エロゲで戦闘力特化で転生したところで、需要はあるか?

トム爺

エロゲ界の神童

転生した。


 しかも自分の大好きなエロゲ世界『エロスファンタジー』、略称エロジーっていう少しダサいネームの割に大人気だったRPG。


 多種多様のヒロインが存在しており、どのグラフィックもエロすぎるという話題で世の男どもが開店前の店に大殺到したというほどだ。前世、そこそこの会社に勤めていた俺は時間の合間に何度もプレイしていた。


 仕事の合間にエロゲ。


 それが俺の人生の大半だった。


 そんな俺の人生の最後がトラックで轢かれて、エロゲ世界に転生したというのは幸福だった。




 はずもなく、




 俺が転生したキャラは、エロゲの背景の一人のモブだったのだ。








 というわけで、転生した元サラリーマン、今世の名前はカイザー。かっこいい名前の割にはモブの一人という悲しい設定を持つキャラクターだ。


 どこかの集落の鬼族として生まれた俺はすくすくと10歳くらいまで育っていった。そこで自分がゲームでの所謂モブに属する存在だと言うことに気付いた。


 このゲームの世界、エロジーでは主要キャラクターに必ず表れるスキル、または体質のようなものが存在する。それがエロに属する者なのだ。


 主要キャラのステータスの項目には、一見馬鹿みたいなスキルに見えるがイベント時には強大な力を発揮してシーンを増やす機能も存在する。淫乱、TS、発情体質などなど。


 そして俺のステータスがこちら。








名前 カイザー 種族:鬼族Lv29




【スキル】体術、怪力、威圧


【体質】金剛(体が硬い)








 以上だ。




 RPG世界では強い。


 ゲームの後半の雑魚キャラくらいなら一蹴出来るレベルだ。だがしかし、この世界はエロゲである。イベントに必要なエロスキルがなければ、ただの背景モブと変わらない。主要キャラ達は他のキャラと仲良くしているのだろう。


 思わずため息をついてしまうが、別にエロがなくては生きていけないわけではない。父さんや母さんと一緒なのも楽しいし、村の皆と組み手をするのも日課になっている。ポジティブに言えば充実しているのだ。


 上がっていくステータスを見ていればわくわくする自分もいるので、元々レベル制のゲームが好きだった自分にとっては素晴らしい世界だ。最近ではエロへの情熱が全て鍛錬に注がれているほどだ。


 元々この鬼族の里では強い者に従うという風潮もあり、大人の戦士達にも勝ち越すほどには強い俺は次期族長候補筆頭とも言われている。族長くらいしか俺と渡り合える人が居ないので、一目置かれ、強くなること以外のことは全部やってくれる。


 俺が日頃するのは狩りと鍛錬くらいだ。


 今日もまた森の奥で狩りをするために出発する。








【一般鬼族】




 俺たちの村に新たな戦士が加わると聞いて、先輩としてかわいがってやるかと思っていた。


 鬼の戦士は、肉体に恵まれた強き者がなる職業と言われている。鬼の誇りの起源としての強さはこの村でも一目置かれる要素であり、今の族長も村で最も強かった者がなる風潮から選ばれたと言っていた。


 故に才ある荒くれ者が選ばれるのだが、入ってきた当初は調子に乗っている者も多い。そういう奴は俺たちがしつけてやる。上から下への洗礼って奴だ。


 そして新たな戦士が来たときは拍子抜けした。


 子供だった、それもまだ10歳ほどの。


 何を馬鹿なことをと、当初は思った。俺たち戦士という称号は別に名前だけではない。狩りをして村に利益をもたらしている面もある。故に子供を戦士に加えると知ったときにはもちろん反響があった。


 族長の推薦だと聞いていたので、どんな筋肉達磨が来るかと思えば、せいぜい少し筋肉がつき始めたくらいの子供。全員の予想外だった。


 しかし、ここでその子供が間に入って言う。




「俺から見れば、お前等の方が弱そうだけどな。」




 憤怒。


 僅か10歳の子に今まで村を支えてきたと自負する戦士達は大激怒した。思わず戦士でも若い衆の一人がそのガキめがけて拳を振るおうとした瞬間。




バコンッ




 地面に沈んだ。


 その場を沈黙が支配する。誰ひとり理解できなかった。族長だけは納得するように一人頷いているが。


 沈んだ地面に倒れ伏している若い戦士の頭の上には小さな手が添えられていた。


 その小さな手が、巨体を地面にめり込ませたことを理解しても、頭がそれを受け入れなかった。


 そして今度はこちらを挑発するように、もう片方の手で、




『かかってこい』




 そう言われた。








 そこからはまさに大乱闘。若い奴から古参までが、一人の子供に一斉に飛びかかっていった。山のようになりつつあるオーガの集団の中、確かに二本の足を支えに堂々と立つ子供は一人の戦士だった。


 そこからは話は早い。


 まとめてぶっ飛ばされた。周りに居たオーガ達は一人ずつ地面に堕とされていき、様子をうかがっていた周りの奴らも同様に沈められた。その中の一人は俺だった。


 なんと言えばいいか、頭を小さな手で掴まれた瞬間、圧倒的な力量を悟った。まるで巨人が小人をつまむように、圧倒的強者の慈悲というものをオーガの戦士達は学んだのだった。


 それから次の日には、小さな鬼、カイザーに逆らう者などいない。


 唯一、族長のみがカイザーと組み手をしているが、




『あの小僧、いっちょ前に手加減してやがるのさ。子供がおもちゃを壊れないように大切にするだろ?それと同じさ。』




 それは族長の長年の経験、技術を見たいが為に手加減しているのだ。いくらか族長が文句を言ったらしいが、カイザーは、




『うーん、爺さん、もう歳だからな。本気で殴ったら村長出来なくなるかもしれないだろ?』




 と、あくまで善意的に手加減をしているという。




 恐ろしい。前線を引いたとはいえ、元魔王軍四天王を務めていた鬼神を相手に手加減した上で互角の勝負を繰り広げているのは怪物でしかない。


 カイザーに逆らう鬼族は一人もいないだろう。今では狩りも一人の方がはかどるというので、森の奥での単独行動を許されている。


 子供って怖いなあ。

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