第158話 翔太の新春スペシャル動画。かまくらと子供達。
スノードロップの森に向かう道中の宿の中。
俺はタブレット端末を出して、先日のカマクラの映像の編集をしてる。
モノローグ、字幕もつける。
皆、異世界言語を喋っているから日本人の視聴者向けにやってる。
* * *
かまくらの中は幸せな笑い声と温かな香りで満たされていた。
子供たちが一緒に安全に食べられるように、俺や友人達と共に火鉢の上の網で焼いたお餅がぷっくりと膨らみ、子供達が無邪気に歓声を上げた。
「わー! 膨らんだ!」
「形変わった! 変なの!」
『ウホッ、我ながらいい感じに焼けた!』
お餅にはこんがりとした焼き色がつき、食べ頃を教えてくれたし、その光景は焼けるのをじっと見守っていた子供達をわくわくさせた。
皆、一様に興奮と期待に満ちた目を輝かせている。
狐っ娘のミレナが己の分のお餅を箸で取り、掴んだお餅に向けて少しフーフーと吐息をかけた。
熱いといけないからな。
お餅は表面が軽くカリッとしているが、中はもちもちとした食感に仕上がっている。
「少しずつ食べるんだぞ、喉に詰まらせないように!」
俺の注意の後に、彼らは口々に、「おいしー」
「始めて食べた! おいしい!」と素直な感想の声を上げながら、お餅をかじり始める。
そして温かいお汁粉もある。
お汁粉は滑らかな白玉がぷかりと浮いていて愛らしい。
ほくほくの小豆が優しく交わり、甘さと深い味わいが溶け合っていた。
お汁粉をスプーンですくい上げ、口に運ぶ。
温かさと甘さが彼らの胃を満たし、心までじんわりと温めてくれるかのようだ。
ミレナがふと、美味しいけどこれらが食事なのかと物足りなさそうな事を言う。
たしかに甘味だけだとおやつ感が強い。
今はすでに昼食の時間だからだ。
なので俺は追加で鍋焼きうどんを用意した。
キャンプなどでも使える銀色のアルミの鍋で作るやつだ。
そして、スイーツと主食の出すタイミングがおかしかったが、鍋焼きうどんの上げる白い湯気がいかにもな真冬感を演出してくれた。
うどんの麺はもちもちとした食感で、コシがある。
鍋の具材。
特にきつね色の油揚げには甘い味と出汁の風味が染み込んでいる。
そもそもカップうどんでもこの甘い油揚げの存在はスター的なもんだと思う。
甘くてとても美味しいから主に女性と子供達のウケがいい。
友人達と一緒に鍋の中に箸を入れ、うどんを口に運ぶ。
凄く温まる。
温かくて美味しい。ホッとする味だ。
かまくらの中で、子供たちは火鉢を囲んで楽しそうに美味しそうに食事をし、寒さを忘れ、心温まるひとときを過ごしているように見えた。
この小さなカマクラパーティーの幸運の時間は、ふいに現れた旅人の俺達の記憶と共に子供達の記憶に残って、いつの日か楽しかったなと、心をも温めてくれたらいいと思う。
この日の……鍋焼きうどんのように。
* * *
今回の動画はこの辺で終わりです。
では、この動画をいつも見てくださる視聴者の皆様の健康と幸福をお祈りいたします。
番組の終わりにこの動画に高評価、まだの方は登録などをしていただけると、次回の動画制作の励みとなります。
ありがとうございました。
* * *
「翔太、ここまでポエムな感じにする必要あった?」
俺のつけた字幕、モノローグつき動画をチェックしたカナタが少し笑いながら言った。
「どうだろう? やりすぎたか?」
「ま、まあいいんじゃないかな? でもポエムの中に急にウホッとか入るの何?」
「そ、それは流石にポエムだけだとやや照れが……」
ゴニョゴニョと言い訳をする俺。
「まあ、愛嬌だよね!」
確かにコメント欄にポエム始まった! とか書かれる未来は予想できるが……。
まあ、何かしら面白いツッコミ要素があるのも悪くはない気がする。
「おそらくはジェラルドがかっこよくてミレナが可愛く映ってれば視聴者は満足だろうと思うんだよ」
「彼らの容姿はいつもベストコンディションだから凄いよね」
そんな訳でややポエミーな、異世界カマクラパーティーの動画が仕上がった。
俺の動画はエルフや狐っ娘が出てる段階で異世界設定としてやってる。
背景合成、加工乙とか書かれるけどそれでいいのだ。
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