第163話 ジェローム国のスオサロ侯爵領

 港に降り立ち、港にある店ではブルーベリージュースや赤ワインを売っていたので店内を見てると売り子に声をかけられた。


「美味しいブルーベリージュースですよ、味見をどうぞ」

「ありがとう……美味い!」


 試飲させてくれたブルーベリージュースが甘酸っぱくて美味しかったのでワインもついでに購入した。

 旅先はつい財布の紐が緩みがち。


 魚屋もあったので覗いてみた。

 港町だし新鮮だろうと言うことで、銀鱈などを購入した。


 俺達が楽しく買い物をしていたら走ってきた騎士の集団がいて、何事かと思ったら、


「聖者様ですね!? 領主、スオサロ侯爵一族の方の命により、お迎えに上がりました!」



 何故か他国に俺の存在がバレている!!

 領主一族の……と言うことは領主本人では無いようだが。


「ぜひとも、お屋敷に」


 なんか騎士の顔がやけに必死そうだったので、仕方なく行くことにした。

 俺達は仲間同士でめくばせをしてから迎えの馬車に乗り込んだ。

 俺はジェラルドとラッキーとミラ、カナタはミレナとユミコさんとでそれぞれ二台の馬車に別れて乗り、ややして大きく華麗な侯爵邸に着いた。


 そして目の下にクマがある寝不足そうな侯爵令嬢に出迎えて貰った。


「ようこそ、聖者様、私はこの侯爵家の長女のカイサと申します」

「カイサお嬢様、はじめまして、翔太です」


「お荷物はこちらへどうぞ」


 執事がそう言ってやってきたが、断った。まだ信用してない。


「大丈夫です、自分で持ちます」

「では、お付きの方たちは客間へ、聖者様は父の元にご案内します」


 分断された。

 でも犬のラッキーの同伴が許されたから、まあ許す。

 高貴な身分の人に会うなら仕方ないのかも。


 豪華な扉の向こうにある部屋に通されたが、どうやら寝室だ。

 五十代くらいの男性が天蓋付きのベッドに寝てる。

 病気か?



「実は父の容態がよくなくて、自国の医者も神官も原因不明でどうにもできずに衰弱していくばかりで……」


 その時、何故か俺の脳裏に薬の瓶のような物が思い浮かんだ。


「……どのようなお薬を飲んでますか?」

「主治医の用意している薬です。それは……こちらになります」


 お嬢様はベッドサイドの鍵付きの引き出しから出した薬を手にして、俺に見せようとしてくれたのだが、


「ワン!!」

「きゃっ!!」


 お嬢様はラッキーが急に吠えた事にびっくりして薬瓶を取り落とし、ラッキーがそれを足で踏みつけた。


「すみません、うちの子が驚かせて。

でもラッキーがワフじゃなくてワンと吠える時は何か問題のある時なんですよ」


 俺は屈んでラッキーが踏みつけた薬を手に取り、瓶越しに中身を見た。

 中に入っているのは紫色の液体……。

 何か邪悪な気配を感じる。

 ゾクゾクと寒気がする。


「これは……もしかして毒では?」

「ど、毒!? それは主治医が用意したものですが」

「主治医が何者かに買収されたか洗脳されてる可能性はありませんか? なんか猛烈に嫌な感じのする薬ですよ」

「な、なんてこと……」


 お嬢様は真っ青になった。


「毒なら通常の病気と違いますからねぇ、神官でもちょっと難しかったでしょう。でも一応私がお父様……いえ、侯爵様の解毒を試みてみます」


「あ、ありがとうございます!」


 ──浄化と治癒魔法でなんとかなった。

 侯爵の顔色がずいぶん良くなったから。


 まだ体力が戻ってないのか目は閉じられたままだったが、すやすや眠っているようだった。



「とにかく侯爵が亡くなると得する人物に警戒してください、当方には犯人まではわかりかねます。ひとまず主治医から尋問すべきだとは思いますが」

「分かりました!」


「ところで、私が今日ここへ来るのがどうして分かったのですか? ただの旅行だったので特に知らせてはいないのですが」


「実は三日前に夢の中でボロを纏った老人が現れて、父を救いたければ犬とエルフと狐の娘を連れた聖者様が来るから相談してみなさいと……それで」


「なるほど夢……予知夢みたいなものですか」

「はい」

「ワフ……」


 俺の足元のラッキーが俺の膝の上に頭を乗せて来たので、頭と背中を撫でた。

 ワンじゃなくてワフだったので本当なのかもしれない。

 虫の知らせ的なやつかな。


 * *


 その後、屋敷で休んでいってくださいと言われていたので客室のベッドで休んでいたら、ややしてお嬢様に御馳走を出してもらった。


 ローストチキンとかミートパイとかが出たので肉好きミレナも喜んでた。



 お返しに俺はシナモンロールをあげた。

 外サクサク、中はねっとりの美味しいこのパンは自宅近くのパン屋で買っていたものだ。


「まあ、なんて美味しいパンでしょう!」



 そう、大変喜ばれたし、この領地の中は自由に行動出来る札のような物をくださった。

 色んな物をツケで買い物できて宿代も侯爵家のツケ払いで無料にしてくれるんだって。

 ラッキーかも。



 * *


 そして俺達が歓待されてる間にも、お嬢様の命令ですぐに怪しい薬の鑑定がなされ、主治医が捕らえられ、自白剤も使って尋問を行っていたっぽい。


 それは後日旅の途中、滞在していた宿にて手紙が届き、それで知った事ではあったが、この国の闇が少し垣間見えた。


 俺達は他国者だから罪人の名前こそ聞かされなかったが、どうもこの無実の侯爵家に人身売買とスパイを誘致した罪をなすりつけようとした悪い奴がいたらしい。


 更にこの家門に借金もあったから踏み倒したかったのもあり、侯爵を弱らせれば跡継ぎの男子も侯爵夫人も既に病死してるからなすすべなく没落するだろうと……。

 世の中には悪い奴がいるもんだと思いつつも、自分が関わってからはわりとスピード解決できて、そこは良かった。


 そしてスノードロップの森に行く途中。

 夜に宿で休んでいる時に急に思い立ったのか、同室のカナタが言った。


「寝る前にミラちゃんとユミコさんに童話か昔話の朗読でも聞かせてみようか?

僕は以前眠れなくて延々と青空文庫の朗読とか聴いてたんだよ、動画サイトに上がってるから」


「ああ、情操教育になるかもしれんし、いいぞ」


 ミラとユミコさんも嬉しそうな反応だったからいいのだが、適当に選んだノルウェーの昔話のキャラの行動がツッコミどころ満載だった。


「なんでこの王様は上の王子達の嫁探しに予算ほぼ全ツッパしてんだよ! おかげで末の王子の時にろくに予算ないじゃん!」

「王子達が巨人にあっさり石化されたけど、護衛騎士もついてないのすごいよね」

「この狼も長い間食べてないから助けてくれといいつつ王子はなけなしの財産である馬をあげちゃうけど喰われてしまう馬は可哀想じゃないのか?」

「狼は人の言葉を話せる上に馬を食べた途端に巨大化し、その背に人間乗せて凄く早く走れるくらいの特殊個体なのに何故自分で食糧を獲れなかったのかな」

「そうだよ、野うさぎくらい獲れててもよかった」



 などと仲間と共に熱いツッコミを入れて盛り上がったりはしたが、肝心の情操教育には……なったのか、なってないのか。

 まあ仲間と盛り上がれたのならいいか。と思いつつ寝た。














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