か御用でしょうか?」




 その場に臣下のように跪くリアベル。


 まともそうに見えるものの、




「詐欺だっ!?」


「とても失礼ですねっ!!」




 急に立ち上がり、その場で地団駄を踏む。


 ジタバタとする様も白衣が風で流されて美しく見える。




「やっぱり詐欺だっ!?」


「詐欺ではありません、私の中からあふれ出るカリスマが周りの人は理解しているだけです。」


「カリスマww。」




 確かに種族自体はサキュバスクイーンなので、カリスマ(嗤)があってもおかしくはない、こともない。


 いや、ないだろ。


 実際あれだけの醜態を見ていたリナやジャガー、俺、そして銀虎族には全くといって良いほど尊敬の念がない。




 しかし初対面だとどうか?




 美しい大人の女性の美貌。


 規格外のプロポーション。


 人を惹きつける淫らな種族の王。


 更には明晰な頭脳。




 それだけを見たならば確かに騙されてもおかしくはないと思える。




「その通りです。」




 思考を読むなよ。




「何よりも尊い種族である私にあんなことをした陛下にはしっかりと責任をとっていただきます。」




「陛下?」


「陛下だって!?」


「鬼神様だ。」


「城とクソ魔王を半壊させた子お方かっ!?」




 俺のことを知らなかった人たちも騒ぎ出した。


 その節はすみません。


 リアベルの声に遠目からこちらを見る人が集まってきた。




「そう、陛下には私を徹底的に辱めた責任があります!!」




 一瞬、そう。一瞬、喧噪が引いた。




「もう私の肉体は陛下の体なしじゃ生きていけないのです。」


「妄想が天元突破してやがるっ!?」


「あれほど私に痛みと快楽を注ぎ込んだというのにっ…。」




 そしてその声を聞いた周りからは、




「へ、陛下。いや、鬼畜ショタ様だ。」


「陛下の愛人か、女の扱いは俺を超えるか。」「いや、お前童貞だろ。」


「憧れのリアベル様がっ、でも何でだろう。この胸の高揚感と目のチカチカする感じ。」


「夜のショタ魔王に調教されるサキュバス様、よし筆がはかどるぞ。」




「………おわた。」




 その後1時間ほどカイザーは立ち直れなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る