第147話 また新年のお祝いに混ざる
少年の母親の治療を終えてから俺達はまた寒空をチャリで駆け抜け、教会へ戻った。
今からだと宿がやってないだろうとミレナが言うので、やはりそこで暖を取りつつ夜明けを待とうという話になったから。
俺はフードを目深に被り、目元を隠す仮面まで着け、星々が闇夜を照らし出す中、新年のパーティーが未だ開催されていたのでまたしれっと混ざった。
教会の庭にはキャンプファイヤーのような枠組みの中で壮大な魔法の炎が燃え盛り、その熱気だか魔力だかが空気を温めていて、幻想的なので撮影もした。
周辺には村人達が集まり、いつもよりちょっといい衣装を着て踊り、歌い、共に新年を祝い、祝福の音色が周囲を包んでいる。
そしておそらく大テーブルがないからか、中くらいのテーブルをいくつかくっつけてあり、宴席には焼いた鳥や豚の料理やワイン等が並べられている。
村人以外にも村に立ち寄った冒険者らしき者達もちらほらいるし、笑顔と歓声が広がり、喜びが溢れていた。
教会所有のものであろう銀の燭台から揺れる炎が、人々の表情に優しい輝きを落とし、幸福と希望に満ちた未来をと俺も願う。
「ワフ!」
急にラッキーが軽く吠えたので、前方を目を凝らして見たら長身のエルフがいた!
「あれ? ジェラルドだ!」
俺とカナタはここだぞーって目立つように手を振ったが、ミレナは料理に夢中だった。
「お帰り、二人共、新年おめでとう」
「ただいま! そしてジェラルド、新年おめでとう!」
「新年おめでとうございます、ジェラルドさん。ところでこの暗い中、わざわざ森から出て来たんですか?」
夜の森が危なくなかったか、カナタは心配なようだ。
「一旦は森の家に行ってたが、今日の夕刻は知り合いの家のパーティーに招かれてここの近所にいたんだ」
「へえ、そうだったのか」
ジェラルドはイケメンなので人気があるんだろう。納得。
「流石に新年だけあってここも沢山の人が集まってるな」
「ああ、とりあえず今夜は皆で飲もうぜ」
「ああ」
「村の料理はもうだいぶ減ってるから、俺がツマミにフライドチキンとポテトを出すよ」
「フライドポテトとチキン!」
やはり村の料理より嬉しいらしい。
ミレナの耳と尻尾が素早く反応している。
「そいつはいいな」
「そんで家に帰ってからおせちを食べよう。あ、おせちはうちの故郷で新年に食べる料理だよ」
「ほう、楽しみだな」
「ポテト、ホクホクで美味しいよねえ」
カナタがポテトを食べつつしみじみと言った。
揚げたてを魔法の風呂敷に入れてたからな!
「やはりスパイスがちがうわね! チキンも美味しいわ! 噛んだら肉汁も出てくる」
「このチキンの外側がカリカリなのがいい」
「皆も良かったな、あ、ミラにはケーキをあげよう、甘いもの」
「マスター、ありがとうございます!」
「え、あ! 私にもケーキ!」
ミレナがすかさず言ってきた。
「分かった、分かった」
俺は風呂敷からショートケーキを仲間の人数分取り出した。ラッキーはジャーキーだが。
「白くて綺麗なケーキですね」
「王道のいちごショートケーキだ」
「いちごがみずみずしいし、クリームは甘くて美味しいわ!」
「そして綺麗ですね」
「ああ、そうだな」
ジェラルドも優しく微笑んでいる。
しばらくチキンとポテトとケーキに夢中になっていたミレナだったが、俺は彼女に急に手を引かれ、ダンスの輪に連れ出された。
「おい、ミレナ、俺はダンスなんて無理だって!」
「テキトーに音に合わせて動けばいいのよ! 神楽舞でも自分で私に言ってたじゃないの」
あー! 確かにそうだけど!
あれとはテンポとか全然違うぞ!
「もう知らんぞ、どうなっても」
「ほとんど皆、酔ってるからヘーキヘーキ!」
俺はでたらめなステップで踊った。
今夜は無礼講だ! ヤケクソだ!
今日はここで家族や友人同士や冒険の日々を共有する仲間達が互いへの感謝と愛情を胸に抱き、新しい一年への願いを込めて祝福の言葉を交わす日!
ダンスなんて下手でもいいよな!
その夜の光景はまるで絵物語のようで、そこかしこに喜びと祝福が満ち、輝いて見えた。
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