第192話 巣穴

「これはどう考えても苗床コースでござるな」

「ワフッ」

「ん? どうした? ラッキー」


 少し先に進んで俺を振り返るラッキーがじっと俺の目を見る。



「もしかして着いてこいってことか?」

「ワフ!」

「よし、行くか」


「もしや巣に案内してくれるんでござろうか?」

「ラッキーは賢いからあり得るわね」


 そうして俺達はラッキーの先導で森に入った。

 しばらく進んでいると、大きな木があった。

 その根元には不自然な感じで木の枝が覆いかぶさっている。


「ワフ!!」

「ヒッ!」


 木の根元あたりから悲鳴が聞こえた。

 ミレナが木の枝をどかすと、なんと大きな木の洞の中に、身を寄せ合う二人のケモミミ少女達!

 年齢は10歳くらいか?


「これは……」

「こんなとこに泥まみれの獣人の子がいたでござる!」


 ぷるぷると震える獣人の子供達。

 どうやら耳の形からして犬系と見た。


「あなた達、もしかして村からゴブリン達に攫われたとかいう?」


 子供たちはコクリと頷いた。


「助けに来たんだけど、どうやって無事に逃げてこれたのかしら? ゴブリンチャンピオンまでいたのに」

「お、お人形……透けてる妖精みたいな」


「お人形?」

「そこのおにいさんの肩の上にいる子と似た服を着てた」

「ミラと似てるなら、ユミコさんか?」

「フェ、フェリって言ってた」



「フェリ!」


 ミレナが思わず声をあげて慌てて口に手を合わせる当てた。



「フェリがどうやってここを知って先回りして助けたんだろ」

「なんかよくわからないけど、あの子が止まれって言った後にゴブリン達が急に動けなくなって、今のうちに逃げなさいって、ここに隠れてた」



 フェリはいつの間にか金縛り系の力でも持ってたのか?

 とりあえずなるべく優しい声で話しかけてみよう。


「泥まみれなのはなんでかな?」

「フェリが本で読んだって、匂い消しと虫よけって」


「ほほう、賢いですなぁ」

「よくわからないけど、フェリがドールの器から出て幽体離脱状態でこの子達を助けてたってことかな」


「だいたいそれで合ってるわ」


 振り返るとそこには木ノ実をサイコキネシスか何かで浮かせたフェリがいた。

 しかも半透明で霊体だと分かる。


「フェリは何故ここに?」


 ジェラルドが問うた。


「あのドールの器の中で寝てたら数日前に子供の悲鳴が聞こえて、気がついたら私の霊体は森にいたの。そしたらゴブリンに捕まって槍でつつかれながら歩かされてた女の子二人がいて、なんか止まれって叫んだらゴブリンの動きが止まったの。それで急いで逃がした」


「すごい! フェリは謎の金縛りスキルを会得してた!?」

「そして木ノ実が浮いてるならサイコキネシスでござるかな?」

「木ノ実のような軽い物ならこのままでも動かせるけど、金縛りの力はあの時だけ何故か使えて、もう使えない、鳥とかで試したけど無理だった」


「へえ、そうなのか。じゃあこの森で木ノ実とか取ってこの子達が飢え死にしないようにしてたのか?」

「そう」


 フェリは俺の質問を肯定した。

 はー、よかった、ゴブリンの苗床やらはらみ袋にされてる不幸なケモミミ女の子はいなかったのか。


「ところでいつも誰かの悲鳴が聞こえるのか?」

「いいえ、たまたま今回だけ」


「閃いた! 過去か未来に翔太殿と多少なりとも出会う者のピンチだけ察するとかではないでござるか? いやはや、ミラクルファンタジーですな!」


 いかにもファンタジーオタク的な発想だけどビンゴかもしれない。



「まあ、何にせよこの子達を保護してさっさと村に帰るか、ゴブリンの巣をどうにかして殲滅するかよね」

「孤児って聞いたけど、あの村にお世話をしてくれる人たちはいたのでござるか?」


 子供達は悲しげな顔でふるふると首を振った。


「そうか……いないか」


 そんな気はした。人族の村だもんな。


「や、養いたいでござる!」

「さ、猿助さん……」

「いや、日本の荷物番の仕事があるのは分かっているでござるが、せめていい孤児院か里親探してたまに食べ物などの差し入れを許されたいでござる!」


 ケモミミっ娘ほんとに好きなんだな。

 気持ちは分からんでもないが。



「とりあえず巣に残るゴブリンをどうするかだ」


 ジェラルドがクールに問いかける。


「人質がもういないならやはり熊除けスプレーの出番でござるか?」

「それか巣穴の中で小麦粉放り込んで火を放って粉塵爆発ができるか試してみるか?」


「出ましたな、オタク粉塵爆発ネタを好む系」

「まあな。なんとか一網打尽にしたいけどバックドラフトがやばいかなぁ」


「仕方ない、あまり推奨されんが毒煙を使うか」

「ど、毒煙でござるか?」

「ある植物を燃やすと煙にすら毒効果があるという」

「あ、俺、知ってる! 夾竹桃とかにそんな効果がある。とりま念の為にラッキーに聞いておくか、俺達が今から向うゴブリンの巣に他に囚われてる人や獣人はいると思う? いないなら首を振ってくれ」


 ラッキーは首を振った。


「よし。ありがとう、ラッキー。要救助者はいないっぽいな」


 ラッキーは神獣みたいなもんだから恐らく確かなんだろう。


「そう、とにかく燃やすと毒の煙を出す植物を俺は持ってるから、我々は巣穴にそれを放り込んだら煙を吸わないようにすぐに待避するぞ」


 ジェラルドは改めて毒煙を使う覚悟を決めた。

 敵しかいないからな。


 * *


 その後、俺は巣穴に毒煙を使うからしばらく森に入るなとぴーちゃんに伝言を託して村に飛ばした。

 念の為立ち入り禁止と書いた紙も洞窟の側に置いとく。



 そして巣に行ってジェラルドは見張りのゴブリン二匹をサクッと矢で倒し、次に植物を巻き付けた矢と火矢を放ち、魔法で風を操って、こっちに煙が来ないようにした。



 洞窟の奥でゴブリンの苦悶の声が一瞬聞こえたが、俺達はすぐさまその場を退散!


 村に帰って討伐完了と報告をした。

 ゴブリンチャンピオンがいたにしては謝礼少ないわねってミレナが言ったけど、


「きっとお金がないんだろ……」


 彼らの身なりを見てまじで財産なさそうだったから、当初の価格の成功報酬だけもらってカナタの待つ宿に帰った。

 ちなみにケモミミ孤児二人も連れて来た。












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