第146話 癒やしの奇跡
少年の後を追い、俺はラッキーとミラを連れて簡素な家にたどり着いた。
中からは咳をする声が聞こえた。
気管支とか肺でも悪いのかもしれない。
俺は古びた木の扉をノックをした。
「はい! います!」
すぐに中から返事があった。少年の声だ。
「ちょっと開けてくれ!」
ドアを少し開けて少年が顔だけ出した。
「あれ? さっきの銀貨の人! 悪いけど今は取り込んでいて、かぁちゃんの咳が酷くて」
「俺はそのお母さんの病気の治療に来た!」
「え!? お医者さんだったの!?」
「違うけど多分救えると思う」
「分かった! じゃあかぁちゃんを助けて!」
家に入らせて貰った。
気の毒なほどやせ細った母親はベッドの上で、半身だけ起こして口元を布で覆い、苦しげに咳をして、目は涙目だった。
咳が激しいと苦しいんだよなあ。
俺はすぐに扉を閉めて早足で母親に近寄り、
「ピュリファイ!! そしてヒール!!」
浄化と癒やしの魔法を連続で唱えた。
ウイルスとか雑菌がいるといけないから、まず先に浄化をしたのだ。
手のひらから清らかな光が迸り、母親を中心に部屋に満ちた。
母親の咳が止んだ。
苦しそうにしていた咳が、嘘のように止んだ。
しばし静寂が訪れた。
皆、静かになった母親に注目していた。
「あ……咳が……出ないし、もう胸も苦しくないし、喉の痛みも消えたわ……あなたは一体?」
母親は綺麗ないい声をしていた。
声優みたいだと思ってしまうオタクな俺。
「お、お医者さんすげー!」
さっき医者じゃないって言った気がするんだけど。
まぁ、いいか!
「ありがとうございます、もしや高位の神官様ですか?」
「いえ、でも治ったようなので、これを置いていきます」
俺は魔法のカバンからおかゆのバックを出した。
「これは?」
「袋ごと鍋に入れてお湯とともに温めます、沸騰したら取り出して器に盛って食べてください、ただの病人食です」
もう回復したとは思うが、いきなり豪勢な食事を渡すと胃が驚くかもされないし、なんとなくまだ怖かったため。
「た、食べ物まで分けていただけるなんて」
「あ、ありがとう、おじさん! これっ、俺のっ全財産!」
少年は気がつくと泣いていて、泣きながらお金を差し出して来た。
母親の回復した姿を見て、心底安堵したのかもしれない。
俺はポケットからポケットティッシュを取り出し、2枚取って少年の顔を拭いた。
鼻水も出てたから……。
「レノ、ごめんね、ずっと心配と苦労をかけて」
「君、全財産を俺にあげたら生活に困るのでは?
せっかくのお年玉なんだ、持っておくか美味しい食べ物でも買うといい」
「!!」
少年が驚いた顔をして俺を見た。
あまり他人に優しくされた事がないのだろうか?
おかゆとポケットティッシュとついでにりんごを二つ置いて行く。
「新年、おめでとう」
そう言って扉を開けて出ようとしたら、
「すみません、お名前を!」
母親が慌てて叫んだ。
「カフェ、ルーナ ピエーナの店の者です」
とだけ伝えてクールに去るぜ。
肩にお人形乗せた変なおじさんだけど。
「マスター、果たして店名を伝えたところで高級住宅地に彼らはお礼に来れるでしょうか?」
高級住宅地は富裕層ばかりで庶民は気後れするからな。
「お礼に店に来てほしくて言った訳じゃない、名乗るのが気恥ずかしいから、でも身分は多少明かさないと不審者かなって。
でも万が一、あの二人が将来うちに来れたら、美味しいものでも御馳走するさ」
少し離れたとこにあの二人がチャリに乗って待ってた。
「教会にいれば暖かっただろうに、ミレナはもう体力が回復したのか?」
チャリ激漕ぎでそこそこ近い宿から来たんだろ?
「体力回復のポーションを飲んだわよ!」
おやおや、そんな事でポーションを。
別にいいけど。
「翔太、お疲れ様、癒やしは上手くいった?」
「ああ、情けは人の為ならずだ。
ガチでたまには人助け的なのもやっとくべきだな! あっちでも妊婦さんを病院に連れて行ってたし、何気にポイント稼いでたかも」
俺は、そんなわけで癒やしの力を手に入れた!!
帳面の残りページは三枚になってしまったけど!!
仲間がケガしたり病気になったら自分で救えるからいいと思う!!
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