第190話 冒険者ギルドと俺達
神楽舞の翌日、まだ神殿に泊めてもらっていた俺達だったが、あくる朝、ミレナが不思議な夢を見たと言って来た。
「なんと夢の中で神様が現れてコールドの魔法を授けてくださったわ! ちょっと見ててよ!」
ミレナの手にあったのはぬるいエールの入ったジョッキ。
何やら気を集中して、エールを冷やした。
そしてその冷えたジョッキを俺の頬にビタッとつけた。
「冷たっ!」
「ほら冷えた! 冷えたでしょ!? キンキンに!」
おおっ!! なんと、これが! 氷結系魔法の力!
「なるほど、それが神楽舞のご褒美スキルか! 暑い時期にも助かりそうだな! ミレナおめでとう!」
「今日の夜はお祝いよ」
ミレナは堂々とガッツポーズをとった。
おもしれー女だ。
まじでそのポーズとる女は初めて見たぞ。
テレビ以外では。
「ミレナ氏、おめでとうでござる! ところで拙者、今日は下級の魔物を倒してレベルアップアップをしてみたいのでござるが……ちょっとレベルアップ可能か確認できたらちゃんとあちらに戻って荷物番をするでござるからして……」
そう言ってジェラルドと俺の方を交互に見た猿助さん。
確かに水鉄砲のままでは宴会芸や畑の水やりくらいしか使い道があまりないからな。
「せっかくこちらに来たんだし、俺はいいよ。置き配でしばらくもつと思うし」
「あー、ゴブリン退治がしたいのだったか、それならまず冒険者登録からだな、最寄りのギルドで登録するなら付き合うぞ」
「ジェラルド殿! ありがとうでござる!」
まあ、地元でなくても登録はできるな、確かに。
「ふーん、攻撃系の氷魔法も使ってみたいし、今回は特別に私も戦闘に付き合ってあげてもいいわよ」
ミレナも同行をする気みたいだ。
「だ、大丈夫でござるか? ゴブリンあたりは女性の天敵のような?」
ゴブリンにやられる女性の薄い本は多いから猿助さんの心配はもっともだ。
「なめないで、初心者よりはずっと戦えるわよ」
「な、何かあったら拙者のことは構わず逃げてくだされ」
真剣な顔でそう言う猿助さん。
「いっちょ前に私の心配してるの?」
おいミレナ、プライドが傷付くのかもだが、彼は優しさから心配してるぞ?
「失礼かもしれませぬが、念の為でござる」
「ふーん」
「ワフ!」
「ん? 急にどうした? ラッキー」
ラッキーが軽く吠えた。
俺は上着の内側に大きなポケットを縫いつけてあるんだが、そこにねじ込んである帳面あたりが熱を持ってきてる。
帳面を開いて見れば、残りのページが四枚増えていて、既に何か書かれていた。
神楽舞のご褒美に魔法収納風呂敷四枚分があったのだ!
破ればそれが出てくると説明書きもあった!
なんと親切な!
これ、すごくありがたい!!
「凄く欲しかったの来たな! これで猿助さんとカナタとジェラルドとミレナにも一枚ずつ渡せる」
「そんな貴重な物をいいのか?」
「仕入れにはめちゃめちゃ役に立つね」
「確かにでござる」
「皆なら悪用はしないだろうし、いいよ」
「やったー! もうけたわ! カバンよりかさばらないし!」
ミレナは素直に喜んでいた。
確かにくれるというものはもらっておこうぜ。
悪さをしなけりゃいいはず。
* * *
そして猿助さんの冒険者ギルド登録にカナタ以外の者達が来た。
カナタの小人テイムスキルは生産職系ゆえ、ユミコさんと神殿付近の宿でお留守番だ。
何より荒事に向かない優しい子だしな。
俺は念の為ヒーラー、治癒係として同行する。
でも俺は基本的には冒険者ではなく商人だ。猿助さんが心配なので今回は特別に同行するだけ。
「では、この水晶に手を触れてください、犯罪歴がなければ登録可能です」
猿助さんはさっきまでギルドの受付嬢がいる! と興奮していたが、急に真顔になった。
彼は緊張しつつ、水晶に手を触れた。
「はい、問題ないです、こちらに名前とジョブを書き込んでください」
ほーっと安堵のため息を吐く猿助さん。
「えーと、サルスケ、ジョブは魔法使い……で、いいのでござるかな? まだ水鉄砲しか撃てないけど……」
「まあ、レベルアップでどうなるか試すしかないから」
レベルなんて見えないけど。
受付から離れて、猿助さんは俺の隣で小声で話した。
「先ほどは異世界不法侵入が犯罪としてカウントされたらどうしようかと思ったでござる……」
「た、多分人殺しとか盗みの方がカウントされるんじゃないか? 今のところ俺達はこちらの方達に利益しかもたらしてないはずだし」
あちらの商品は喜ばれてるし……。
通常は密入国は怒られると思うけど、聖者一行なら話は別的な……。
そして今、猿助さんが登録を済ませたので俺達はギルド内の掲示板の前に移動し、立っている。
猿助さんは感動のあまり掲示板の写真を自分のスマホのカメラで撮ってる。
ギルドにいる冒険者達はあれはなんだ? 的な顔をしてる。
魔道具だと思ってください!
「それで、森とダンジョンがあるが、初心者なのでとりあえず森に向かうか」
ジェラルドがそう言うと、
「ダンジョン!」
猿助さんがダンジョンのワードに興奮してる。
よくあるファンタジーのそれではあるが……
「サルスケはダンジョンの方がいいのか?」
「いえ、思わずダンジョンという響きに感動しただけでござる」
「ダンジョンの閉鎖空間な雰囲気は緊張する気がするからな、確かに空がそこそこ見えるほうが最初はいい気がする」
少なくとも俺はそう思う。
「ほら、近所の森の洞窟にゴブリンが住みついたと村から討伐の依頼が出ている。作物を荒らしたり女子供が狙われるから心配だと」
ジェラルドが指を差し出した掲示板の依頼書を見た猿助さんは、
「よし、それにするでござる! 人助けにもなるし!」
と、即決した。
するとミレナが掲示板から依頼書を剥がして猿助さんに手渡した。
「じゃあこの依頼を受けると受付に持って行きなさい」
「委細承知!」
おお、これぞ冒険の始まりだなぁ!
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