第189話 神楽舞と祝福の花

 神楽舞の前に、例の悪の大神官の公開処刑が行われたらしい。

 処刑方法は号外に載っていた絵と同じギロチンだ。

 こちらの世界でも人道的配慮で一瞬で死ねる処刑道具を考え出した人がいるんだなと思ったりした。


 見た目の迫力はすごいと思うけどな。

 ちなみにユミコさんが望まなかったから、俺達は処刑は見に行っていない。



 そして何しろやくい処刑の後だ、こちらでは悪人の処刑もある意味エンターテイメントなんだろうが、お口直しに次は縁起の良さげな物を見たくなるようで、貴族達も平民も神楽舞を見にこの地に集まってきた。


 神楽舞の宣伝は神殿がやってくれていた。

 何しろ舞を神様に奉納するわけだし。


 その為に聞き慣れぬ雅楽をこちらの神殿の楽士に録画、録音したものを聞いて貰い、練習してマスターしてもらった。

 笛も太鼓も日本で仕入れてそれを渡していた。

 無理なら録音を流すつもりでいたが、意地でマスターしてくれたようだった。



 七分咲きくらいのアーモンドの花の道を通り、続々と貴族達は集まってきた。


 神楽舞奉納当日、本日も晴れ。

 祭壇にはシャイ◯マスカットなどの美味しい捧げ物を備えた。


 雑貨販売等は神楽舞の後にする。

 そうじゃないと集中して見れないからな。


 最初に流れるのは厳かで雅な笛の音。

 華やかで裾の長い衣装を纏ってミレナが静かにステージに上がる。


 巫女もステージの左右と背後で鈴を鳴らす。


 さあっと一陣の涼やかな風が吹く。

 ピンク色の花びらが舞い、ミレナの鮮やかな狐色の髪が揺れる。


「我は地に在りて、天と地、光と風、太陽と星と海の神に願い奉る、邪を退け、波立たぬ、平安なる世を」


 俺の渡したとおりの祈りの言葉を告げるミレナ。


 扇子を広げ、神話に出てくる伝説の舞の女神ように美しい舞を見て、人々が感嘆の声を漏らす。


 舞のクライマックスのシーンで光がミレナを包んだ。

 凄い! 後光が差してる!! 美しくも神々しい!!

 カメラを回しててよかった!


 更に七分咲きだったアーモンドの花が今、満開になった。


「おお! 奇跡だ!」


 観衆の興奮もクライマックス!


 最後にまた楽士の吹く笛の音が鳴り響く、風の揺らす葉擦れの音と共に。

 


 とてもいい感じだ。


 本当に、平和が一番だよなと思いつつ、俺達は祈りの舞を最後まで見守った。


 そして神事の後は物販の開始!

 ミレナは着替えを終えてから合流してくれるらしい。


 そしてやはり物販ではさく◯フラペチーノならぬピンクフラペチーノやアイスが大好評!


「まあ、なんて綺麗な飲み物でしょう」

「本当に愛らしいピンク色ですわ」

「味も甘くて美味しいですわ!」


 そうそう、色が綺麗だし甘くて美味いしな!

 ややしてミレナも着替えを終えて売り子しに戻って来てくれた。


 それから忘れてはいけない、エルフのサンダル。


「こちらのエルフの美女が作ったサンダルは三点のみの販売と為りますので、一番高値の方から上位三人のみ購入可能となっております」



「まあ! エルフの作ったサンダルですって!」


 にわかに色めき立つ客達。


「俺が買う!」

「まあ、あなた、あのサンダルは女性ものではなくて?」

「俺の性別など関係ない! エルフの美女が作った物だからな!」


 ほらな! そこに価値を見出すと思った!

 しかもエルフのジェラルドがそれをかかげているから本物だという信憑性もある!


「いや、ワシが娘の誕生日プレゼントにする!」

「履くと美人になれそうじゃないこと!? あなた! 競り勝ってください!」

「お前は今でも十分に綺麗だぞ」

「今よりもっとよ!」

「わ、分かった」


 などと言って一部の客によってオークションは白熱してしまった。


 いい値で売れた。

 ありがとうございます!

 売上の一部は神殿に寄付するのでどうかできれば……世のため人の為に使って欲しい。

 まあ、施設の修繕費とかでもいいけども。



 そして弁当もアイスも雑貨も飛ぶように売れていく。

 お手伝いの巫女さん達もてんてこ舞いだったと思う、マジですみません。


 売り物が完売した後に俺は白い塔に登って鐘を鳴らし、集めてもらった花に祈りをささげ、塔の中から地上の人達にばら撒いた。


 光を纏った花が降ってくる。

 人々はその祝福を手にしようと、天に向かって手を広げた。


 俺達の用意した雑貨はほとんど貴族たちに持っていかれた分、後方の平民もお土産として花を手にできるよう、ジェラルドが風魔法で加勢してくれた。


 流石に全員には無理だが、手に出来た老若男女、皆、とても喜んでいた。



 ちなみに俺達以外の出店の屋台もいくつか並んでるから平民はそちらを買って飲み食いはできてる。

 売り物は串焼き、パン、ワイン、パイ、カヌレなどだった。


 俺も売り子を一時的に交代してもらい、休憩時間にカヌレを買って食べたりした。

 もちっとしてて美味しかった。


 * * *


 ──そして、この後、ここカーレンの領主はこの日を祝祭の日として、同日が来る度に、巫女は神に舞を奉納し、神官が白い塔から花を投げる行事をする事となる。

 俺達の行動をなぞるように。


 この、ピンク色の、アーモンドの花が咲く頃に。






















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