第148話 おせち料理

 朝になって移動して家に帰ってきた。

 そして疲れて寝た。


 寝て起きたら昼だった。

 しかし慌てることはない、おせちがある。


 居間の暖炉は既に火を入れてあり、部屋は温めてあった。

 ジェラルドが先に起きてルルエの世話をしていたので多分彼のおかげだろう。


 おせちの重箱や取り皿やお屠蘇代わりの日本酒をテーブルに置いて、プロジェクターを起動して神社の映像を流し、正月の雰囲気を盛り上げる雅な音楽も流した。


 実は材料は買ったが時間があまりなくてまだ筑前煮とお雑煮はまだ作っていない。

 でもひとまずおせちを食えばいいよね。


「何か不思議な音色が聞こえるな」


 ジェラルドが庭から戻って来たようだ。


「あ、ジェラルド、俺の故郷の正月に流れてそうな音楽だよ」

「おはよー、雅な音楽だね、誰か分からないけど、部屋を温めてくれてありがとう」

「実は、それは私です」


 棚の飾りのドールが急に喋ったと思いきや、


「あ、ユミコさん! 新年おめでとう! 暖炉の火をありがとう!」

「ユミコさんだったのか! 火はてっきりジェラルドかと、棚の上で大人しくお人形してて気が付かなった! ごめん、留守番もありがとうな!」

「いいえ、皆様無事でお戻りくださって良かったです」


 そして階段を軽快に降りる足音が聞こえた。


「なんか料理できてるー!」


 ミレナも起きてきたな。


 穏やかな異世界の昼。

 しかし本日はあえて日本の伝統料理であるおせちを振る舞うことにした。


 まず、皆で小さなお猪口に注いだお酒で乾杯。


「飲みやすい味ね」

「女性でも飲みやすい甘めのお酒だ」

「これ、美味しいね」

「ほう、悪くない」


 甘いとはいえ、お酒だ、ミラとゆみこさんにはりんごジュースをあげた。


 まず、ジェラルドが黒豆を手に取った。


 俺はいるかいらんかわからないまま、黒豆の解説をした。


「黒豆は縁起が良いとされ、新年のお祝いに欠かせない、豆々しく生きろという意味だったと思う。甘く煮てある」


「ああ、かなり甘いな」

「甘くて美味しいわ、おやつみたい」



 確かにおやつみたいに甘いな。

 続いてミレナが数の子に目を奪われた。


「数の子は小さな魚の卵で、塩辛い味わいが特徴でこの数の子は、昆布で巻かれ確かな食感と風味を楽しめると思う」


 あと数の子には子孫繁栄を願う意味があるが、これを言うと、どうなの? 子孫繁栄はできそうなの? とかいうツッコミが来そうで怖いから言わない。



「美味しいし、食感が面白いわ!」

「ああ、コリコリしてるな」


「数の子って美味しいよね、いいお値段だから正月くらいしか食べないけど」


 カナタも数の子が好きなんだな。



 そうして、田作り、たたき牛蒡、紅白かまぼこ、だて巻き、栗きんとん、昆布巻き、伊勢海老…カナタが頑張った美しい盛り付けとデパートの惣菜作りの料理人の調理技術に感心しつつ、異世界の友人達も目を輝かせ、少しずつ食べ進めていった。


 そして、何か忘れてる気がした。


 あ、餅!


 俺はちょっと席を立って餅をオーブンレンジに入れてきた。

 筑前煮とお雑煮は明日。


 それから俺は鯛の焼き物をアピる。



「鯛は縁起の良い魚として俺の故郷で重宝されていて、これは皮がパリッと香ばしく、身はふっくらと仕上ってると思う」


「違いない」

「確かにそうね」

「うん、美味しい!」


 ジェラルドとミレナとカナタが頷いた。


 最後に、おせちの最大の飾りとも言えるメインの伊勢海老。


「伊勢海老は特別な日の食卓にふさわしい贅沢な一品だ、高級食材様だ。皆でありがたくいただこう」


「やはりエビは最高だな」

「流石伊勢海老様だよ、シンプルな茹で料理でも美味しい」

「やっぱりこれも美味しいわ。もぐもぐ……」


 エビスキーのエルフも狐っ娘も大満足。

 俺達日本勢も当然満足。


 あ、ミラとミナコさんには鮮やかでとっても映えるフルーツタルトをあげてるし、ラッキーにはジャーキーだ。


 そしてさっきからミレナがドールの二人が食べているフルーツタルトをチラチラ見てる。

 それも食べたいのだろうが、オーブンから音が鳴った。

 俺達の分のフルーツタルトもあるけど今は餅を食おう。



「餅が焼けたぞ」 

「翔太、やっぱり砂糖醤油と海苔でいく?」


「そうだな、きなこでもいいけど俺はやっぱり砂糖醤油が一番美味いと思う、異論は認める」

「僕も砂糖醤油好きだよ〜」


 そんなわけで皆に砂糖醤油で餅を振る舞った。


「ゆっくり慌てずによく噛んで食べてくれ、老人はこれをたまに喉につまらせて新年から逝くことがある」


「危険な料理じゃないの」

「でも美味いんだよ」

「命をかけるほどか?」


「うーん、とにかく俺の故郷の人はこれを食べないと新年、正月が来た気になれないのだろう。

小さく切って出すとか工夫がいるな、それか老人にはもう諦めろと言うか」

「なかなか心情的には厳しいけど、新年早々救急車案件は避けたいよね」



「しかし、ここには特別な長生き者は俺しかいないから問題ないな、ん、美味い」


「そうだな、エルフは三百歳を超えてても余裕だよな、素晴らしい」


「これ美味しいわね、おかわり」

「はいちょっと待ってね、今度は僕か焼くから!」


 今度は食いしん坊なミレナの為にカナタが席を立った。

 ありがとな!


 そうして和やかな雰囲気の中、新年を祝う日本の料理をぞんぶんに楽しんだ俺達だった。







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