第157話 トナカイのソリとカマクラ

 スノードロップの開花の季節まで少しカフェ仕事とえちち本の原稿をやって過した。


 途中、浄化の仕事が入って出張した。

 また雪深い場所であった。

 見渡す限りの雪景色の中で神官と騎士が出迎えてくれた。

 しかもトナカイのソリをも引き連れて!



「トナカイだ! かわいい!」

「ホントだ、かわいい!」


 俺とカナタが本物のトナカイを見て田舎者のようにはしゃぐ。



「現場の手前まではこのトナカイのソリで参ります」

「分かりました、ちょっとだけ撮影失礼します!」


 神官と騎士がこいつ何やってんだ? の視線を送ってくるが、気にしない!!


「聖者様、そろそろよろしいですか?」

「あ、はい、寒いのにすみません!」



 肌を刺すような冷たい空気の中をトナカイが引くソリに乗って移動した。

 トナカイのソリに乗れたのが嬉しかったので移動中も撮影した。


 地球ならならサンタの故郷と言われる北欧のフィンランドの街で体験できるらしいが異世界でも行けたな!

 ソリがまた赤いのでちょっとサンタみたいだ!

 しばらく人工的に開かれた林道を進んでいたが、


「聖者様、申し訳ありません。ここから先はトナカイが進みませんので徒歩になります」

「あ、はい、分かりました」


 神官と騎士が徒歩で同行して場に案内してくれた。


 ただの冷気以外の気を感じた。

 ラッキーとミレナの尻尾がブワッと逆立つレベル。



「ここはどういう場所なんですか? 処刑所があったとか?」


 俺は神官に話題をふった。


「聖者様、ここは国境付近で小競り合いの多い地で魔物も出ます」

「ああ、なるほど」


 戦いで血が流れるから怨念で大地が穢れ瘴気が吹き出すんだろうな。

 あと、魔物が出るから。



「着きました」


 一目瞭然で黒々とした、霧のようなものが漂う場所に来た。

 仲間達は聖騎士の祝福を受けたマントを借りて身を包んでいる。


 俺は右手で杖を握りしめて、腕に魔力を集めるイメージをした。



 祈りを聖なる光に変えて、杖をかざし、黒く禍々しい気を放つ箇所に降り注ぐ。



『ピュリファイ!!』

 

 輝きが黒い霧を浄化していく。


「おお……これはまさしく聖者の光……」



 少し前まで新作のえちち漫画原稿を描いてたとは言えねえ。

 マジでなんで俺に浄化の力が宿るんだろうね?


「終わりました」


 俺がそう言うと神官が袋に入った報酬をくれた。

 多分金貨とかが入ってる。


「ありがとうございました。では領主様が用意した宿にご案内しますが、本当に領主様の屋敷でなくていいのですか?」

「権利者相手には気を使うし、のんびりしたいから下町感あふれる宿で十分なんです」


「かしこまりました」


 お宿に着いたら温かい料理でもてなしてもらった。

 宿の店主に一つ質問。


「明日は宿の近くの空き地を借りてもいいですか?」

「構いませんが雪しかありませんよ?」

「はい、雪があればいいので」



 そして翌日の朝の11時くらいに外に出て徒歩二分の空き地に到着した。



「ショータ、そして今日はここで何をしようっていうの?」

「ここにカマクラを作る!」


 俺は紙に描いていたカマクラの絵をミレナとジェラルドに見せた。


「カマクラか、僕は始めて作るかも」

「雪の中で作る避難所みたいなものだな。寒いからとっとと始めるか」

「異世界人は酔狂ね〜、雪玉みたいなものを作って楽しいの?」


「中でお餅焼いて食べるんだよ!」

「わー、楽しみ!」


 カナタはノリがいい。


「わざわざ雪の中で食べるの?」

「そう!」


「やっぱり変だわ、この二人」


 ミレナには異世界人のカマクラに対するあこがれが理解できないらしい。

 それでも一応手伝ってはくれる。

 冬のロシアでも耐えられる服を買っておいて、それを渡してるから。


 仕事も終わってるので少し遊んで行ってもいいだろう。


 近くに住む子供たちも旅人が何か変わったことやってるって思ったのか近寄って来て手伝ってくれたのでなんと三つもできた。


「カマクラ完成!」


 俺はスコップを手に晴れがましい顔で言った。


「おめでとう。で、次は?」

「お餅を焼いて食う!」


「あはは、おもしろーい」


 現地の子供がカマクラに入って無邪気に笑ってる。

 エスキモーのような毛皮付きの服を着て、りんごのように赤いほっぺと濁りのないキラキラした瞳が眩しい。


 それぞれのカマクラに火鉢を設置してその上に網を置き、お餅を置いて焼いていく。


「お餅は少しずつ食べるんだよ! 喉に詰まらせないように!」


 焼いたお餅とお汁粉を用意した。


「あったかい」

「甘くて美味しい」

「やはり海苔と砂糖醤油が至高」

「てか、ねー、美味しいけどもしかしてこれがお昼の食事!?」


 なんだ、ミレナはお餅がランチじゃ不服か?


「じゃあ鍋焼きうどんも出そう!」

「ならいいわ」 



 お餅やお汁粉や温かくて美味しい鍋焼きうどんもを喰らいつつ撮影をしたり、カマクラ作りを手伝ってくれた現地の子供にも同じ食べ物を振る舞った。


 寒く辛い季節にも楽しい思い出になってたらいいなと思う。


 こういう遊び光景動画は飯の種にもなるから一石二鳥!



 浄化の仕事が終わってから、ジェラルドの言うスノードロップの群生地に向かう事にした。

 そこはなんとエルフの里の近くに有るそうな。


 スノードロップは雪の雫という名前で日本では待雪草と言う。

 春を知らせる花と呼ばれて愛されている。

 雫のような形の花は日中に開いて夜に閉じる。


 楽しみだな!

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