第193話 次の予定を

 二人の孤児は泥だらけだったので、あの後は猿助さんが水鉄砲スキルでほぼほぼ洗い流した。

 それで俺はひとまず男物のラグランTシャツを魔法の風呂敷から取り出し、ミレナに着せてやってくれと託した。

 幼い二人が着ると成人男性のシャツは大きいので上のみなのにワンピースみたいになった。



「それで、猿助さんはレベルアップの兆しはあるのかな?」


 俺は朝食のカフェオレを用意しながら猿助さんに問いかけた。

 クロワッサンはミレナとカナタが配膳してくれてる。



「それが全く。ただこの子達の泥汚れを流すことくらいしかできなかったでござる……」


 まあ、ゴブリンの顔面に水鉄砲で濡らした程度ではレベルアップは無理か。



「それでこの子達はどうするの?」


 カナタの言葉を受けて俺はジェラルドの方に向き直る。



「ジェラルド、大樹の村にいい孤児院とかある?」

「今はなかったはず」


 そっか、それじゃあ……



「いっそ大樹の村にも俺は拠点が欲しいからさ、自分で土地と家購入したいな。可能かどうか村長に聞いてみよう。そこで家が持てたら普段は二人で生活して貰えば猿助さんも会いに来れるし」

「聖者が望むのなら確実に持てるぞ」


 おお、流石に聖者の立場は強い!


「じゃあ俺が家を手に入れて、そこに二人は住んでもらうか」

「おおっ! あ、でもこんな小さな子達だけで平気でござるか?」


「そこは近所の人に気にかけてくださいとお願いするか……ヘルパーさんを」

「あの、良ければ私が」


 ユミコさんが挙手した。



「ユミコさんが?」

「体がお人形なので小さいですが、皆さんが普段使ってる道具の使い方等は教わってますし、話し相手にもなれますし」


「まあ、そのくらいの年齢ならこの世界じゃ家とお金か仕事さえあればだいたい生活できるわよ」


 ミレナが犬耳二人の方を見ながら言った。

 二人の孤児はクロワッサンとミルクを味わいつつ、大人しくして成り行きを見守っているようだ。


「ユミコさんは俺達と離れてさみしくない?」

「私はもう十分美しい物を見せていただきましたし、何かで恩返しをしたいと思ってましたし、フェリも度々退屈してたのか、勝手に霊体のまま出かけてたけど、心配されたくないから黙っていてとか言いますし、子供達の世話をするのも悪くはないかと」


「フェリ、退屈してたのか?」

「退屈っていうか、気まぐれでうろうろしてたら霊体のままだと自由に行き来できると気がついたの、マスターの元の世界にさえ」

「え!? そんなとこまで行ってたのか!?」



 霊体だとフェリは一人で世界を超えて行けたのか!

 そもそも日本で買ったドールだけども!



「なんかあちらにも行けたから、マスターの日本の家でマスターの本棚から漫画を読んだり」

「あ! 泥での匂い消しと虫よけのやつ、そういやあちらの本棚に置いてる本の内容だ!」


「だから猿助がこちらで活動する時は私があちらに行っててもいいわ。通販の荷物が届いてインターホンが鳴ったら置き配でいいから玄関に置いてってマスターの声の録音でも流せばいいでしょ?」


「て、天才な上に天使でござるか!?」

「フェリがそれでいいなら俺はOKだけどな」


「じゃあ家が出来たらしばらくこの子達に僕はミシンでも教えてみようかな? 苦手そうなら別の事でも覚えて貰えばいいし、何かしら手に職あれば食いっぱぐれないよね」


 カナタが教えてくれるなら心強い。


「この優しい人が色々教えてくれるから、一緒に頑張ってみるか? 仕事が出来ると自立もできるし、ミシンが……お裁縫が難しいなら他にも何かしら考えるし」


 二人の孤児はこくこくと頷いた。


「ショータは早速大樹の村の長に家が欲しいと手紙を送るといい」

「そうだな、言うだけ言っておこう。家の選定とか考慮するなら早いほうがいいし」


 俺は手紙を書いてぴーちゃんに託した。


「それで、直帰するの? 前回仕入れた売り物は舞の会場でかなり売り尽くしたと思うけど」


 ミレナがクロワッサンをちぎりながら問いかけてきた。


「いつもならプチ旅行に行ってる感じだし、どこか景色のいいとこに寄り道でもする? それともまた戦闘?」


 カナタは猿助さんの方を向き直って訊いた。


「拙者、レベルアップは諦めたでござる。今回はたまたまこの子達は無事でござったが、通常なら悲惨な事になっていたと思われ、そんな現場を見て、冷静でいられるかわからなくなって……情けない話でござるが、地道に危険のない仕事して稼いでこの子達を養いたいでござる」


 そして弱いオタクと笑ってくだされ! などと言って顔を覆った猿助さんだったが、誰も笑わない。


「そうか、じゃあせっかくだし、あまり危険のない寄り道旅行でもしようか? どこかに綺麗なとこか気持ちいいとこはないかな?」


 また物知りジェラルドに問いかける俺。


「具体的に絵でも見せてくれるか?」

「あ、分かった、えーと」


 俺は手持ちのタブレットから保存してある地球のどこかにある綺麗な景色フォルダを開いて探した。

 あ! こことかよさげ。


「この辺は火山が多い土地で、こういう段々になった見た目が綺麗な温泉があるとことかないかな? 温泉の水がミルクを混ぜたような綺麗な青だろ?」


 日本の棚田のような雰囲気の露天風呂!


「あ、イタリア、トスカーナの世界一美しい天然温泉と言われるサトゥルニア、ムリーノの滝!」

「流石カナタ、知ってたか」


「あー、火山の多いとこな、確かにあったな、そう遠くない場所にこういう綺麗な自然の風呂。でもかなり温いぞ」

「まあ、温くても綺麗ならいいかなって、皆も旅行したいだろうし」


「じゃあそれでよければ行くか?」

「ここも映え〜でごさるな! 美しい!」

「キレイだし、悪くないわね」

「ぼくもいいと思う」


 決定だ。


「ちな、この子達も一緒にいいでござるか?」

「もちろんだよ、まだ家も手に入れてないし」







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