第162話 打算的でもわりと慈悲深い俺

「あの剣士マジでかっこよかったよな、動画用俳優にスカウトしたいくらい」

「あ、動画と言えば、僕クラーケン戦で記録くらいしか役に立てないから、こっそり撮影してたよ。生態調査とかに役にたてるかなって」


 !!


「カナタ! でかした!」


 カナタの撮影した画像を見せてもらった。


 おお! 今までのはほのぼの川遊びやら古城の肝試し飯動画やら、ミレナに腰を踏んでもらう動画やら、綺麗な景色動画ばかりだったが、戦闘ものもたまにはいいかもしれない。


 

「でもこの動画あっちで使える? イケメンだけじゃなくてクラーケンもいるんだよ? 画像もわりとブレてるよね? 翔太もクレリックみたいな感じで写っててそこだけ顔にモザイクかけたら変だし」


「クラーケンは皆きっとよく出来たCGだって思うさ。

映像のブレは臨場感を演出したって事で……俺の出てる部分の映像はカットすればいいし、あるいは臨時のモブ俳優みたいな感じで顔出し解禁するかなぁ?」



「臨時のモブ俳優って……でもクラーケンはやっぱりCGだと思うよねぇ」


 カナタは俺の臨時のモブ発言に苦笑いした。


「動画で凄いCGですね! ってコメントで言われたらにっこり絵文字か、ウインクしてればいいだけだから」

「笑ってるだけで嘘は言ってないみたいな。若干詐欺っぽいけどね」

「俺は娯楽映像を提供してるだけなんで!」



 ピイ〜ッ

 不意に海鳥の群れが鳴いた。

 俺は思わず海を見た。



「あの島が見えたってことは、もう他国の領域に入ってるな」


 ジェラルドは海の方を見て言った。

 確かに島が見える。


「いつの間にか国境を超えたってことかな?」

「ああ、夜に寝て朝が来れば他国の港が見えてるはず。俺達は夜も見張りを交代でやるけど、ショータは魔力を消費したし、食後は船室で大人しく寝てろよ」


「ああ、ありがとうジェラルド。夕食後は休ませて貰うよ」



 * *


 夕刻。


「あ、夕焼けがとても綺麗」


 ユミコさんがリュックから顔を出してそっとつぶやいた。

 確かに美しい。

 夕焼け空と海の映像も撮影した。


 やっぱり癒やしの景色と料理動画に、たまに異世界バトルも混ぜても目を引く気がする。

 皆CGと思うはずだし。

 最近のCGは凄い進歩を遂げているからな。


 既に野生の神CGクリエイターなんてコメント書かれてたりするし。


 そして夕焼けを撮影した後に夕食をとることにした。

 俺達は簡単にバゲットサンドなどを食べていたのだが、近くにいたイケメン剣士パーティーの一人が急に頬を押さえて呻きはじめた。



「あー、さてはバントンお前、また隠れて蜂蜜を舐めてたんだろ?」


 例のイケメン剣士ベルンハルトが仲間に話しかけていた。


「歯が、歯が痛ぇっ! いっそ死にてえ!」



 大の大人の男が船の甲板をゴロゴロ転がって喚いてる。



「死ぬくらいならいっそその歯を抜けよ! 俺が一撃で破壊してやる!」


 あのイケメン剣士、ワイルド過ぎる!

 剣で歯を!?



「いや、それは怖えーよ!」

「今いっそ死にたいって言ったろ!」

「痛くない死に方を希望する!」


「じゃあほら、この糸を引っ掛けて思い切り引っ張るとか」


 武闘家らしき男の人が糸を持っている。


「別にぐらついてはいない! 歯の生え変わりの時期の子供じゃねーんだよ!」



 永久歯の虫歯?



「歯が傷んでるならいけるのでは?」

「対応が雑!」

「バントン、この鎮痛作用のある薬草を」



 タンク系のがっしりした戦士っぼい人が今度は袋を手渡そうとしてた。

 あれに薬草が入ってるのか。


「効かない! そんなものでは、もう無理!」


 あの虫歯の人はおそらくは戦闘では怪我してなかったから俺の癒やしの恩恵は受けてなかったんだな。

 虫歯なら仕方ない。


 でも俺は気の毒に思ったので、彼に声をかけた。



「ちょっとお兄さん、歯を見せて貰ってもいいですか?」

「はぁ?」 


 涙目の男はそれでも素直に口を開けたので、俺はペンライトを手に歯を調べてみたら、なるほど、確かに左上の犬歯の隣に虫歯らしき歯があるようだ。



「俺の治癒魔法、試してみましょうか? いけるかどうか分かりませんが、さっきの戦闘の負傷者じゃないからいなかったんですよね?」


「クレリック!? お願いします! 助けてください! この痛みが消えて助かるなら金も払うし、何でもします!」


 おっと、何でもとか言うのは危険だぞ?


「じゃあ、浄化と癒やしの魔法をかけてみます」


 あるべき健康な歯を取り戻せるように。

 俺は浄化と癒しの魔法をかけた。



 すると、治癒は成功したし、なんなら歯の色も前より白く綺麗になってた!



「あーっ! 痛みが消えた! 神よ! 御慈悲に感謝します!」


 おそらくは歯医者のいない世界なんだろう。

 さぞかし辛かったな。



「なんかホワイトニング効果までついてた! やったー!! 俺凄い!」



 ついでに自分の魔法にホワイトニング効果まであったことに感動し、俺は思わずガッツポーズだった!



「マスター流石です!」

「え、ショータ虫歯が治せるなんて凄いじゃない!」

「ホワイトニングまで? 翔太凄い!」


 皆にも褒められた!


「これをお納めください! なんなら貴方の下僕にしてください!」


 冒険者は魔法のカバンらしきものから金貨五枚と蜂の巣の欠片を出して来た。

 これが虫歯の元凶か?


 俺はお返しに歯ブラシと歯磨き粉を取り出しながら、


「食後に歯磨き頑張ってくださいね。あと、下僕はいりませんし金貨は1枚で十分ですよ」

「あ、ありがとうございます! なんと慈悲深い!」


 もう元虫歯の人は号泣してた。

 よほど虫歯が辛かったんだろう。

 とりま金貨と蜜の入った蜂の巣は貰っておく。


「うちの仲間の斥候が申し訳ない、世話になりました」


 イケメンが俺にお礼に来たわ。

 ギルドのリーダーかな? チャンス!



「それは別にいいのですが、実はさっきの戦闘を魔道具で記録をしてたんですよ。この貴方の活躍するかっこいい映像を他の人に見せてやっても構いませんか?」


「あははっ! いいですよ! 俺の活躍を広めて下さい!!」


 爽やかにどさくさに映像をだす許可が貰えた!

 ありがとう、イケメンと蜂蜜大好きな斥候の人!!



 * *


 翌朝。


 魔力をそこそこ使ったので、船の揺れも気にせずにぐっすりだった。


「見えたぞ! あれがジェロームの港だ!」


 船室で船乗りらしき男の声で目覚めた。

 甲板に上がって外を見たら確かに他国の陸が、港が見えた!!













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