第187話 綺麗なものだけ。

 花街から帰るとジェラルドもギルドの仕事から戻ってきていた。

 そしてカナタが珍しく興奮した感じで玄関まで駆け寄って来た。



「聞いて翔太! 小人が出たよ!」

「は? 小人!?」



 流石ファンタジー世界だぜと思いつつ、俺はカナタから詳しい話を聞いた。



「それで、最後は帽子の中に入って消えたんだよ」


「なるほどな。お手伝いの、労働の対価に菓子を渡して満足して去ったなら、つまり手伝い小人をテイムしたような感じだな」

「テイム!?」


 カナタはジェラルドの言葉にとても驚いている。



「おお、カナタ殿はテイマーの能力があったんでござるな! しかも生産職系とは優しいカナタ殿に合っているでござる」

「生産職系……テイマー、ぼくが……?」


 まだカナタはぼんやりしてる。

 自分が特殊スキル無しの一般人だと思いこんでいたので驚いたんだろうな。



「まあ、とにかくめでたい! 乾杯しようか?」


「そ、それほどでも、次にどうやって呼べばいいのかもわからないし」

「同じように作りかけの物を置いてベッドに入って寝ればいいんだと思うぞ」


 ジェラルドがそう言うなら、そうかもしれない。


「じゃあ寝てないといけないなら、かわいい小人の撮影はできないのかな」

「それは諦めた方がいいな」


 なるほど。 

 せっかくテイムした小人がいなくなると申し訳ないので、俺も撮影は断念した。

 代わりにと言ってはなんだが、カナタ作の新しいドレスをゲットしたミラとユミコさんの撮影はした。

 セーラー襟でとてもかわいい重ね着の服だった。


 そうこうしてるとミレナも戻って来たので焼き肉を食べたり酒を飲んだりして、カナタの特殊スキルゲットのお祝いをした。


 * *


 次の日、いよいよ神楽舞祭りの現場に前乗りで向かう事になった。

 海路を行くのでルルエに乗って海辺の街まで走った。


「号外、号外ーっ! あの大悪党が捕まったよ!」

「一枚くれ」

「あいよ!」


 波止場に到着したら号外が配られていた。


 俺も号外を一枚もらって中を確認すると、何と偽の聖女を作り出し、罪もない巫女たちの血を搾り取って殺し、逃亡中だった鬼畜な大神官が見つかり、捕まって公開処刑になるらしい。



「どうする、ユミコさん、君の仇の公開処刑を見に行くかい? 少し寄っていくことくらいできるよ」


 俺は猿助さんが肩に乗せてるユミコさんに声をかけた。

 ミラは俺の肩の上で沈黙してる。

 ユミコさんは少しの間ぼんやりとした顔で固まったが、ややして口を開いた。


「……公開……処刑……。いいえ、私、せっかくショータさんに綺麗なお花畑の景色とか、綺麗な食べ物や飲み物とかを見せてもらったので、これからもこの瞳には綺麗なものだけ映していきたいと思います」


「そうか、分かった」


 俺はユミコさんの意見を尊重することにした。

 毎度処刑シーンの夢など見るようになったらいけないからな。



 そうして俺達は船に乗った。

 春の日差しの中を、爽やかな潮風をまとい、船は行く。


 道中は魔物の襲撃も無かったのでよかったし船は無事に目的地の港に着いた。


 船着き場は賑やかで人の往来も多い。

 波止場には誰かが伝書鳩を飛ばす姿もあった。

 そして屋台も見つけた。


「あ、イカ焼きがある! 少し食べていこう」


 俺がそう言うと、皆賛同してくれた。


「ああ」

「いいね!」

「お、サザエっぽい貝もあそこで網焼きになってるでござるよ」

「私はイカでいいわー」


 それぞれ好きなものを食べた。

 俺はイカ焼きで味はシンプルに塩オンリーだけど、新鮮獲れたてって感じで美味かった!


 俺達も地上に戻り、あらかじめ貰っていた地図を見て、しばらくルルエを走らせてると、美しいアーモンドの花が咲いている並木道に来た。

 この花はピンク色で可憐な桜によく似てる。


 俺達はアーモンドの花が咲く美しい並木道を眺めつつ、ゆっくりめに移動した。


 現場の広い公園みたいな場所には既にちゃんとステージが組み上がっていた。


 にわかに緊張した趣になるミレナ。


「ミレナ、大丈夫だよ、ほらお供えもあるし、ようは気持ちが大事なんだし、多少間違えてもさ」


 何とか励まそうとする俺。


「分かってるわよ」


「聖者様方、ようこそカーレンの地へ」



 神官や巫女と騎士達を引き連れた地方領主らしき人が声をかけてきた。

 見ればずらりと人が並んでいて、リハ前から出迎えがあったのだ。

 もしかしたら波止場で鳩を飛ばしている人がいたのはこの為か?



「はじめまして、よろしくお願いします」

「何か物を売るとも聞いておりますので、それはあちらの幕の下にテーブルを設置しております」


 確かにタープのような布の下に横に長いテーブルがいくつか連なっている。



「おお、ありがとうございます」


 そして領主の次に神官と巫女が前に出て来た。

 ミレナの方を向き直る。


「舞手の方は今から神殿まで同行し、禊を行ってください」

「みそぎ?」

「聖水の入った湯殿で身を清めていただきます」

「はあ……」


 気のない返事ではあったが、ミレナは大人しく神官と巫女について行った。


 神殿はすぐそこに見えていて、この公園は神殿に併設されたものなんだと思う。



 さて、俺達も色々準備を始めるか!











  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る