(雌猫が調子に乗ってるんだが?何があった?おい、おい、聞いてんのか?)

城が壊れていたと聞いていたが、既に修復作業始まっているようだった。天井は完全になくなっているようだが、既に何人かが上に上がって作り直している。


 カイザーが城に入っていく中、ちらほらと視線を感じたが、それを気にすることはなかった。


 


 その後、カイザー、エリス、そして現四天王とされている4人を集めて会議室らしき部屋に入っていった。




 お互いの情報を共有しつつ、それぞれの改善点をエリスとゾルディス辺りが提案していく。話の内容はさっぱり分からなかったが、爺ちゃんと目線を合わしてアイコンタクトする。




『とりあえず、分かったふりだけしておけ。』


『おけ。』




 長年の信頼関係における意思疎通。


 俺のことを分かってらっしゃる。




「この領地の件なのですが。」


「ふむ。」


「こちらが城の修繕費用、金庫の残になります。」


「ふむふむ。」


「陛下はどちらが良いかと思いますか?」


「ふむふむふむ。エリスに任せるよ。」




 エリスもゾルディスも優秀なので、体裁として俺に聞いてくれるだけで、本当はどれが正しいのかも分かっているのだ。


 なので、きっと大丈夫。多分。




「それではリアベルには新たに研究施設を任せる形で宜しいですか?」


「ふむ?」


「先ほどテストしましたが、確かに彼女は優秀でした。」




 持ってきたアイテムだけでも、彼女の凄さは十分にはかれるモノだった。




 推定した物質の予想外の増加。


 新たな魔王城の設計図の再設定。


 独自で組み込んでいる技術も戦力の発展に大きく関わっている。




 一時間ほど前に消えたリアベルは既に働いていた。




「このまま新たに作る研究所のトップというのも、周りのものが推薦する形となっています。」


「へぇ。」




 凄すぎて言葉が出ない。最初にリアベルの姿をみたエリスも予想外の収穫に驚いているようだった。




「ご褒美が欲しいと宣っていたので却下しておきました。」


「まあ、それはいっか。」




 エリスは飴と鞭の使い方も心得ているようだった。




「報告は以上です。長旅で疲れている中、申し訳ありません。」


「いやそこまで疲れてないから大丈夫だよ。」




 たかだか3日ほど走り続けただけだし。


 カイザーの規格外な行動に慣れてきた一同は呆れるように見ている。




「湯浴みの準備も、カイザー様の部屋も作らせてあるのでお使いください。」


「えっ、部屋あるの?」


「何よりも、最優先で作らせました。」




 だから天井に穴空いたままなんじゃない?


 時々ちょっとだけポンコツになってしまうエリスのギャップに胸がトクンと鳴ってしまう。




「ちなみに俺たちは…。」


「あるわけ無いでしょう。身の程をわきまえなさい。」




 そして俺以外には割と辛辣だ。




「陛下の部屋以外は今も損傷したままの状態です。それ以外に割くリソースなどあり得ません。」


「えっ、じゃあ他の部屋は?」


「現在、修繕中です。」




 そっちを最優先してあげて欲しい。




 ガルドとゾルディスはなんとも言えない顔をしている。


 対して若い衆達、リナ、ジャガーは当然のように賛同しているのだ。




「まあ次からは俺の事は最低限でいいから。」


「ですが威厳を保つのも、王の役目かと。」


「うーん、必要になったら出すようにしてみるよ。それまでは国や城などを最優先で。」




 エリスは俺の指示に渋々ながらも頷く。とても納得いっていないような顔だった。


 国の地盤の大切さを理解している彼女だが、自分の天秤の中でカイザーの優先順位が高いのには変わりないので、そちらを優先してしまう。




「でも嬉しかった。ありがとう。」


「はい♡」




 気分がすぐに絶頂、否、絶好調になったエリス。


 なんとも都合の良いヒロインになってしまったような気がするが、割愛しよう。




「それでは、もうお休みされますか?」


「うん。」




 最近やることが多いし、夜遅くまで起きるのも肉体に悪い。




「陛下、リナも一緒に。」


「ん?うーん、まあいっか。」




 そう呟くと、エリスから大きな圧力を感じので、見てみるとこちらを凝視していた。




「………フッww。」




 リナがそんなエリスを鼻で嗤い、俺の腕にしがみついてきた。より圧力が増したようだ。


 何なら尻尾まで巻き付けてくる。




 ブチッ




 何かがキレる音がした。何か分からないが、凝視するエリスが怖いので、ゾルディスやガルドに「おやすみ」とだけ呟いて、静かに部屋を出た。




 ドゴンッ




 絶対何か壊した。


 


 


 


「雌猫風情が。」




 カイザーが去ったその部屋では、修羅が生まれていた。




「おいっ、俺の妹をっ」


「はい?」


「何もありません。」




 ジャガー弱っ。


 最低限四天王としての威厳も失ってしまったジャガーは臆病な草食動物同然だった。




「姫様、落ち着き、」


「はい?」


「何もございません。」




 ゾルディス、貴様もか。


 ガルドは隣のゾルディスに同情しつつ、口を開く。




「姫様、正妻としての余裕をお持ちください。」




「正、妻?」




 エリスは体にみなぎる魔力を放出しながら、ガルドを見た。




 ガルドの命を賭けた論争が今、始まった。

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