第154話 執事喫茶で
カナタと合流して事情を話した。
「執事喫茶でバイトかぁ。夕方からなら時間一応開いてるし、僕は別に構わないけど」
「カナタがそう言うなら……条件付きで俺もオッケーです」
ノロウイルスは大変だもんな。
「条件とは? ギャラですか? 緊急の代理なのでなるべくはずんでもらいます!」
しかしせっかくなのでひとつ条件を出す事にした。
「いいえ、お金ではなくてですね、俺の外国人女性の知り合いの為に下着とかベビードールなどを買って来ていただけませんか?」
「はい?、女性の下着を買えばいいんです?」
俺は驚くレイヤーさんに話を続けた。
「はい、男の私は女性の下着売り場に入りにくいので、サイズは色んなのでお願いします。
資金も手渡しします、店の前の通路にて待ってますので」
「お安い御用ですが、エスタさんは外国人の女性のお友達が多い?」
「えーと、一人にあげて他の子は無しだと可哀想なので、ほら」
「なるほど! 優しいんですね!」
商売ですけど!
「いえ、別に! 綺麗なものを身に纏ってゴキゲンな女性が増えるのはいいことですし!」
「それはそうですね! じゃあ今すぐ買います!」
「ありがとうございます、じゃあ俺達は通路で執事喫茶の動画見ながら勉強してます」
俺は封筒に入れていた軍資金を彼女に手渡した。
「はい! おまかせあれ!」
そして彼女は下着売り場に入って行った。
カナタばかりに女性の下着を買わせていたのでたまには他の人も混ぜた方がいいだろう。
「カナタはスマホのイヤホン持ってるか?」
「大丈夫、あるよ、一緒に見ようか」
「ああ」
レイヤーさんが下着を選んで買ってる間に、同じ執事動画を二人で見ることにした。
イヤホンを、左右で片方ずつの耳に使う。
「へー、執事ごとにキャラ設定があるんだね」
「そうみたいだな。しかもわりと会話振られるもんだな、いらっしゃいませってお迎えしてお嬢様呼ばわりして、給仕すればいいだけかと思ったが」
「案外会話力がいりそう」
「カナタは新人執事キャラ設定ならやや不慣れでいけるんじゃないか、見た目が若いし」
「新人であるのは間違いないね」
などという話をしつつ執事動画を二人で見ていたら、お買い物が終わったレイヤーさんがショップから出てきた。
「はー! 下着爆買い楽しかった!」
彼女は上機嫌だった。
自分のものでなくても買い物は楽しいらしい。
「楽しんでいただけて何よりです」
彼女が買ってきた品が入っている紙袋を受け取って、俺達はショッピングモールをでて執事喫茶に向かった。
場所をナビしつつ教えてくれるというので俺の新車に彼女も案内の為に乗せた。
途中にあったコンビニで食べ物と飲み物などを買って来た。
執事喫茶近くの駐車場で急いで腹ごなしのゼリー飲料を胃に流し込んでから、俺達は執事喫茶へ向かった。
執事喫茶の壁はレンガ模様のお洒落な雰囲気の店だった。
「本日は急にすみません、そして助かります!」
「いいえ、困った時は助け合いです」
店の人から執事の衣装を受け取った!!
借りて着替えて来るぞ。
* *
執事と言えば黒い燕尾服姿。
「僕はこんな感じになったけど」
「中性的な美形執事だ、カナタ似合うな」
「翔太の方が似合ってるよ! 写真撮ってもいい?」
「はは、ありがとう。てか、写真か? 別にいいけど」
誰に見せるつもりなのかカナタはスマホで俺の写真を撮った。
ちょっと照れる。
「撮れた! ありがとう!」
カナタが満足ならそれでいい。
「まあ、執事の出る作品なら沢山読んでいたし、なんとかなるだろう」
オタクだからな!
異世界ではリアル執事にも会ってるし!
「えっと、いらっしゃいませではなく、お帰りなさいませでしたね」
店の人とも話しておく。
「はい、そうです、よろしくお願いします」
「イングリッシュアフタヌーンティーセット、フットマン、紅茶は四十種類以上……」
ぶつぶつと言いつつ、カナタはマニュアルにある単語情報を頭に詰め込んでいる。
「仮りの名前は何にしますか?」
「あ、源氏名的な仮名か、翔太、どうしようか?」
「俺はもうセバスチャンでいいよ」
執事と言えばセバスチャンだろ?
「草だわw」
思わずツッコミ笑いするカナタの友人のレイヤーさん。
どうも紹介した手前、やや心配で見守る為に残っているらしい。
「じゃあ僕は……加藤でいいや」
「カしか合ってないじゃないのw カナタおもろ〜」
「代打だから何でもいいんだよ〜」
少し照れてるカナタだったが、もう本番の時が来た。
予約のお客様はエリカ様とマリ様だったな。
「お帰りなさいませ、お嬢様」
「お帰りなさいませ、こちら新人のフットマンの加藤とセバスチャンです」
「セバスチャン!」
思わず客もセバスチャンと言う名前を聞いて笑ってしまった。
さもありなん。
せめて笑いがとれてよかった。
俺とカナタは別のお嬢様を担当する。
「さあ、エリカお嬢様、お席にどうぞ、外は寒うございましたでしょう、あ。コートはこちらに」
「ありがとう、セバスチャン」
「マリお嬢様もお席にどうぞ」
「ありがとう、加藤」
俺達はひとまず別れてお嬢様をそれぞれの席に案内する。
「お嬢様、本日のお飲み物はいかがなさいますか? 紅茶は四十種類以上揃えております」
「ダージリンとスコーンを」
「かしこまりました」
俺はオーダーをとって厨房へ向かった。
「はー、緊張した。注文はダージリンとスコーンです!」
「はい、かしこまり! こちらをどうぞ」
厨房の人が、茶葉とスコーンを選んでくれたので、それを燕尾服の俺が優雅に運ぶ。
「やはり久しぶりに帰る実家はいいわね」
おっと、やはりロールプレイをふられるようだ。
「お嬢様、家出が少々長引いておられましたね、皆淋しい思いをしておりましたよ」
「うふふ、ごめんなさいね。ところで久しぶりにセバスの特技が見たいわ、私が落ち込んでいる時によく、見せてくれたでしょう?」
謎の無茶振りがきた!
でも、手品的な事をすればいいのではないか?
と、俺は思った。
「では、少し失礼します」
俺は客の前で燕尾服の上着を脱いだ。
お嬢様は少しびっくりして俺を見つめている。
俺は上着を左手で持ち、右手を上着の中に入れて、一言。
「いでよ、ぴーちゃん!」
マジシャンが鳩を出すように、ぴーちゃんを召喚したのである!
「ピー!」
「まあ!」
「いかがですか? エリカお嬢様」
「流石だわ、セバス、毎回どこから出しているの?」
予想外の芸が出てきてキャッキャと喜ぶお嬢様なお客様。
周りのフットマンも思わず驚いている。
青くかわいい小鳥が突然出てきたからな。
「異世界からですよ、幸せの青い鳥です」
「もー、セバスったら、面白いんだから!」
ぴーちゃんは未だ俺の肩にいる。
「ねえ、その子触れる?」
「少しだけならいいですよ、優しく撫でてあげてください」
「わあ、かわいい!」
大人しく撫でさせてくれるぴーちゃん。
「さあ、お嬢様、そろそろお手を拭いて、冷めないうちに紅茶とスコーンをどうぞ」
「名残惜しいけど、分かったわ」
そしてもう一回ぴーちゃんを上着に隠すようにしてお帰りいただいた。
こんな感じで俺はなんとか臨時の執事バイトを乗り切ったが、終わってみればなかなか楽しいバイトだった。
そして楽屋裏。
「エスタさん、びっくりしました。鳥なんかいつ隠していたんですか?」
「イリュージョンです」
「ウケる~」
「マジでおもろい、執事が天才マジシャンだった」
「あくまで執事ですから」
「出た、決め台詞ーー!」
キャハハと笑ってくれてよかった。
まかないにサンドイッチを出してもらえたのでそれを食べて夕食とし、俺達はギャラを貰って風呂屋に向かった。
スーパー銭湯。
温かいお湯に浸かりながらカナタと明日の予定を話す。
「せっかく魔力使って来たし、明日も買い出ししてからあちらに戻るか」
「そうだね~」
そして風呂の後に運転をして、カナタの為に用意していたアパートの部屋に帰宅。
俺の家が別荘地で遠いから、やや手狭な部屋ではあるが、ほどんど寝るだけなら問題ないので。
ソファベッドに一人、もう一人は下にマットを敷いて寝る。
「俺がマットを使うから」
「翔太がソファベッドでもいいよ」
「いや、マットの方が安定してるからこちらでいい」
「分かったー」
寝る前に二人してしばらくSNSをチェックしてから、就寝した。
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