第156話 お土産や差し入れ

 カフェ開店前にジェラルドからお土産をもらった。 

 それは瓢箪のような容器に入っていた。


「いつも貰ってばかりだからな、これはエルフの里の近くで採れる白き森の恵み。

メープルサップだ」

「おお!」


 エルフの里の白き森の恵みのメープルサップ!

 サップとは樹液の事だ。

 でも多分メープルシロップ呼びの方が一般的に通じやすいと思う。


 しかしエルフの里の近くで採れるやつだという事でとんでもないプレミア感がある!!


 カエデの幹から採取した樹液を加熱殺菌して濃縮してメープルシロップが作られる訳だ。


 ジェラルドが少し味見をと、スプーンを配ってくれた。



「上品でほのかな甘みがあるね」


 カナタが一口味わった後でそう言った。



「美味! ウィスキーの割水としても使ってみよう。ネットで見たけど趣があるらしいし」

「それは大人な楽しみ方だねぇ。でもこれコーヒーでもいいやつだよね、今から仕事だし、とりあえずコーヒーでいただこうよ」


 言われてみればそうだった。


「ミラとユミコさんにはワッフルかパンケーキにかけてあけるからな! 好きな方でいいぞ」

「どちらも好きですー」


 ミラが愛らしく答えた。


「貴重なものをありがとうございます」


 ユミコさんも恐縮した感じで礼を言ってくる。


 俺は業務スーパーで買ったワッフルをオーブンで温めて出し、コーヒーにも混ぜてみた。

 ──おお、美味い。


「自然の恵みの絶妙な甘みを堪能できる気がする……」

「やっぱコーヒーもいけるよ」


 カナタもコーヒーにメープルシロップを入れて、美味しそうに飲んでいた。


「普通にワッフルかパンケーキにかけるのでいい気がするわ」


 ミレナはお土産のメープルシロップをかけたワッフルを食べてそう評した。


 男はコーヒー、女子組は甘味でメープルシロップを美味しくいただいてる。

 一口どうぞとユミコさんがカナタにメープルシロップをかけたワッフルをあげた。


 素直に口を開けてもぐもぐするカナタ。



「本当に美味しいよ、新鮮なメープルサップを使っているから森の香りまで残ってる気もする」


 そしてカナタの森の香り発言で思い出した。


「そういやミラとユミコさんには鈴蘭ドレスのお土産があるんだよ、今着替えるかスノードロップを見に行く時に着替えるかどうする?」

「今汚したくないので、今度でいいです」

「私も」


 二人共飲食中のうっかりが怖いようだ。

 新しいドレスだし、それはそうかもな。と、俺は納得した。


 * * *


 雑貨は支店の方でで少し在庫入荷と告知看板代わりの黒板に書いておいた。

 そしてカフェの開店時間。客が続々入ってくる。


 カフェでの定番系人気メニューとなりつつあるのはワッフル。

 外はカリカリ! 中はふんわり!

 そして甘くて美味しいメープルシロップ!

 さらに映えを意識してホイップクリームも添えてる!!


 メロンクリームソーダも見た目が綺麗なので人気がある。


 ちなみにケーキは仕入時にケーキ屋さんにあったものを適当に出してるだけなので定番商品ではない。


 カフェもほぼ予告期間無しで突発的に開店してもそれなりに客も入って来てる。

 また伝書鳩が飛び交ったのだろう。


 * *


「ごきげんよう」

「ごきげんよう?」


 陽が暮れてから店の裏手から何か大きな箱を持っていた人が来た。商人風の人だ。


「伯爵様の使いで参りました」

「伯爵様の!」


 カフェの閉店間際に伯爵様の使いが何か持ってきてくれた。


「これをどうぞ」

「寒い中、わざわざありがとうございます」


「では、私はこれで」

「はい、ありがとうございました」

「何をもらったの? 磯の香りがするけど」



 鼻の効くミレナが訊いてきたので、厨房で早速箱を開けてみたら、なんと中身は立派なサイズの蟹! 多分7Lサイズくらいか?

 とにかく高級食材だ! 新年のお祝いにくださったのかな? ラッキー!


 さっきまで生きてたらしい蟹なので生でいけそうだけど、ここは他の異世界人に配慮し、しゃぶしゃぶでいただくかな!?


 * *


 カフェの閉店後に家で夕食として出した。

 今夜は蟹のしゃぶしゃぶ!


「甘い……これは甘いぞ!」


 高級食材の感動的な甘さを堪能する俺。


「蟹なんて贅沢だねー」

「このサイズだしなぁ、日本で買えばかなりの値段だよな」

「ところで伯爵様はなんで蟹をくださったの? 肉でもよかったのに」


 肉スキーのミレナの言いそうな事だった。



「俺が雑談でエビや蟹の甲殻類が好きって以前言ってたのを覚えてらしたのかもしれない」

「そうなの、今度は牛肉が好きって言っておくといいわよ」


 ミレナの気持ちは分からんでもないが、


「牛はこっちだと多くが労働力だから言いにくいだろ」

「そう、なら仕方ないわね」

「俺がたまに買ってくるだろ、あちらの美味しい肉を」

「じゃあ明日は牛肉にしてね!」


 ミレナがすっかり贅沢になってまっている……。

 

 * *


 翌日のカフェ仕事のまかないには牛丼を出し、ちゃんとミレナの意見を反映した。


 そして仕事の後での皆でおやつタイム。

 コンビニの季節限定チョコとか色々ある。


「このゴミ、誰かゴミ箱の近く通るなら捨てておいて〜」


 何気なくミレナが言った言葉に振り向いた俺。


 俺達が食べたおやつの残骸がビニールに入れてあり、そのゴミをミレナが足元の床に移動させたのだが、なんとそれをラッキーが咥えてゴミ箱へ持っていった!


「わー! ラッキー流石! 賢い! 動画を撮ればよかったね!」


 カナタが思わず感激する。


「はっ、そうだ、ラッキーは賢いからドラマ仕立てのものも撮れそうだな! 動物ものってかわいいからな!」

「脚本はあるのか?」


 ジェラルドの素朴な疑問に俺はシンプルに返した。


「え? まだ何にも考えてない!」

「夏になると水に浸かって涼んでる犬画像とかSNSで流れてくるよね。かわいい」


 カナタの脳裏には夏の犬。


「じゃあ冬は? 今は冬よ」


 今度はミレナの素朴な疑問。


「えーと、ストーブの前でマッタリ? それか寒さにも負けずに気合で散歩?」

「それって普通すぎない?」


 ミレナが容赦なく突っ込んでくる。


「でも犬は郵便受けから新聞を取ってくるだけでもえらいよな、最近は新聞を取らないけど」

「ワフゥ?」 


 にわかに注目を集めて戸惑うラッキーだった。






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る