第152話 魔力を注ぐ

 新春初売りセールはやはり異世界でも盛況だった。


 そして現在、柔らかい手触りでただいま異世界の貴族の間で大人気のティッシュの件。


 ティッシュの為の紙の工場の動力は電気から魔力とかアレンジは必要かもしれんが同じ人間が作ったのだし、ヒントがあれば似た感じの手順で作れるようになると思う。


 研究者や設計技士とかは伯爵様とかが見つけてくれるはず。


「後は数日カフェを乗り切れたらなんとかなる、休みに入るから、皆、頑張ってくれ」

「「はーい」」



 だけど一旦車を受け取りにあちらに帰りたい。

 ゲートとなる大樹への魔力は自分で注げるようになったから、多分行けると思うんだよな。

 おそらくは満月まで待てなくても……。

 

 * * *


 3日間ほどカフェを仲間全員で頑張って回してしたら、花街の噂を聞いた。


 感染する病の話。

 お陰で唯一効くと言われる俺が持ち込んだ抗生物質は売り切れたって花街内に卸した店から手紙が届いた。


 追加をと頼まれたけど薬はそのへんの風邪薬とかと違い、なかなかに難しい。

 なんとか清潔にしてゴムなどで病気を予防して欲しい。


 またゴムも足りてないと言われてるけども、これでも頑張って仕入れた方なんだよな。


 どうしてもやばいなら俺が出張して癒やしの魔法を使うか、特製の聖水やポーション的なものを作るかだ。


 花街の人達も生活がかかってるからしばらく商売やめてロックダウンでもしろとも言いにくい。


 高位神官の祈りで治癒魔法を受けられるのは主に金のある特権階級だもんなぁ。


 数日後、もうカフェでの売り物すら尽きたって頃に、一旦ティッシュ工場の話し合いをしに伯爵様の元へ行った。



 執事に恭しく、応接室に通された。

 伯爵様を待ってる間に紅茶とドライフルーツのケーキを出された。

 美味い。


 ややして伯爵様が登場して、軽く雑談から入る。


「伯爵様、花粉対策のグッズの方はどうです?」

「春が来る前に対策をと言う話は多いのでちゃんと売れている」

「それはようございました」


 その後、二人の錬金術師とドワーフに会いに仮に用意されてる工場へ馬車で向かった。


 ティッシュ工場の動画を端末に保存していたので、皆でそれを白く大きなスクリーンに写し出し、プロジェクターを使って見た。


 錬金術師はちきんとメモを取っていたし、絵師も一人いて、工場の設備のラフスケッチなどもしていた。


 そして木材はこの辺の森から伐採する予定だと言われ、地図を見せられたが、俺に異世界の地理はよく分からない。

 地質学者とかでもないので、地すべり等の災害が起きない程度にやってくれとしか言えなかった。


 その日の夜。

 仲間と共に大樹の元へ向かった。

 常ならばカナタと二人だけで向かうのだが、今回は移動に失敗したらそのままどこか旅行に行こうかって事でジェラルドやミレナもついてきている。



「さて、満月でもないけど、人気の少ない早朝に行けるかチャレンジするぞ、まずは大樹に魔力を流す」

「なんなら俺の魔力も足そう」


 ジェラルドが数歩前に出て助っ人を申し出てくれた。


「ありがとうジェラルド」


 俺とジェラルドが右の手のひらを大樹に向けて突き出して、魔力を大樹に注ぎ込むイメージで解き放った。


 ゴクリ。

 カナタとミレナは固唾をのんで見守っている。


「大樹が光ってるわよ」

「魔力が満ちたかも、行ってくる」

「二人共、なるべく早く帰ってよね!」


 ミレナが大樹に向かう俺とカナタの背中に声をかけた。



「ああ、二人共、冒険者ノルマでもこなして待っててな!」

「ああ、待ってるぞ、気をつけてな」


 ジェラルドがそう言うけど、今から帰るのは治安のいい日本。


「そっちのが危険だから気をつけてね!」


 カナタがそう言って、俺に続いて大樹に飛び込んだ。


 無事に通れた!

 俺は別荘地にある自宅の廊下に出た。

 そしてカナタも無事に俺が描いた扉から出てきた。


「成功だ」

「やったね!」

「じゃあ少し仮眠してから車を引き取りに行くか」

「うん」


 そんな事を言いつつも、スマホの充電をしつつ、俺は郵便受けや宅配ボックスから荷物を回収してから居間のソファベッドで同人の売上げや動画の再生数をチェックした。


 カナタはテレビをつけて世界情勢を知りたいのか早朝のニュースを流した。



「お、動画かなり見られてる、登録者も増えてる」

「やはり日本語字幕つけてよかったねー」


「お」

「翔太、どうかした?」

「SNS見たらドールの新しい服の紹介があってさ、かわいい鈴蘭ドレスが出てた。ミラとユミコさんに買ってやりたい」

「いいね、車を引き取ったらドールショップに買いに行こうか」


「ああ、あ!」

「今度は何?」

「SNSにめちゃくちゃ綺麗な風景が、ほらこれ」



 俺は手元でいじっていたタブレットをカナタに見せた。



「スノードロップの花畑に女性が佇んでいる写真だね、とても綺麗だ」

「こういうとこ、あちらにもあるなら写真や動画を撮りに行きたいな」

「次の旅行先は花畑か、いいね!

ジェラルドさんならこういう場所を知ってそう」


 そんな事をカナタと喋ってから、10時くらいまで仮眠しようって話をしてから俺はスマホのアラームをセットして寝た。






















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