第186話 カナタ視点「優しい存在」

 カナタ視点


 その日のぼくは自室でミシンを使ってドールの服を作ってたんだ。


 夕食後にもしばらく縫い物をしていて、壁にかかっている時計のチクチクチクチクというレトロな雰囲気に誘われ、眠くなってベッドに移動して軽く仮眠をとった。


 そしてえっほえっほという聞き慣れないおとぎ話のようなかけ声に目覚めると、小人がいたんだ!

 数は七人くらい!


 なんと小人が作りかけのぼくのドール服の続きを縫ってくれている!

 流石ファンタジーな世界だ!


 小人さんがいるんだ!

 靴屋のおじさんが寝てる間に出てきてお手伝いをしてくれる小人は本当にいたんだ!


 しばらく薄目で見てたんだけど、むずっとして思わず、  


「っくしゅん!」


 思わずくしゃみが!

 見れば案の定、小人はビックリしてぼくの方を見て固まってしまった。


「や、やあ、お手伝いしてくれたんだね? ありがとう」


 ぼくは思わず小人さん相手にお礼を言った。


『お手伝い〜』

『お手伝いした〜』

『御駄賃ちょうだい、甘いやつ〜』


 何と小人が喋った!


「御駄賃に甘いやつ? お菓子でいいのかな?」


 ぼくは魔法のカバンから可愛いって理由でデパートで買っていた金平糖を出した。


 瓶から出して小さな星型の金平糖を平たい皿に出してあげた。


 するとワラワラと金平糖の周りに小人達が集まって金平糖を抱えてどこかに運んでいく。


 行き先はぼくがテーブルのはしに置いていた麦わら帽子の下だった。

 小人達は帽子のつばをめくって中に入っていく。


 小人のサイズは手のひらに乗るくらいだと思う。

 乗せてはいないけど。

 でも七人皆が入るには狭いのでは?とぼくは巣がいるなら、さしあたってダンボールにでも移動しないかな?と、


「そこは狭いだろう? さしあたってダンボールにでも移動しないかい? 開けるよ?」


 といって麦わら帽子をめくったら、確かに麦わら帽子の、下に入っていく小人達を見たのに一人残らず消えた。



「まさかこの麦わら帽子が小人世界への入り口に!?」


 ぼくはビックリして翔太の部屋へと走った。

 でもいなかった。


 忘れてた!

 猿助さんを花街に案内してくるって出かけたんだった!

 表向きは推し劇団の紹介だったけど、ジェラルドさんはギルドの仕事に行ったし、ミレナさんは預けていたルルエを引き取りに行ってしまってて、皆が戻るまでぼくはこの興奮を誰に伝えればいいんだ!


 って思ってたら、ドールの二人がリビングで本を読んでいた。


 こちらはこちらで超常現象の存在だ。

 超常現象そのものの存在に小人の話をして、共感を得られるだろうか?


 早く誰か帰って来ないかな?

 凄い事が起きたんだけど。


「ねぇ、君達、君達のお洋服を作っていたら小人が、手伝ってくれたよ」


 そう言うと、二人はキョトンとしてしまった。

 だけど、


「それは素晴らしいですね!」

「優しい人には手助けしてくれる存在が現れるって本で読みました! 童話に!」


 すぐに目を輝かせてそんな風に言ってくれた……。

 いい子達だ。


「二着とも完成してたけど早速新しいドレスに着替えてみる?」

「マスターが帰ったらすぐ見て貰えるように今着替えておく?」

「そうですね」


 二人は早速小人が仕上げてくれた服に着替えた。セーラー襟で重ね着のかわいいドレスだ。

「二人とも、よく似合ってるよ」

「ワフ!」

「ほら、ラッキーもそう思うってさ」


 暖炉の側にいたラッキーも軽く吠えた。


「「ありがとう、カナタさんとラッキー、そして小人さん達」」


「あ、夜はまだそこそこ冷えるから火をつけようか」

「ワフ!」

「そうですね、早朝も冷えますから、マスターも帰って来た時に温かい方が嬉しいでしょうし」



 相変わらずミラちゃんは翔太が大好きだ。

 僕は頷いてリビングの暖炉に火をつけた。

 そのついでにマシュマロを焼いてビスケットに乗せて食べる事にした。


「はい、二人もどうぞ、ラッキーはジャーキーね」


 とろけるマシュマロをビスケットに挟んでドールの二人にもあげた。


 二人は甘いものだけ食べられる不思議で愛らしいお人形さん。


 早く翔太達にも小人の話をしたいなぁと思いつつ、ぼくは暖炉の側のソファで再びのうたた寝をしてしまった。


 いや、うたた寝どころかマジ寝だった。

 気がつくと朝だったし、いつの間にかぼくの体には毛布がかけられていたし、これまた小人さんの仕業なのか、他の優しい存在の仕業かな?


 などと目覚めのホットコーヒーを淹れ、暖炉前でぬくぬくしながら予想をしたりした。











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