第155話 春待ちの人達

 執事喫茶の臨時のバイトの後はまた3日間ほど売れ筋の物の仕入れの買い物を沢山した。


 街ぶらの途中、駅前でティッシュをもらってふと、気がついた。


 同人のノベルティで広告入りティッシュもらった事あるなって。



「え? ポケットティッシュを発注?」

「そうだ、ノベルティのふりして印刷所に」

「翔太はまだホムセンでティッシュおじさんてあだ名ついてそうな事を気にしているんだね。

 でも介護施設とか寮の管理人さんとかも大量に仕入れる気はするだけど」


「それはそうなんだが、一人オイルショックやってるバカに見えるのではないか? と」

「だから気にし過ぎだと思うけど」


「まあ、とにかくノベルティのティッシュだ! あれは違和感なく大量のティッシュの発注ができるからさ」


 フォックスリボンの店名を入れてティッシュを発注しておこう。

 配るのは異世界だ。


 文字はあちらのでこちらではフォントが無いから手描きになるが。

 ロゴとうーん、貴族が持ってても恥ずかしくない絵柄……蔦模様とか入れとくか?


 冬が終われば花粉症の季節だもんな。

 備えておこう。

 印刷が終わった頃に引き取りに日本に戻ればいいだろうし。



 しかし異世界での資産は増えるが、日本ではエロ本や素材集以外では動画配信しか今のとこ稼ぐ道がないな。


 あちらの宝石貴金属を持ってきてこちらで売りさばく事もできない。

 本物でも出どころはどこだって話になるだろうし。


 自分の家の庭から埋蔵金のように出て来ました! って言っても最高に胡散臭いし。


 タブレットを抱えたカナタが振り向きざまに俺に訊く。



「じゃあ挟み込むチラシのデータが出来たならティッシュの発注かけるよ、いくつ頼むの?」

「あー、最小ロットが100なら、ひとまず五千くらいで」


「はーい」


 ピー。と、機械音が聞こえた。


「洗濯が終わったっぽいから取り込んでくる」

「はーい」


 洗濯が終わったので回収した。

 畳んでから魔法の風呂敷に収納っと。



「ひとまず帰るか、あまり遅くなるとまたミレナあたりがキャンキャン騒ぐから」

「キャンキャンて、確かに子犬みたいなとこあるけど」


 カナタは苦笑したが、いつも雑貨屋でも手伝いをしてるのでミレナの気性はよく知っているだろう。



「かわいいエプロン付きの服も買ってあるし!

これで撮影も捗るはず!」

「ミレナさんはともかくそれが僕に似合うかどうか……」

「ヘーキヘーキ! いざとなったら後ろ姿を撮るから」

「うーん、後ろ姿ならなんとか誤魔化せるかも」



 カナタをなだめてから一旦就寝し、翌朝の早朝に廊下にある異世界の扉をくぐった。


 そしてまた、二人で大樹の根本に降り立った。

 吐く息は白く、冷える。



「冬の朝四時はやはり当然ながら寒いな」

「分かっていたことだけどね」


「とりあえずちょい食事をしてからチャリでも漕いでりゃ少しは温かくなるだろう」

「うん」


 俺は魔法の風呂敷からキャンプセットと弁当を取り出した。


「火を使うかな。豚汁用のお湯を沸かす為に」

「焚き木を使う? マイクロストーブ?」

「焚き木は後始末がいるからここはチートだがマイクロストーブで」

「はーい」


 火を使ってお湯を沸かして俺達はカップ入りの豚汁と弁当屋の海苔弁を食べた。


「白身魚のフライと揚げたちくわって美味しいよね」

「揚げたちくわなー、いいよな」


 カナタと他愛もないことを話してから、食べ終えてからキャンプセットを魔法の風呂敷にしまって、代わりに折り畳み自転車を取り出して乗る。



「よし、こっちも準備できたよ」


 今日はチャリに乗るので男の服を着ているカナタだ。


「じゃあ、朝焼けの中を出発だ」

「はーい!」


 しばらくチャリで走って異世界の人々が本格的に活動し始めてから、馬車移動に切り替えることにして、俺達はバス停のような馬車乗り場を目指した。



「思ったけど、自転車ってわりと運動になるよねー!」

「自力で漕ぐからなー」


 馬車より車で移動したいとこだがハイテクノロジー過ぎて車は流石に持ち込めない。

 しばらくチャリで走ってたら、目的地が見えた。



「見えた! 馬車乗り場あったー」

「よし、チャリから降りるぞ」


 * * *



 異世界の家に帰りついた。

 ジェラルドとミレナにただいまの挨拶をしてから、これからの少しカフェを数日だけ開店させてから、それが終われば旅行に行こうかって話をした。



「スノードロップの群生地か、あるぞ」

「流石長生きエルフのジェラルド! 何でも知ってる!」

「はは、流石に何でもは知らないぞ」


「お花畑に行きたいなんて、ショータはなかなかロマンチストね」


 などというミレナだったが、まんざらでもないって顔してた。

 ミラとユミコさんも花畑と聞いて喜んてる。


「一足先に春を告げる花を見に行って映える動画を撮ってあちらの資金を得るのだ」


 俺がそう力説したらミレナが苦笑した。


「なんだ、目的はお金だったのね」

「いや、純粋に美しい花を見たい心も一応あるぞ! ついでに一攫千金を狙ってるだけで!」

「一攫千金はどうか知らないけど楽しみだね、綺麗な景色」


 カナタがカメラの動画をチェックしつつ嬉しげに言った。


「しかしスノードロップの開花時期を見計らうなら、もう少し後だ」


 ジェラルドの言葉に俺は頷いた。


「ああ、仕方ないからしばらくカフェの仕事をしよう。あと、また仕入れて来た物を支店に回そう」

「じゃあ誰かに荷物を引き取りに来て貰うか、我々で届けるか」

「俺は荷物を出して、一旦寝るから人を呼ぼう! 俺は移動で疲れた」



 一旦休ませてくれ!

 ぴーちゃんを呼んで使いにやり、売り物の荷物を引き取りに来て貰う事にした。



「じゃあ明日からカフェ開店て黒板に書くわよ?」

「ああ、ミレナよろしくー」



 そう言って俺は自室のベッドに向かおうとしたのだが、カナタが急に思い出したように言った。


「そういえば翔太の執事姿の画像あるよ! 見る!?」

「え!? 何それ見る!」


 ミレナやミラ達が何故かカナタのスマホに群がった。


「どう? 僕はかっこいいと思う」

「なかなか悪くないじゃない! カフェもこの姿でやったらどう?」

「本物の執事がいるこの世界でそれはキツイ!」



 と、ミレナの意見はすぐさま断って、俺は恥ずかしくて寝室に逃げ込んだのだった。


















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