親族が魔王軍って聞いてません

まあエロスキルのない自分の人生に絶望していることもあったが、それはそれ。レベルを上げたり、鍛錬をすることに楽しみを見いだした俺は気付けば12歳になっていた。


 既に族長に勝ち越すようになった俺は成人になるまでは山の方で修行していようと決めた。森の奥の方には今より強くなる土台が揃っており為になることも多かった。既に俺が次期族長といった空気が出始めているので、居心地が悪い。


 そこまで敬われることはしてないし、ただ強くなりたかっただけで周りの大人からさん付けで呼ばれたりするのも複雑だ。そんなこともあり今日も元気に森の奥で修行中というわけだ。








【族長Side】




 あやつが森の中にこもり始めて一年か。


 家族のところには帰っているから、生きてはいるらしいがどれほど強くなっているのだろうか。


 魔王の元で四天王として磨いた研鑽の歴史を全てあの子供に授けたことで老婆心のようなものが生まれていた。この世の強さという常識をひっくり返しかねないほどに成長していく子供を果たしてこの村に留めていいのかを悩んでいた。




 強かった儂はオーガ達をまとめ、一つの集落をつくった。当時、魔王軍で名高い称号もあり貰った土地に幾人かのオーガを連れて軍を離れた。


 当時の頃よりも全盛期よりかは筋力が落ちたとはいえ、それでも今のオーガの村の小童どもを鍛えるぐらいは苦ではなかった。


 そんな時だった。


 カイザーを見つけたのは。




 村のある夫婦の家の近くからとんでもない爆音が聞こえるというので様子を見に行けば、そこにはとんでもない光景があった。




 子供が崖の壁めがけて拳を放っていた。微笑ましい光景、大人が見れば新たな戦士の風を感じるように微笑んだことだろう。


 笑えなかった。




 崖は既に半壊していた。




 子供が放った拳により振ってきた岩石を子供が受け止めてそこらに放り投げる、嘘みたいな光景。すぐにその修行?を止めさせて、相手をしてやろうと手合わせをする。


 当然かのように私の教えたことをスポンジのように吸い込んでいく子供、カイザーを戦士に誘うのにそう時間は掛からなかった。入る際にも一悶着あったが、力で周りを認めさせて戦士の一員に。


 その後も色々教えてやったが、そのたびに己の老いと向き合うことになるのが歯がゆかった。教えてる際にもカイザーが手加減していることに気付き、それを指摘することもあったが、同時に分かっていた。


 既に身体能力はカイザーが遙かに上回っていると。知識も技術も経験もこちらが上。だからこそ理解できる、近いうちにそれすらも上回れると。


 しかし何よりも期待していた。


 この少年はどこまでゆくのだろうかと。やがて全てにおいて族長を超えた少年カイザーは森の奥で修行するようになった。




 深淵の森、私が所属していた魔王軍でも暗黙の了解としてあったのは最深部に到達してはならないということのみ。当時の魔王のみが知る何かがあったのか、深くは訪ねなかったが恐怖からの命令ということだけは理解できた。


 そんな場所に子供が一人。しかし普通ではない。心配無用と思っても気にはなってしまう。




 そんなことを思いながら、妻が出してくれた茶を飲んでいると、




『族長、こちらの村に客が………。』




 戦士の一人が警戒を解いていない声音で話す。


 どうやらやっかい事がやってきたようだ。ため息を吐くも、すぐに向かうと告げた。








 集落の入り口の方に向かうと、そこにいたのはローブを被って顔を隠している二つの人影があった。片方はオーガから見ても背の高い大男、片方は女性なのか華奢に見えた。


 周りのオーガも警戒しているのが分かる。




「ふむ。お客人、こんな辺境の村に何か用かね?」


「相変わらず変わらん様子だが、老けたなガルド。」


「それはお主もじゃろう、ゾルディス。」




 話を聞く限り、お互いが知り合いのようでその場の空気が少し和らいだ。


 ゾルディスと呼ばれた大男の方がローブを取る。頭の横から角が生えた一般的な魔族、しかしその身に宿す魔力は中々に大きい。知的な老人といったイメージが外見から予想できる。




「お互い歳には勝てないものじゃよ。して、何用でこんな地に参った。」


「………出来れば人目に付かないところで話したい。」




 周りからの視線を感じて、こちらも察する。




「ふむ、分かった。儂の家に上がると良い。」


「助かる。」




 未だにローブを被った人物が感謝するようにこちらに会釈した。その姿勢がどこか思い出させるような作法で納得もした。


 顔をおおっぴらに明かせない人物か。














【???Side】




「それで?あの女はどこに行った?」


「は、はい。先ほども申しましたとおり、」


「申しましたとおり?」




 人一人を包み込む、約2Mほどの掌が報告していた魔族の体を掴む。周りにいる人物はそれが自分に向かわないように必死に下を向いて、体を震わせている。




「は、はい。未だ見つかっておらず、目下散策中、」


「聞こえねぇなぁ。」




 体を掴む手に力がこもり始める。掴まれた体は恐怖に支配されて抵抗することも出来ない。圧倒的な力の前にその気も湧かない。




「目下、散策アッァァァッ、痛い痛い痛いっ!!!アッ、プギュッ………。」




 プチュッ




 掌の中で包み込まれた体がやがて力の圧に耐えきれずに、赤い液体と供に破裂した。掌からこぼれ出るように赤い雫がポタポタと落ちていく。




「俺は聞こえなかった、俺の前で失敗しました、なんて言う部下はいなかった。そうだよなぁ?」




 放出される力の圧に周りが怯える。かつて魔王軍を支えていた兵士達がまるで子供のように災害が過ぎるのを待っている。




「分かったなら、さっさとあの女を連れてこい。ついでに叛逆したクソ幹部の首も並べたなら、相応の褒美をくれてやる。」




 自分の欲望に正直に、ありのままに行動する新たな魔王に従うしか道の残されていない魔族達はその命令に従うしかない。


 暴力で満ちた玉座に諦観に満ちた肯定が響いた。


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